フェスタジュニーナ名物「ホットワイン」と「ケンタォン」の違いとレシピ

2025年 06月 12日

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カシャッサを使ったホットドリンク「ケンタォン」(写真/azerbaijan stockers)

ブラジルでは6月になると、全国各地でフェスタジュニーナ(6月祭り)が開催される。この月に、聖アントニオ、聖ペドロ、聖ジョアンというカトリックの聖人の記念日が集中していることから、一か月を通してさまざまな催しが開催される。

6月といえば、南半球のブラジルでは秋が終わり冬が始まる季節。トウモロコシの収穫時期でもあるため、お祭りでは、トウモロコシを使ったいろいろなお菓子やごちそうが並ぶ。そしてこのお祭りに欠かせないのが、ホットワインとケンタォンという、お酒を使った暖かい飲み物だ。

ホットワイン(ヴィーニョ・ケンチ)はその名の通りワインで作られ、ケンタォンはブラジルの国民酒カシャッサで作られる。ただし、主にサンパウロより南では、ホットワインをケンタォン・ジ・ヴィーニョ(ワインのケンタォン)、あるいは、そのままケンタォンと呼ばれたりもする。

このホットワインとケンタォンの違いや歴史についてを、現地のさまざまなメディアが紹介している。

「CNNブラジル」は両者の違いについて、識者のコメントを紹介している。

2018年に「ヴェージャ・サンパウロ」誌の「キッチンシェフ・オブ・ザ・イヤー」を受賞している料理人・パティシエのエロー・バセラールは、ケンタォンは、カシャッサをスパイスで味付けして作り、北東部では非常に一般的。ホットワインはブドウの果実から作られているという。

食文化史を専門家とするサンパウロ州立カンピーナス大学(Unicamp)のエリアーニ・モレリ・アブラォン教授は、どちらの飲み物もブラジルの南部、南東部、北東部で、より一般的だと語る。

「ケンタォンを準備して楽しむ伝統は、当初はブラジルの南部と南東部でより一般的だったと言えます。しかし、16世紀には大規模な(サトウキビ)生産が北東部に集中したため、この飲み物がすでにそこで消費されていた可能性も否定できません」(エリアーニ・モレリ・アブラォン教授)

教授によるとケンタォンは、植民地時代にに誕生した飲み物だという。当時はワインが入手しにくかったため、ヨーロッパでは一般的だったホットワインを作る際、代わりに現地で豊富にあるサトウキビから作られるカシャッサが使われたという。

「ワインは船でブラジルに運ばれてきましたが、当時は船の往来に時間がかかり、価格も高かったため、あまり普及しませんでした」(同)

一方、「ローリングストーン」ブラジル版や「カーラス」、「コンチーゴ!」など人気メディアを擁するグローバル・メディア・グループ「ペルフィウ」が運営する歴史情報サイト「アヴェントウーラス・ナス・イストーリア」では、ケンタォンの名前の由来を紹介している。

民俗学者でブラジル文学アカデミー会員、1920年に書かれた「カイピーラへの道」の著者でもあるアマデウ・アマラウ(1875-1929)によると、「ケンタォン」という言葉はサンパウロ内陸部の住民によって作られたもので、この言葉は19世紀後半からサン・ジョアン祭(フェスタジュニーナ)の記録の中にすでに登場しているという。

また、同じく民俗学者でジャーナリストのジョアン・ヴァンプレー(1868-1949)も「ケンタォン」について記しているという。

20世紀には、フェスタジュニーナのお祭りが国内の北から南まで規模と人気が拡大していく中、「ケンタォン」も新聞の話題に欠かせない飲み物として扱われるようになり、1ページを割いてまで特集されるようになったという。

1944年のリオデジャネイロ出版「オ・クルゼイロ」には、「聖アントニオ、聖ペドロ、聖ジョアンの祭りで決して忘れられなかった古典的なケンタォンは、フェスタジュニーナのごちそうに関する一連のレシピに必ず登場します。弱火で温めて、磁器か陶器のカップで提供してください。金属製のカップは風味を損ないます」と、記されているという。

ワインがカシャッサに取って代わられて誕生した、いわば“カシャッサ版ホットワイン”の「ケンタォン」。

しかし、サンパウロ州を含む南東部や南部など一部の地域では、フェスタジュニーナの時期には、今でもケンタォンとホットワインがどちらも作られ続けている。

「アヴェントウーラス・ナス・イストーリア」は、「実際、ホットワインをケンタォンと呼ぶブラジル人もいますが、これは間違いではありません。南部では特にそうですが、おそらくホットワインの供給量が多いためでしょう。ホットワインの生産は、特に(南部に多く移住した)イタリア人移民によって始まりました。北部と北東部では、ブラジル特有の飲み物であるカシャッサを使ったケンタォンが一般的です」と紹介している。

以下は、シェフのエロー・バセラールによる「ホットワイン」と「ケンタォン」のレシピ。

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「ホットワイン」(写真/freepik)

●「ホットワイン(ヴィーニョ・ケンチ)」

<材料>

テーブルワイン赤・辛口/750ml
水          /カップ 1杯(240ml)
粗糖または一般的な砂糖/カップ 3/4(125g)
3㎝のショウガ一片を輪切りにしたもの
3cmのシナモン一片を粉にしたもの
クラーヴォ      /4個 
スターアニス     /1個
広めに切ったライムの皮(タヒチライム、ラングプールライム、またはシチリアレモン、白い部分を除く)
皮付きのリンゴ2個、角切り(赤リンゴ1個と青リンゴ1個でも可)

<作り方>

1:ワイン、水、砂糖、生姜、シナモン、クローブ、アニス、レモンの皮を中くらいの鍋で溶かし、加熱する
2:強火にして沸騰したらすぐに最低温度まで下げ。ぶくぶく泡立てるのを避ける
3:アルコールの特性を保ちながら、ワインが美味しく香り立つようになるまで、この状態で10分間保ちます
4:角切りリンゴを加え、果物が温まるまで2〜3分待つ
5:火からおろし、サーブする

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「ケンタォン」(写真/freepik)

●「ケンタォン」

<材料>

カシャッサ      /1瓶(約1リットル)
水          /コップ2杯(480ml)
砂糖         /コップ2杯(300g)
リボン状に切ったオレンジの皮、白い部分を除いたもの12枚(または他の柑橘類、みかんまたはライム)
棒状のシナモン大型  /1片
ローリエの葉     /1枚
5cmのショウガを粗めに輪切りにする

<作り方>

1:鍋に柑橘類の皮、水、砂糖、シナモン、ローリエ、生姜を入れ、火にかけて溶けるまでかき混ぜる
2:沸騰したらカシャッサを加える。アルコールが完全に蒸発しないように弱火で煮詰める
3:注意: 側面が少し泡立ってきたら、さらに 10 分間放置する(非常に香りが立つ)
4:火からおろしサーブする
※シェフのおすすめ:ケンタォンはサーブする12時間前までに準備しておくこと。それ以降は苦くなってしまう可能性がある

(記事提供/カシャッサ・カウンシル・ジャパン、文/麻生雅人)