ブラジル、年金改革法案関連の政治家発言に株価指数、乱高下
2017年 11月 16日2017年10月、連邦公共省からの起訴要求を退け、ブラジル議会はテメル政権の改革の本丸、新年金制度案の審議・採決に向けて動き出した。
年金制度改革は今後の政府の歳出コントロールと長期金利に影響するため、経済界もかたずをのんで審議の行方を見守っている。
グローボ系ニュースサイト「G1」が11月12日づけで伝えたところによると、11月6日から10日までの1週間のサンパウロ証券取引所株価指数(以下「Ibovespa」)は、政府要人の発言に合わせて乱高下したという。
以下は1週間のIbovespa終値と対ドル相場およびそれぞれの前日比変動率。
11月6日(月)
Ibovespa 74,310ポイント 前日比+0.53%
1ドル3.259レアル 前日比-1.45%
この日の取引時間中は特に年金制度改革に関する発言はなし。
11月7日(火)
Ibovespa 72,414ポイント 前日比-2.55%
1ドル3.277レアル 前日比+0.55%
前日の引け後にテメル大統領が年金改革法案が成立しない可能性について言及したことからこの日のIbovespaは大幅安で引けた。下落幅は5月18日、テメル大統領が食肉業界汚職に直接的に関与したという証言が出た日の下落率8.80%に次ぐ下げ幅だった。
11月8日(水)
Ibovespa 74,363ポイント 前日比+2.69%
1ドル3.2639レアル 前日比-0.40%
テメル大統領、メイレリス財務相から相次いで年金制度改革法案の成立に向けて準備を進めているとの発言があった。また、政府は法案成立に向けてしっかり交渉を進めていくと発表したことでIbovespaは上昇した。
11月9日(木)
Ibovespa 72,930ポイント 前日比-1.93%
1ドル3.259レアル 前日比-0.12%
前日の大幅な上昇の反動で下落。反落の要因は国外に起因するものだったが、年金関連では政府内で会合があったものの、特に進展を示す情報はなかった。
11月10日(金)
Ibovespa 72,167ポイント 前日比-1.05%
1ドル3.2805レアル 前日比+0.63%
年金改革法案成立とバランスシート適正化について予断を許さない議会の雰囲気の中、Ibovespaは続落した。
投資会社グラドゥアウ・インベスチメントスのチーフエコノミスト、アンドレ・ペルフェイト氏によると、年金改革法案をめぐるニュースが証券相場の乱高下を引き起こしているのは、この改革が実現することにより、将来にわたって歳出が削減でき、長期金利を下げられ、企業に対する投資への魅力が増すからだという。
「金利が下がると株式投資に資金が向かいます。というのは低金利により資金調達コストが下がり、企業は積極的に設備投資を行い企業業績は増益に向かいます。好決算の企業が増えると取引所が活性化し、さらに資金が流入します」(ペルフェイト氏)
同氏はまた年金制度改革は国庫に恩恵をもたらすだけでなく、政府の存続可能性を高めるという重要な役割を果たすのだという。
ブラジルは2013年以降、基礎収支が黒字化していない。つまりは歳入額を超えた支出がなされているということで国庫はずっと赤字の状態が続いている。今年、来年の財政目標は赤字を1590億レアル(約5兆5000億円)でとどめることだ。年金制度改革は財政健全化策の一つで、改革が実現すれば中長期的な財政状態の改善が見込まれる。
改革が始まらない場合、ブラジルの財政状況をつぶさに見ている格付け機関によるブラジル国債の格付けはさらに下がる。国債の格付けが下がると金利が上がり、それと連動して市中金利も上がることになる。金利が上がれば株式市場から資金が遠のき、投資環境にはネガティブに働く。
10日(金)、格付け会社のフィッチはブラジル国債の格付けを投資適格レベルから2つ下のランクに据え置いた。フィッチによると年金制度改革法案の可決が不透明な点と財政赤字の大きさゆえに据え置きの決断をしたとのことだ。
「ブラジル経済は回復傾向が続いているとはいうものの、中期的な財政の不健全さと議会での改革に関する審議が進まない点を考慮しました」(フィッチ)
株式市場のボラティリティを高めた要因の一つが海外情勢だ。ペルフェイト氏によると、Ibovespaの乱高下に影響した点として年金制度改革法案の動向以外に、サウジアラビアで贈収賄の疑いで10人以上の王族が拘束された事件が挙げられる。
中東の主要産油国での政情不安は石油価額およびブラジル石油公社(以下「ペトロブラス」)など石油関連企業の株価にも影響する。
また、今はちょうど企業の第3四半期決算発表の時期で、企業決算がアナリスト予想より上回ったか下回ったかで株価が変動し、Ibovespaにも影響している状況だ。
年金制度改革がいかにブラジルの将来に強い影響力を持っているかが浮き彫りになった1週間だった。改革法制の成立に向けて議会工作が難航することも予想されるが、今がまさにブラジルは運命の分かれ道にあるのかもしれない。
(文/原田 侑、写真/Alan Santos/PR)
写真は11月16日、ブラジリアでグローバルビジネスウィークの開会式に出席したテメル大統領