【コラム】ポルトガル語の「Você」の由来
2018年 09月 3日英語のYouに相当する“Você(ヴォセー)”は、ポルトガル語学習者が最初に覚える単語のひとつです。他にもYouに相当する単語として、“Tu(トゥ)”という単語もあります。
Vocêは、このTuの後に誕生した新参者ですが、現在ではVocêの方が一般的な単語になっています。その違いと誕生の経緯をご紹介します。
“Você”は、もともと“vossa mercê”という2単語が変化したものです。“vossa mercê”を辞書で引くと、以下の通り定義されています。
Vossa Mercê (昔の呼称)貴殿
Vossaは「あなたの」を非常に丁寧にした形で、現代においてもフォーマルなe-mailなどでしばしば目にします。一方の、Mercêは恩恵、好意、給与などの意味がありますが、筆者は使われているのを見たことがないです。
既に述べたとおり、ポルトガル語の二人称単数形には、“tu(トゥ)”という単語がありますが、ポルトガル貴族が、”tu”で呼ばれることを好まない場合には“vossa mercê”という表現が使用されるようになりました。
この語彙が人口に膾炙するとともに変化してきました。
Vossa Mercê
↓
Vossemecê
↓
Vosmecê
↓
Vancê
↓
Você(現在)
さらに言えば、地域によってはocê(オセー)やcê(セー)といった口語表現も良く使用されています。なお、チャットアプリなどでは、VCと略して表記されることが一般的です。
ところで、ポルトガルでは“tu(トゥ)”は、家族や子供、幼馴染に対してのみ使用される二人称であり、それ以外の人に使用することは失礼に当たると考えられています。しかし、ブラジルに限って言えば、tuとvocêについて、意味合いに特に大きな違いはないようです。
また、文法的な話ですが、ポルトガル語では、二人称と三人称で以下のように動詞の活用が異なります。
二人称(あなた) tu andas(あなたは歩く)
三人称(彼、彼女)ele anda(彼は歩く)
Vocêは二人称なので、você andasと活用しそうですが、実際にはvocêは三人称の活用が使われるためvocê andaとなります。ブラジル人でもたまにtuを使う人がいるのですが、面白いことに、vocêに引きずられて、tu andaという間違った活用をする場合が多いです。
北部の都市ベレン、マラニョンなどでは、tuを正しく二人称で活用するそうです。一方、サンパウロ、パラナ、ミナスジェライス、マットグロッソ、エスピリトサントなどではそもそもtuを使うことが無いようです。その他の州では、Você もTuも同じような意味合いで使用されています。
外国人としては、あまりtuを使うことは無いですが、tuを使うブラジル人がいたら、出身地を訪ねてみるのも面白いかもしれません。
(文/唐木真吾、写真/Reprodução)
写真はホベルト・カルロスのアルバム「ロウコ・ポル・ヴォセ(あなたに首ったけ)」のジャケット