シリーズ「危険なルート:生計と移動手段のために危険を承知でバイクに乗るブラジル人」第五回(後編)
2025年 08月 11日
リオ市保健局ダニエウ・ソランス局長によると、市はバイクによる衝突、ひき逃げ、転倒事故の被害者への対応に、年間1億3千万レアル以上を費やしている。これらの被害者の最も一般的なのが、男性で、年齢が23歳から33歳の若者、そして低所得者層居住地域の住民となっている。事故が最も多く発生する時間帯は、午前7時から9時の通勤・通学時間帯だという。
この傾向は、全国的な統計とも一致している。
ブラジル保健省の「死亡情報システム」によると、2010年から2023年の間に発生したバイク事故による死亡者のうち、56.5%が20歳から39歳の若者だった。また、約70%が教育歴11年未満(つまり高等教育未修了)であり、61.2%が黒人層だった。
2024年に保健省が実施した調査「暴力・事故監視プログラム調査2024」では、全国の救急医療施設で4万2千件のインタビューが行われた。その予備データによると、交通事故の被害者のうち5人に1人がアプリを通じて働く労働者だったことが、全国交通安全会議で報告された。
応用経済研究所(Ipea)の調査・企画研究員であり、交通工学博士でもあるエリヴェウトン・ゲヂス氏によると、アプリを通じたオートバイによる旅客輸送サービスの拡大は「予見されていた悲劇」であり、、健康への深刻なリスクを伴うことから、こうしたサービスの制度化(規制による合法化)は当局によって検討されるべきではないと警鐘を鳴らしている。
「いかなる制度化も、結果的にはこうしたサービスを助長することになりかねず、数多くの規則を守りさえすればすべてよし、という誤った印象を与える可能性すらあるのです」とゲヂス氏は語る。
ゲヂス氏は、『暴力白書2025』における交通事故死の項目に関わった責任者のひとりでもある。同白書によると、「現在、交通事故における最大の被害者はオートバイ利用者である」とされている。2019年から2023年の間に、オートバイによる事故の犠牲者数は11,182人から13,477人へと増加した。
汎米保健機構(Opas)ブラジル支部のヴィトール・パヴァリーノ交通安全および非意図的傷害予防担当調査官は、公共交通から自家用の動力交通手段への移行を抑制する必要があると考えている。
そのためには、公共交通の拡充、運賃無料制度の導入、そして徒歩や自転車による移動の促進といった、社会全体に影響を及ぼす施策が求められる。こうした移動手段を支えるには、歩行者やサイクリストにとってより魅力的で安全な都市空間の整備が不可欠だという。
「ある意味、現在オートバイに起きている現象は、ブラジルに限らず、非常に多くの人々が、長年にわたって公共交通へのアクセスが困難な環境に置かれているため、利用可能な手段として(オートバイに)頼っているのです」とパヴァリーノ氏は指摘する。
「だからオートバイを使うべきではない、あるいは使ってはならないと一概に言うのは難しいのです。というのも、例えばファヴェーラ(スラム街)のような場所では、オートバイが唯一の移動手段であり、家に帰るため、あるいは生計を立てるための手段になっている人が非常に多いのです」と交通安全の専門家は付け加えた。
リオデジャネイロ州モーターサイクル従業員組合のアウフレッド・バルボーザ・ジ・リマ組合長は、オートバイ運転者およびバイクタクシーの乗客の交通安全教育を強化する必要があるという。
彼の考えでは、それには全国運転免許証(CNH)の取得を容易にすることや、同乗者が運転者の妨げにならないようにバイクに乗るための基本動作を具体的に指導することなどが含まれている。
「私はこれまでに17回バイク事故を経験しました。そこで気づいたのは、事故防止のための指導があまりにも基本的すぎて、十分ではないということです」と彼は語る。
同氏は8年間にわたり、業界組合を通じて配布されるガイドブックを作成してきました。
「誰も不合格にならない、防衛運転の講習が必要です。バイクの操作技術は、時間をかけて身につけるものなのです」
(記事提供/Agência Brasil、構成/麻生雅人)