ブラジル個人所得税の留意点 第一回

2018年 07月 1日

ブラジル 個人所得税

これから6回にわたり、ブラジルの税金に関するいくつかのトピックス、所得税の基礎知識やブラジルの税体系、法人
に関係することまで種々異なる内容を取り上げていく。

第1回から3回までは、仕事のため日本からブラジルに住居を移転する人が知っておきたい「ブラジル所得税」の注意点について解説する(尚、意見に関する部分は、筆者の個人的見解である)。

<基本的な考え方>

ブラジルでの雇用契約に基づき労働査証を取得しブラジルで仕事をする人、及び現地法人の役員などの仕事に就くために永住査証を取得して渡航する人は、入国した日からブラジル居住者とみなされ、それ以降ブラジルで得た収入だけでなく、全世界における収入がブラジルで課税される。

一方、日本の居住者、非居住者の判定基準は、海外滞在予定が1年以上となるかどうかを基準にしている。

海外赴任の予定を税務署に届けると、出国日から非居住者となり、日本で所得があっても日本の課税は行われない。

<短期出張滞在者の課税免除>

技術指導などでブラジルに一時的に滞在する人は、非居住者と呼ばれる。日本とブラジルには、課税権を規定した租税条約があるが、非居住者は、次の条件をすべて満たす時、ブラジルでの課税が免除される。

1. 入国後1年間の滞在日数が合計183日を超えない
2. 給与や賃金がブラジルの法人などから払われなく、
3. 駐在員事務所などに負担させない

過去12か月間に合計183日の滞在を超えた場合は、本人が直接ブラジルの法人から報酬を受け取っていなくても、その人に支払われる日本での給与、賃金などでブラジル勤務に対応する分はブラジルで課税されることになる。

従って一回の滞在が6か月未満であっても、入国出国を繰り返した結果、過去12か月間の合計滞在日数が183日を超えてしまったりすると、法律上は184日目から居住者とみなされ、ブラジルで所得税を払い、確定申告も必要となる。

ただ、ブラジル法人から報酬を受け取っていない場合は183日以上の滞在であっても、現実問題として連邦国税局が居住者か非居住者かを把握するのは難しいと思われるが、納税者は法律の規定を承知しておくことが大切である(注=3の駐在員事務所は認可事項で政府の認可はほとんどされない)。

<日本でも給与を受け取っている場合>

ブラジルに赴任し、現地の勤務先から、給与や役員報酬などを受け取る以外に、日本でも給与の一部を本社が負担するような場合、原則、勤務先の法人が給与はすべて負担すべきとの考えから、日本での給与は出向元からブラジル出向先などへの寄付金とみなされ、日本で税務上、課税されることがある。

ただ、海外出向先の給与との給与格差の補てん目的のような場合は損金(税務上の費用)として認められ、たとえば海外派遣者の1)留守宅手当のような比較的少額の金額、2)出向先が業績不振で賞与が払えないので出向元が負担するなどであれば問題ないようである。

最近では、出向元法人が負担した給与を、本来海外出向先法人で負担されるべき給与の一時立替金と考え、後で出向
先に請求する方針を採用する会社も多くなった。ところが、出向先がブラジルの法人の場合は、ブラジル為替管理規則で、“給与の立替金返済”の名目でブラジルから送金することができないので、注意が必要である。

<日本法人から受け取る役員報酬>

日本の税法により、海外に転勤した役員は非居住者であっても、役員報酬支払い時に 20%の源泉徴収が行われる。日本での役員報酬は海外所得として、受け取った人の課税所得に合算されブラジルで課税される。しかし二重課税となるため、日本で支払った源泉徴収額は、ブラジル所得税から減額できることになっている。

(文/都築慎一、写真/Paulo Pinto)
写真はサンパウロ商業協会(ACSP)の税金メーター

ラヴァジャット ブラジル特報

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