「年金改革案の採決は11月」…ブラジル財務相がコメント
2017年 10月 12日テメル政権の構造改革の一つに年金制度改革がある。受給開始年齢の引き上げを含めた改革案は、ブラジルの財政再建の柱ともいうべき重要な法案だ。新制度への移行が実現することにより、国家歳出は2018年以降の10年で7400億レアル(約26兆円)削減できるともいわれる。
その法案採決時期についてブラジル財務相がコメントを発表した。
グローボ系ニュースサイト「G1」は10月5日、年金制度改革法案の採決は11月にずれ込むだろう、とのエンヒッキ・メイレリス財務相の談話を伝えている。
談話は同日、サンパウロで行われたブラジル民間非公開年金協会(ABRAPP)の会合を終えたメイレリス財務相に対する囲み取材の中で出てきたものだ。
当初、財務相は法案の採決時期について10月中との見通しを語っていた。
見通しを変えた要因として、連邦公共省がミシェウ・テメル大統領に対して二度目の告発を起こしたことが影響しているという。この告発に対して議会が10月中に大統領任期中に捜査を受けるべきか否かについて採決を行う必要が出てきた。
「現在、我々は年金制度改革法案の採決は11月と見ています。これはまさに今議会で起こっている騒動に起因しています。今の議会で最優先されるのは連邦公共省の告発に対する対処についての採決で、これは10月の終わりまでに行われるものとみています。その次に優先されるのは間違いなく年金改革法案の採決になります」(メイレリス財務相)
年金改革法案の成立はメイレリス財務相にとっても主要な課題で、法案が成立しなければ歳出予算が固められないと語っている。
また財務相は2018年のブラジルの経済成長率について『3%に近い2%台』と述べた。
10月5日、財務相は連邦税の分割払い、納期限延長交渉を個人・法人に認める暫定措置が上院で可決されたことについても触れた。この暫定措置法にテメル大統領が署名するか拒否権を発動するかについてはまだわからない、と述べた。
「この暫定措置が施行されれば、税金の回収額は今年で30億レアル(約1050億円)、来年で9億レアル(約315億円)減少すると見ています。いずれにしても当面推移を注視していく必要があります」(メイレリス財務相)
暫定措置の原案は下院で修正され、これにより徴税額は圧縮され、支払いを渋る納税者に有利な内容となった。一方上院は宗教団体に対する免税に関する条項を外した。
財務相は最近取りざたされている経済社会開発銀行(BNDES)との対立についてジャーナリストから質問を受けた。財務相は過去にBNDES勘定に入った1億8000万レアル(約63億円)の国庫への返金を求めている。
BNDESはすでに33億レアル(約1155億円)の国庫への返金を予定しているが、加えて17億レアル(約600億円)を年末までに連邦公共省にも支払わねばならない。BNDESの頭取、パウロ・ハベ―ロ・ヂ・カストロ氏は10月4日、概算で1億3000万レアル(約10億5000万円)の2018年度分国庫返納額について『あり得ない金額』と述べた。
財務相はこの発言に対して、組織の長たるもの、組織の利害を守ろうとするのが常、とし、財政担当スタッフらがBNDESからの回収額について議論を重ねていると伝えた。
「我々が伝えるべきことはすでに伝えてあり、こちらからの提案の内容は銀行側のリソースに配慮した、実現可能なものとの認識です。とはいえ銀行側からすれば、自分が払う金額を最小限にする方向で交渉するのは当たり前のことです」(メイレリス財務相)
財務相は最終的に決議するのはBNDESの経営会議であり、その議長は予算管理省からの出向者で、会議のメンバーには財務省からの出向者も含まれている。
「すでに資金使途が決まっている項目を無視することはできませんが、優先順位をつけて取り組んでいかねばなりません」(メイレリス財務相)
また財務相は2018年の大統領選への出馬を改めて否定した。
「前にも言った通り、私は今目の前にある財務相としての職務に専念します。ブラジルを再び、確実に成長路線に乗せることが最優先です。今から6か月、8か月後のことを考えるのに時間を使うつもりはありません」(メイレリス財務相)
不退転の覚悟を語る財務相と政局混乱への便乗に明け暮れる議員たちのギャップもまたブラジルのもつ多様性、というべきか。
(文/原田 侑、写真/José Cruz/Agência Brasil)
写真はエンヒッキ・メイレリス財務相