【TIFF】ヤング・フィルムメイカーズ・フォーラムにファブリシオ・ボリヴェイラが参加

2019年 11月 27日

登壇したアドリアーナ・L・ドゥトゥラさん(左)とファブリシオ・ボリヴェイラさん(右)(撮影/麻生雅人)

10月30日(水)、第32回東京国際映画祭の会場となっている六本木アカデミーヒルズで、特別シンポジウム「ヤング・フィルムメイカーズ・フォーラム」が開催された。

このフォーラムは、国内外から若手のプロデューサーや映像作家、俳優などを招いて世界の映画の現状を語り合うというもので、「インフニティ」(18)や「天使たちのビッチナイト」(18)などを手がけたプロデューサーのフェルナンド・ロウレイロさん(アメリカ合衆国) 、 メキシコのグアナフアト国際映画祭のプログラミング責任者ニーナ・ロドリゲスさん、「 海の底からモナムール 」(17)や「東京不穏詩」(18)など国内外の作品に出演する女優の飯島珠奈さんなど、5名の映画人が登壇した。

ブラジルからは、映画監督として“時間”という概念を問うドキュメンタリー「クアワント・テンポ・オ・テンポ・テン」(16)を手掛けているほか、現在は、自らが創設した、世界の10都市で開催しているブラジリアン・フィルム・フェスティヴァルのエグゼクティヴディレクターとして活動しているアドリアーナ・L・ドゥトゥラさんと、俳優のファブリシオ・ボリヴェイラさんが参加した。

ファブリシオ・ボリヴェイラさんはバイーア州出身の俳優で、2015年に第28回東京国際映画祭のコンペティション部門で上映されてグランプリを受賞した「ニーゼ」に出演している。

2018年にはブラジルの国民的大歌手ウィウソン・シモナウの半生を描いた映画「シモナウ」ではウィウソン・シモナウを演じて、大きく注目された。

ニーナ・ロドリゲスさんは、 国際映画祭は世界中の映画人を繋ぐ場であり、映画祭を拠点としてどんどんグローバルな作品づくりが生まれていると語った。

ニーナ・ロドリゲスさん (撮影/麻生雅人)

「現在は、作品をどこか特定の場所で作らなければならないという概念にとらわれる必要がなくなってきていると思います。 グアナフアト国際映画祭をきっかけにさまざまな国との共同制作も生まれています」(ニーナ・ロドリゲスさん)

飯島珠奈さんは、インド出身のアンシュル・チャウハン監督が演出した 「東京不穏詩」に出演したいきさつを紹介した。アンシュル監督はそれまでショートフィルムを撮っていたが長編は 「東京不穏詩」 がはじめてだったという。

「アンシェルさんからぜひ作品を作りたいとショートメールをいただいたのがきっかけでこの映画は、はじまりました。予算も人員も限られたインディペンデント作品で、メイクも自分で行いました」( 飯島珠奈さん )

血のりも、アンシュル監督がyoutubeを見ながら自ら俳優に塗ったという。

左からフェルナンド・ロウレイロさん、飯島珠奈さん、アドリアーナ・L・ドゥトゥラさん、ファブリシオさん、ニーナ・ロドリゲスさん (撮影/麻生雅人)

「血のりをまず自分の顔に塗ってみて、きれいには見せたくないというこだわりで、生々しく見えるよう試行錯誤をしていました。でもインディーズ作品はこういうところが楽しいんです。クルーの人数も少ないので家族のように過ごせます」(飯島珠奈さん)

アンシュル監督と映画作りをスタートさせた時点では、実は異なるストーリーのプロジェクトだったという。

「はじめて監督にあったとき、監督は3つの異なる物語の構想を持っていたのです。私との作品も、当初は異なる物語を想定して進んでいたのですが、お互い話をするうちにこの映画になりました。実際の撮影は10日~2週間くらいでしたが、構想から数えるとだいたい1年くらいかけて作った作品でした」 (飯島珠奈さん)

世界各国のさまざまな映画祭は、インディペンデント作品を世界に発信する場にもなりうる。「東京不穏詩」も「出品できるところには出品しよう」というスタンスでさまざまな映画祭に出品したという。大阪アジアン映画祭では、飯島さんが主演女優賞を受賞した。

「この映画祭では各賞が必ず毎年あるわけではなく、審査員が賞を与えたいと思った作品があったときに賞が贈られるんです。幸い私の演技を気に入っていただけて、主演女優賞をいただくことができました。受賞後、いくつか取材を受けたのですがほとんどが海外のメディアで、日本国内のメディアからの取材のオファーがなかったのが、面白いなとも思いましたし,少し悲しいとも思いました」(飯島珠奈さん)

世界各国の映画祭で話題になっていた「東京不穏詩」は、2020年1月から日本国内での劇場公開が決まった(1月18日よりシアター・ユーロスペースほか全国で順次公開)。

ファブリシオ・ボリヴェイラさんが出演したブラジル映画「ニーゼと光のアトリエ」も、東京国際映画祭でグランプリを受賞したことがきっかけで日本での劇場公開が決まった経緯を持つ。

第28回東京国際映画祭でグランプリを受賞した「ニーゼ光のアトリエ」。後列左から3人目がファブリシオ・ボリヴェイラさん(写真/Divulgação)

ファブリシオ・ボリヴェイラさんは「エリート・スクワッド2」に出演したときのエピソードを語った。

「私の役は格闘シーンがあったため、アメリカ合衆国のファイティング専門の振り付けの先生について2カ月トレーニングを行ってから撮影に臨みました。難しい場面えしたがリアルに感じられるように演じました」(ファブリシオ・ボリヴェイラさん)

フォーラム終了後、ファブリシオさんに最近の作品について伺った。

最新主演作「ブレービ・ミラージェン・ド・ソウ」(エリッキ・ホッシャ監督)も今年(2019年)公開されたばかりだ。この映画はブラジル、アルゼンチン、フランスの共同制作となっている。

「これは私が関わった中で最も美しい映画です。ミクロとマクロの関係を描いています。父親の存在と国家の存在が、平行に進む物語です。BFIロンドン映画祭など、国際映画祭にも出品しています。ぜひ日本の映画祭でも紹介したいと思っています」

話題となったブラジルの国民的人気歌手ウィウソン・シモナウの伝記映画「シモナウ」もまた、映画祭を通じて世界に知ってほしい作品だという。

ウィウソン・シモナウを演じた映画「シモナウ」(写真/Divulgação)

「『シモナウ』はアドリアーナ(・L・ドゥトゥラ)がマイアミやトロントの映画祭に出品しました。日本にも出品できるようお願いしているところです。この映画は人種の違い、社会階層の違いを描いた作品です。世界とコミュニケーションできる作品だと思っています」

映画「シモナウ」でファブリシオさんは、ウィウソン・シモナウを演じた。劇中で流れる歌は、すべて本物のシモナウの歌声だという。

「映画に出演するにあたり、私は歌を習いました。ただしそれは、観客が、まるで私が歌っているかのように見えるよう演じるためです。シモナウが歌っているとおりのトーンで歌う練習をしたのです。シモナウはブラジルで最もいい声をした歌手のひとりですから、私がその声を彼からとるなんて考えられません。すべてダビングです。でも私が歌っていると思ったジャーナリストもいましたから、演技は成功したといえるでしょう(笑)」

(文/麻生雅人)