COP30議長のアンドレ・コヘア・ド・ラーゴ大使が、成果と今後のアクションについてスピーチ
2026年 03月 19日

3月4日(水)~5日(木)、日本とブラジルが共同議長を務め、2002年から毎年東京で開催されている「『気候変動に対する更なる行動』に関する非公式会合(略称:日伯非公式会合)」(第24回)が三田共用会議所にて開催された。
この会合は、各国の気候変動交渉の実務担当者(首席交渉官級)が非公式な形で率直な議論を行うことを目的としており、次回のCOP(締約国会議)に向けた方向性が話し合われる場でもある。
今年の会合では、本年11月9日から20日にアンタルヤ(トルコ)で予定されている国連気候変動枠組条約第31回締約国会議(COP31)に向けて、緩和、適応、実施手段等の分野について交渉の方向性や課題について話し合われた。
会合にはトルコ(COP31議長国)、豪州(COP31副議長国兼交渉議国)、ブラジル(COP30議長国)、アゼルバイジャン、カナダ、チリ、キプロス、デンマーク、フランス、ドイツ、インド、イタリア、アイルランド、日本、マーシャル諸島、メキシコ、ニュージーランド、ノルウェー、パラオ、パナマ、韓国、サウジアラビア、シンガポール、スイス、東ティモール、英国、欧州委員会の実務担当者が参加した。
会合で議長を務めた、第30回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP30)議長のアンドレ・コヘア・ド・ラーゴ大使と、ブラジル外務省気候変動局長であるリリアン・シャーガス大使が3月6日(金)、駐日ブラジル大使館で記者会見を行い、COP30や日伯非公式会合の成果、COP31に向けてのロードマップなどについて語った。
2013年から2018年に渡り駐日ブラジル大使を務めたアンドレ・コヘア・ド・ラーゴ大使は「この大使館に再び戻って来られたことを大変うれしく思います」と挨拶を行った後、スピーチを行った。

<アンドレ・コヘア・ド・ラーゴ大使のスピーチ>
今年は、気候変動対策に関する日伯非公式会合が開催されて 24年目 となります。この会合は、ブラジルと日本が「会議終了後、早い段階で交渉官同士が議論する場を設けることが重要だ」と判断したことから始まり、COPの約2か月後に毎年実施されてきました。この24年間、年初に行われる最初の気候変動対話、そして交渉の最初の総括の場が、常に東京で行われてきた ということになります。
まず、この伝統が維持されていることを大変うれしく思います。今回の会合は、ブラジル側から私とリリアン・シャーガス大使が共同議長を務めましたが、日本側からは中村亮大使にもご参加いただきました。
予定どおり、非常に率直な対話となりました。気候変動交渉には、非常に独特な表現や略語が多く、またその論理構造も非常に複雑です。今回の非公式対話では、そうした複雑さから少し離れ、現在起きていることについて、よりリラックスした率直な意見交換ができたと感じています。

リリアンが、COP30の成果の一部を簡潔にまとめた資料を作成してくれました。ここに示されているものには3つの柱があり、これはブラジルがCOPにおいて提示した重要な貢献の一つです。つまり、COPには複数の次元が存在するという考え方です。
COPはもちろん、各国代表団が交渉を行う場ですが、それと同時に「アクション・アジェンダ」と呼ばれる領域があります。ここには、交渉権限を持たない主体、たとえば地方自治体、企業、市民社会団体(NGO)などが参加します。そして第3の次元が「政治的次元」です。
政治的次元とはどういう意味かというと、COPで議論されるテーマはすべて全会一致で合意されなければならないということです。つまり、交渉の俎上に載せるためには、まずその議題が全会一致で採択されなければならないのです。そのため、議題は大きく制約されます。気候変動はあらゆる分野に影響を及ぼすテーマであるにもかかわらず、実際に交渉で扱えるのは、交渉官が合意したアジェンダに限られるのです。だからこそ、政治的次元も非常に重要になります。
ルーラ大統領とCOPで何ができるかを議論し始めた際、大統領はまず「多国間主義を強化したい」と述べました。それは1年半ほど前のことです。しかし、今日の世界情勢を見れば、そのメッセージがいかに重要であったかがよく分かります。国連という、全会一致を必要とする非常に複雑な交渉の場が、56もの決定を採択することに成功したのです。これはそれ自体が大きな成果です。多くのCOPでは、いくつかの議題が先送りされたり、翌年に持ち越されたりすることが珍しくありません。
COP30では、ブラジルが昨年初めに提案した精神「ムーチラォン(mutirão)」 のおかげで、大きく前進することができました。ムーチラォンとはブラジル先住民由来の言葉で、「皆が集まり、それぞれが自分のできることをしながら、共通の目的に向かって協力する」 という意味です。
つまり、全員が同じことをする必要はありません。それぞれが自分の役割を果たしながら、最終的な目標を共有するという精神です。
このムーチラォンの精神のもと、まず正式交渉の規範的な側面で大きな成果を上げることができました。多くの点で前進し、多数の決定を採択することができたのです。

アクション・アジェンダの面でも、COPがより実行段階に踏み込める場になったことを、私たちは世界に示すことができました。「実施(implementation)」という言葉は多用されがちですが、今回の違いは、私たちがその論理そのものを変えようとした点にあります。
つまり、新しいテーマを議論するのではなく、すでに合意されていることをどう実施に移すかに焦点を当てようと考えたのです。
COPは30年の歴史があり、パリ協定以降だけでも10年分の決定があります。膨大な合意事項があるのですから、まずはそれらに立ち返り、すでにコンセンサスがある内容を実行することが重要だと考えました。
今回のアクション・アジェンダは、その意味で非常にうまく機能しました。アクション・アジェンダを、将来の交渉ではなく、現在の交渉結果と結びつけたのは今回が初めてです。このアプローチは高く評価され、今後5年間はブラジルがCOP30で導入した同じ方式が採用されることになりました。
また、アクション・アジェンダには、これまで非公式に合意されていた取り組みが数多くありましたが、誰もその進捗を確認していませんでした。そこで私たちは、地方自治体、企業、市民社会など、非国家主体による400以上のコミットメントをすべて再確認し、体系的に整理し直しました。
その結果、アクション・アジェンダは名実ともに「実施」を意味するものとなりました。私は、今回のアクション・アジェンダは非常に強力で、成功したものだったと考えています。そして交渉の中で私たちが決定したことの一つが、「アクセラレーター(accelerator)」と呼んでいる新たな仕組みを創設することです。
この「アクセラレーター」は、交渉に新しい論理を導入するものです。つまり、あるテーマについてコンセンサスが得られていなくても、ほぼ合意に近いところまで来ている取り組みについては、その作業を進めている国々を支援しようという考え方です。
もしコンセンサスを待ち続ければ、科学が示すスピードに逆行してしまいます。科学は、私たちがもっと迅速に行動しなければならないと警告しているからです。
この点について、参加した 194か国すべてがアクセラレーターに賛同したことは非常に大きな成果でした。これにより、実施(implementation)の考え方そのものが変わりました。交渉は国際法や規範の前進を扱うものであり、そこではコンセンサスが必要です。しかし、実施は各国が個別に決定できる領域です。
したがって、実施は1か国でも、20か国のグループでも、140か国の連合でも進めることができます。
私たちはこの仕組みに新たな地位を与え、いわば 各国連合(coalitions)をCOPのダイナミクスの中に正式に位置づけたのです。
そして、先ほども触れた3つの柱は、1つ目が「実施(implementation)」、2つ目が「アクション・アジェンダ」、3つ目が「政治的次元」です。
この政治的次元は、ルーラ大統領が特に強調したいと考えていた部分です。大統領は、コンセンサスは重要だが、議論の幅を狭めてしまうと感じていました。また、COPでの議論が人々の日常生活からあまりに遠く、何が起きているのか理解されにくいとも考えていました。
そこで政治的次元を設けることで、ルーラ大統領は、過去のCOPで採択された2つの重要な決定――化石燃料に関する決定 と 森林破壊に関する決定――がその後十分に進展していないことについて、改めて国際社会に問題提起することができたのです。
ドバイではすでに、化石燃料からの移行が必要であること、そして 2030年までに森林破壊を終わらせなければならないこと に合意しています。であれば、行動するために新たなコンセンサスを待つ必要はありません。すでに合意されているのですから。

そこでブラジル議長国は新しい提案として、ロードマップの策定を進めています。もちろん、各国との協議はオープンに行っています。
3日前には、気候変動枠組条約事務局がすべての締約国および各コンスティチュエンシー(利害関係グループ)に対し、ロードマップへの意見提出を求める招請文を送付しました。
私たちは現在、このロードマップをブラジルで作成しており、最終版はCOP31の前に提出する予定です。
つまり、ルーラ大統領が求めていた 政治的な後押しを行い、気候変動対策にとって極めて重要な取り組みを加速させようとしているのです。
そして私たちはCOPで行われた議論を推進するだけでなく、オーストラリアとトルコとともに、COP31議長国とCOP30議長国の双方に関わる決定にも参加しなければなりません。
そして当然ながら、トルコで開催される次回COPに向けて、アクション・アジェンダと実施(implementation)をさらに強化するための作業を進めています。
また、先ほど申し上げた化石燃料に関するロードマップと森林破壊に関するロードマップの2つを現在準備しています。アゼルバイジャンとブラジルの間で、2035年以降、途上国向けに年間1.3兆ドルを動員するための資金ロードマップを提示しました。しかし、このロードマップを作成する過程で最初に分かったのは、必要な数値がまだ十分に揃っていないということでした。より精緻なデータが必要なのです。
そのため、昨年の「1.3兆ドルロードマップ」を補完する新たな章を今年作成しており、これを完成させていく予定です。この新章も年内に公表します。
東京会合の後も、多くの会合が続きます。たとえば、ベルリンで開催される伝統的な「ピータースベルク対話」がありますし、その他の対話の場も予定されています。
私たちは、資金面の議論があるため、ワシントンで開催される世界銀行・IMF会合にも参加します。
そして年の半ばには、例年どおり ボン会合 が行われます。気候変動枠組条約(UNFCCC)の事務局はドイツのボンにありますので、毎年この時期にCOPに向けた準備会合が開催されます。私たちもそこで積極的に活動する予定です。
その後も、ロンドンでの クライメート・ウィーク、ニューヨークでの クライメート・ウィーク と続きます。
また、国連総会の期間中には、毎年気候変動に関連する多くのイベントが行われます。昨年は、総会期間中だけで 500件以上の気候関連イベント がニューヨークで開催されました。
私たちは、プレCOPまでのすべてのイベントに、COP議長国として参加し続けます。今年のプレCOPは、オーストラリアが太平洋諸島と協力して開催し、フィジーで10月に実施される予定です。
そして11月には、トルコのアンタルヤで開催されるCOPに向けて、より準備が整った状態で臨むことになります。このように、今年は非常に多くの議論が続く一年となります。
ロードマップについては、9月の国連総会、もしくは プレCOP(10月) のいずれかで提示できる見込みです。
(以上、アンドレ・コヘア・ド・ラーゴ大使のスピーチ)
アンドレ・コヘア・ド・ラーゴ大使に続き、リリアン・シャーガス大使が、アンドレ大使のスピーチを補足した。

<リリアン・シャーガス大使のスピーチ>
先ほど大使が述べた点に補足させていただきたいのですが、3つの柱(政治的成果、交渉面での成果、実施面での成果)それぞれの最初の項目が「交渉から実施への移行」になっていることに注目していただきたいのです。
なぜそのように位置づけているのか。
それは、多国間の気候変動レジームが、いま大きな転換期を迎えているからです。そして、ブラジルで開催された COP30 はまさにその転換点を示す場となりました。
COP30 は、パリ協定の「政策サイクル」が初めて完全に整った状態で迎えた最初のCOPだったのです。2015年のパリ協定から10年。195の締約国が、この協定を機能させるために必要な 規則、基準、メカニズム、ツール を整備するまでに、丸10年を要しました。
つまり、ブラジルでのCOP30は、協定を実際に運用するためのすべての規範・制度が初めて揃った瞬間 だったわけです。
では、パリ協定の政策サイクルで基本となるのがNDC(国が定める貢献)です。NDCとは、各国(協定の締約国)が5年ごとに提出する義務を負う気候政策 のことです。そして、提出するたびに前回より前進していなければならないというルールがあります。NDCがパリ協定の中心的要素であり、各国の気候政策の核となるものです。
パリ協定がもたらした最大の変化は、気候政策の「普遍化」 です。つまり、パリ協定によって、すべての国が以下を含む計画を持つ義務を負うようになりました。「排出削減」、「気候変動の影響への適応とレジリエンス構築」、「低炭素開発へ向けた資金フローの方向づけ」です。
昨年ブラジルで開催されたCOP30を特徴づけたのは、交渉による規範づくりから、各国が気候政策を実行するための支援体制づくりへと移行する転換点だったということです。
パリ協定の政策サイクルは、2024年の COP29(バクー) で完成しました。
そして 2025年(COP30) は、協定のすべての要素が揃い、実際に機能し始めた最初の年でした。
そのため、私たちは今、「実施モード」へ移行しているのです。
つまり、「新たなコミットメントや規則を交渉する段階」は終わり、「各国、特に途上国が自国の気候政策を実行できるよう支援する仕組みを整える段階」に入ったということです。

パリ協定の政策サイクルは次の3つで構成されています。
各国は 2年ごとに、今年もそのタイミングにあたりますが、排出削減の進捗を報告する義務があります。
そして NAP(国家適応計画:National Adaptation Plans) も同様に、パリ協定に基づき各国が策定しなければならないものです。
これは、気候変動の影響から自国の国民や社会を守るための適応策をまとめた計画です。
こうした一連の仕組みが ベレンでのCOP30 で明確になり、私たちはいま、協定の新しい段階に入っています。この転換期こそが、COP――気候変動枠組条約締約国会議――が世界中から数万人を引きつける巨大な国際イベントへと成長した理由でもあります。
ベレンでは 4万人の政府代表団 が参加し、全体では 約7万人 が集まりました。政府代表団だけでなく、企業、民間セクター、学術界、市民社会など、公式交渉とは別に広がる「パラレルCOP」が存在するためです。
こうした背景から、私たちは現在、交渉から実施への移行を支えるメカニズムづくり に取り組んでいます。
最後に、この転換を象徴する成果の一つとして、ベレンで 「公正な移行(Just Transition)」のための新たなメカニズム が設立されたことを挙げたいと思います。これは、化石燃料に依存する経済から、再生可能エネルギーやクリーンエネルギーを基盤とする経済へ移行する国々を支援するための仕組みです。
私たちは今、まさにこの新しい段階に入っています。昨年はその「立ち上げ」の年であり、今年はこの転換を 確実に定着させる年 です。それを、11月の次回COPで達成したいと考えています。
(文/麻生雅人)



