南米最大の遊郭、ジャルジン・イタチンガ
2018年 11月 13日先日、カンピーナス州立大学に通う日本人のAさんと話していた時のこと。
彼が仲良くなったウーバーの運転手が、カンピーナス空港へ向かうついでに親切にもサンパウロでは有名な遊郭「イタチンガ」に連れて行ってくれたという話をしてくれました。
Aさん曰く、この花街ではどんな顧客の嗜好にも応えるだけの体制が整っており、分かりやすい例としては、ゲイやトランスジェンダーの顧客のニーズにも応えることができるのだとか。
そして、驚いたことに車から通りを眺めるAさんを勧誘してきたのは、上半身に何もまとわぬ女性達だったそうです。
調べたところ、この遊郭は正式名称「ジャルジン・イタチンガ(o Jardim Itatinga)」と呼ぶ地区で、なんでも1969年にできた「南米最大の売春都市」だということがわかりました。
<ジャルジン・イタチンガの歴史>
1960年にカンピーナスの町では工業化が進み、都市の成長に合わせて街娼が増加したことが社会問題化し、住民と街娼との間での軋轢が生じるようになりました。
市では、この問題を解決するべく、1966年から警察による「クリーニング作戦(Operação Limpeza)」が行われるようになりました。
この作戦は、その名の通り警察が無許可で働く街娼を取り締まり、売春宿には別の場所への立ち退きを命じ、市街の「クリーニング」をするというものでした。立ち退きを命じられた女郎さんたちは、1969年、市街から隔離された場所で営業することを命じられました。
こうして、カンピーナス空港のすぐそばにブラジル初の「売春計画都市」が誕生することになったのです。
遊郭が建設された場所にはかつて「白い石(Pedra Branca)」と呼ばれるコーヒー農園がありました。
「白い石」は先住民のトゥピ・グアラニ語で「イタチンガ(Itatinga)」というため、この地域は「ジャルジン・イタチンガ(白い石の庭)」と呼ばれるようになりました。
ジャルジン・イタチンガにあるパカエンブー通りをGoogleストリートビューでバーチャル散歩してみたところ、道の両サイドに街娼らしき女性の姿を発見しました(もちろん、顔は修正されて特定できないようになっています)。
街の中心部から隔離されているので、さながらガラパゴス諸島のように、売春都市として独自の発展を遂げています。
この地では、一年365日・24時間売春サービスが提供されています。
イタチンガで働くプロ達はその多くが若い女性で、お金を稼ぐためにブラジル各地からやってきます。厚生労働センターのデータによると、売春関係の宿が200件程度あり、約2,000人ものプロたちが居るとのこと。2010年の人口は9,500人だったので、人口のおよそ20%がプロ売春婦という凄まじい割合です。
イタチンガに暮らす「プロ以外」の住民は、自宅が売春宿ではないことを示すため、「家族の家(casa de família)」という看板を表示していることもあるとか。その他に、病院や学校なども普通に存在します。
地区内には「女性戦士組合(Associação das Mulheres Guerreiras)」と呼ばれる団体が拠点を構えており、この地で売春行為を行う女性を暴力から守り、健全な労働環境を維持するための活動を行っています。
<ブラジルにおける法制度と課題>
ブラジルにおいては、女性の売春自体は犯罪行為には該当しないようです。
しかし、売春宿など売春行為の提供を業とする者については法律による罰則があります(2~5年の懲役及び罰金の支払い)。
そのため、売春宿で働くことは、違法行為に該当します。唯一の合法な売春方法は、顧客と自宅で売春行為に及ぶことです。この場合でも、家が借家であったり、営業の幇助者が居たりすると、法令違反になります。
売春行為を合法化しようという運動もあるようです。
というのも、売春宿で働くことが違法であるため、そこで働く女性の労働者としての権利保護が十分ではないという問題があるからです。
反社会的勢力が運営する売春宿で働く場合、そこで暴力を受けるリスクもあり得ます。取り締まる側の警察が腐敗している場合、営業を見逃す代わりに運営者の間で贈賄がなされ、利益が労働者に適切に分配されない可能性もあります。
(文/唐木真吾、写真/Reprodução/EPTV)
写真はジャルジン・イタチンガで立ち退きに抗議する住民たち。グローボ系列EPTVより。TVグローボ系列の番組はIPCTV(グローボ・インターナショナル)で放送中。視聴の問い合わせは、080-3510-0676 日本語対応ダイヤルまで