ブラジル、中国主導の「世界AI協力機構(WAICO)」の創設文書に署名
2026年 08月 2日
【8月1日、ブラジリア】ブラジルは、今年7月に中国・上海を本部として設立が発表された「世界AI協力機構(WAICO)」の創設文書に署名した29か国の一つとなった。WAICOの目的は、オープンソースモデルを基盤とした国際的なAIガバナンスの構築であり、企業や組織が技術を自由に取り入れられる環境を整えることにある。
中国が主導するこの構想は、米国が推進するAIの将来像「パックス・シリカ(Pax Silica)」とは対照的だ。米国の構想は、半導体・重要鉱物・エネルギーのサプライチェーンを「信頼できる同盟国」で囲い込み、管理することを目指している。
ブラジルのAI専門家らは、WAICOがブラジルにとってデジタル主権を確立する重要な機会になり得ると指摘する。ただし、そのためには国内の基盤整備が不可欠だと、ABC連邦大学(UFABC)のセルジオ・アマデウ・ダ・シウヴェイラ教授は強調する。
社会学者でもあるアマデウ教授は、ブラジルは世界でも限られた国しか持たない高度な大学研究拠点を有しており、AI開発において有利な立場にあると述べた。
「ブラジルはより自律的で独立した開発の道を見いだすことができます。中国との協力を深めるべきなのは確かですが、同時に自国の戦略を構築する必要があります」と評価した。
アマデウ教授は、ブラジルがAIの重要インフラや国内で生成されるデータの主権を確立できなければ、中国との協力を十分に活かすことはできないと警告する。
アマデウ教授は具体例として、大学でAI研究プロジェクトに1,000万レアルの予算が与えられた場合、現状ではその半分をAmazonやHuaweiなどの外資系クラウドサービスの契約に費やさざるを得ない現状を挙げた。
「国内に研究者や大学、政府が利用できるインフラがないため、外国のビッグテックを支える形になってしまうのです。データ処理や保存のための自前のインフラを整備し、強力な計算能力を国内で確保する必要があります」と述べた。
AIガバナンス専門家で、AI人材育成を支援する団体Pluresの創設者エットーレ・アルピニ氏は、ブラジルは中国と西側の双方の取り組みに関与できる立場にあり、AI地政学において重要な役割を果たし得ると指摘する。
「重要なのは、AIを単なる一分野として捉えないことです。AI政策や規制だけでは不十分で、AIを地政学的・経済的な優位性として理解し、国民の繁栄を押し上げる潜在力として捉える必要があります。こうした機会は国家の歴史の中でもそう多くは訪れません」と締めくくった。
ブラジル政府は、人工知能(AI)分野において中国モデルにも西側モデルにも依存すべきではないとの立場を示しており、ブラジルのデジタル主権確立につながるあらゆる国際的取り組みと対話を維持していると説明している。
多国間フォーラムの場では、ルイス・イナーシオ・ルーラ・ダ・シウヴァ大統領が、AIは「一部の国の特権や、富豪による操作の道具になってはならない」と強調してきた。さらに大統領は、「すべての国家が席を持つ、政府間のAIガバナンスが必要だ」と訴えている。
専門家らは、AIが電気やインターネットと同様に、経済生活のあらゆる領域を横断する技術になると指摘する。
中国・上海で行われたWAICOの発足式に出席した国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、AIは「21世紀における人類最大の機会となり得る」と述べる一方で、「最大のリスクにもなり得る」と警告した。
「人類の未来を形づくる技術は、人類全体によって形づくられなければならない。少数の国や少数の企業が支配してはならない。すべての国が議論の場に参加する必要がある」(アントニオ・グテーレス事務総長)
<Pax Silica ― 米国のAI戦略>
米国が推進する「Pax Silica」は、AIとサプライチェーンの安全保障を軸とした国務省主導の取り組みで、同盟国や「信頼できるパートナー」とともに、半導体、重要鉱物、データ、エネルギーなどAIを支える基盤の支配を強化する構想だ。
この構想は、すべての国がAIガバナンスに参加するというWAICOの理念とは対立する。ワシントンはAIを「世界的権力構造の柱」と位置づけており、サプライチェーンの掌握を通じて主導権を維持しようとしている。
ドナルド・トランプ政権の見解は、米国務省経済担当次官補ジェイコブ・ヘルバーグ氏が発表した論考で明確に示されている。
ヘルバーグ氏は、国連やブラジルを含む多くの国が掲げる「デジタル主権」構想を批判し、次のように述べた。
「国連は、各国が最低限のAI能力――自国のコンピューター、自国のデータ、自国のモデル――を国内で開発・管理する世界へ向かっている」
ヘルバーグ氏は、この考えは魅力的に見えるが逆効果だと主張する。各国は、すでに巨大テック企業が構築したインフラを活用した方が利益が大きいと述べた。
「国連の道を進めば、各国が手にするのは『デジタル主権』ではなく、縮小版の“均質な凡庸さ”だ。各国が過去の技術革新を再構築している間に、米国企業は未来を発明しているだろう」
(記事提供/Agência Brasil、構成/麻生雅人)


