ゼンショーブラジル、「すき家」のブラジル展開戦略

2018年 07月 1日

すき家 ブラジル

ゼンショーホールディングスがブラジル法人を立ち上げたのは2008年のことで「すき家」のブラジル第1号店オープンは 2010年3月だった。現在ブラジル国内で17店舗(2017年6月末時点)を展開している。

ゼンショーホールディングス本体の話をすれば、中国に続く「すき家」事業の海外展開2ヶ国目として、アジアでもアメリカでもヨーロッパでもないブラジルを選んだことは当時周囲を驚かせた。

その後「すき家」事業は世界各国で拡大し、現在日本国内1963店舗、海外252店舗を数え、展開国も8つの国と地域に広がっている(2017年3月末時点)。

事業開始当時も今も、レストランチェーンを運営する企業で100% 日本資本という会社は、ブラジル国内ではゼンショーしか存在せずその特異さは際立っている。しかも世界的に知名度の高い寿司や天ぷらではなく「牛丼」である。

なぜ牛丼なのか?

1. 牛丼は世界のファストフード

日本の主要外食チェーンの店舗数を多い順に上げると、1位「マクドナルド」 2,900 店、2位「すき家」 1,963 店、3 位「ガスト」 1,359 店(2017 年 3 月末時点)となる。

なぜこれだけ店舗数が出せるのか、それは根本的に日本国内で牛丼に需要があるからに他ならない。その消費量の多さからも牛丼は日本のハンバーガーと言っても過言ではない。

事実、ブラジルの「すき家」においても牛丼の人気は非常に高い。そもそも、米と牛肉を食の中心に据える食文化は世界各国にあり、味付けのベースとなる醤油は、今や日本の代表的な調味料として世界中で流通している。その組み合わせである牛丼が世界で売れない理由はない。

2. ゼンショーは牛丼屋ではない

よく勘違いされるが、ゼンショーブラジルはフードサービスの会社ではなく「マーチャンダイジング会社」である。

我々は、「すき家」で牛丼などを売るために当然店舗としての経営資源を有しているが、その店舗で使用する食材は CK(セントラルキッチン)で加工したものを当社の物流にのせて毎日配送している。

また、多くの競合がフランチャイズシステムによる海外展開を進める中で、レギュラーチェーン(直営店。本部も店舗も同一資本の同一会社)での展開を一貫して行っている。これは、先に挙げたマーチャンダイジングの流れに加え、自社内で立地開発、店舗デザイン・レイアウト、施工管理、衛生管理に至るまですべて行っているということである。

立上げ当初はこれらシステムの構築に非常に苦労した。ひとつは、法律・規制への対応である。食材の調達から店舗で
の提供までを一貫してやるというスタイルの会社はブラジルでは一般的でなく、工場から店舗に向け発行する帳票やその際に適応する税制等、ただでさえ各種規制が複雑なブラジルの環境下においてこれらの整備には大きな苦労があった。

また CK のオペレーションについても、スライス肉の技術を始めブラジルにそれまでなかったものを持ち込みよりよく
していく過程において、機器の選定・開発や食材調達等で現在も試行錯誤を繰り返している。これらを支えているのは日本で 1,963 店舗(2017 年 3 月末時点)を出店してきた技術と経験であり、改善を繰り返した結果、ブラジルにおいても競合による模倣を困難とさせ競争優位を確立するに至っている。

3. 日本食チェーンの世界展開

ゼンショーブラジルは2016年度、サンパウロ市内において「すき家」を5店舗新規出店した。2017年度もこのペースを
さらに加速させていくつもりでいる。

我々は、すき家が日本の食文化を発信し続けるレストランでありたいと考えている。世界中にあるすき家で、安全でお
いしい本物の日本食を手軽な価格で食べることができる。そんな価値を発信し続けたい。

およそ 100年前に移民としてブラジルに渡った日本人は、この国の農業発展に多大な貢献をした。その後製造業が様々
な技術を持ち込み、今や日本の電化製品や車をブラジル中で見かけるようになった。

これは日本の文化と技術力がブラジルで受け入れられ、調和的に発展してきたからに他ならない。

そしてここから先はサービス産業がブラジルの発展に貢献するフェーズである。

私たちは日本のサービス産業が国際的な競争力を持っていると確信している。ゼンショーブラジルは、日本食の素晴ら
しさを伝え、その市場を広げていくため今後も進化を続けていく。

(文/藤原美明、写真/麻生雅人)
写真はサンパウロ市内にある「すき家」店内

ブラジル特報 すき家  ブラジル

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