サッカー大国ブラジルが見た日本代表のW杯
2022年 12月 23日
FIFAワールドカップ カタール大会のサムライブルーは、いざ蓋を開けてみると、強豪国2つを破ってベスト16へ進出。大会が始まる前の前評判を吹き飛ばす活躍を見せてくれた。
PK戦で涙を飲んだものの、静かだった大会前とは打って変わって、日本国内では大いに盛り上がった。
そんな今大会の日本代表、海外ではどのように見られていたのだろう。
今回は世界最大の日系移民を持ち、世界最多5度のワールドカップ優勝を誇るサッカー王国ブラジルのメディアやSNSでの反応をまとめてみた。
一昔前まで、ブラジルではサッカーが下手な人を“ジャポネース(日本人)”というあだ名で呼ぶ時代があった。その当時は、世界一のサッカー王国の人たちからすれば、国内プローグ(Jリーグ)すら無く、ワールドカップに一度も出たこともない国の人々のことをそんなふうに思っても仕方がなかったのかもしれない。実際、日系移民の人たちの興味は野球が主流であって、サッカーにおいてはレベルの違いがあって当然だったのだ。
もちろん、現在の評価は変わりつつある。しかし、今大会における評価は予想以上に高い。
○ドイツ戦、スペイン戦
–「ドイツを倒してくれた」。
今大会、ブラジルで日本を称えるキッカケになったのは、まずはドイツ戦の逆転勝利だった。
ドイツは、前回の大会では一次リーグ敗退、大会前のFIFAランクは11位と低迷気味とは言え、それでも優勝回数4回を誇る伝統国。当然、今大会も優勝候補には挙げられていた。
そんなドイツを逆転で下した日本代表に、ブラジル人たちは日本人に負けずエールを送った。
この評価には、2014年自国開催のワールドカップ準決勝で1-7の大差で敗北を喫し、大いにプライドを傷付けられたドイツへの、恨みが晴れたような爽快感もあったとは思う。
もうひとつ、すでにイタリアが予選で敗退している今大会でのドイツの敗退は、世界最多5度の優勝がブラジルだけとなった事が確定した瞬間でもあった。
あの三苫の1ミリが奇跡の1ミリとして、実は地球の反対側のブラジル人をも大いに沸かせていたのだ。
さらにスペインまで倒した時にはTwitter上に山のように日本代表に関するツイートが見られた。そして「日本をリスペクトしないといけない」というツイートが何千回とリツイートされた。
◯クロアチア戦
さて、日本が敗れてしまったクロアチア戦をブラジルはどう見たのか?
PK戦での敗退を不運とするか、メンタル面や実力不足と捉えるかは日本国内でも賛否が分かれている。
ここではブラジル最大級のメディア「グローボ・エスポルチ」の報道を紹介しよう。以下、この試合のレポートの要約である。
「お互い試合序盤の3本のシュートだけで、その後は拮抗した状態だった。試合の大半は緩いリズムだった。クロアチアはポゼッション、日本はミスを突いてゴールに迫った」
「そんな中、前田大然がコーナキックの流れからのこぼれ球を押し込み、42分に日本代表が先制。VARでオフサイドか確認が入ったが、変更はなく、日本リードで前半を終えた」
「後半になっても交代は無かったが、クロアチアには反応があった。9分にロブレンがアーリークロスを上げ、ペリシッチがヘディングで1対1の同点にした。前半の緩いペースは終わって素早い攻撃に変わり、20分で10本のシュートがあった。日本の遠藤のシュートはリバコビッチのナイスディフェンスに阻まれ、その後権田の輝きでモドリッチのミドルシュートは防がれた」
「その後も両チームチャレンジをしたが、ゴールという結果には結び付かなかった。延長戦ではお互いにリスクを避けた。延長前半の谷口のヘディングと、モドリッチの交代時の拍手があった」
「三笘のシュートは決まりかけたが、リバコビッチが止め、ネットを揺らさず1-1の同点は続いた。延長後半では疲労が顕著で、ネットが揺れる事は無かった」
「PK戦ではクロアチアは3人が決めて1人が外した。反対に日本は浅野だけが決め、南野、三苫、吉田のシュートはGKリバコビッチに防がれた」
試合の流れを伝える主観を排した内容ではあるが、客観的な報道だからこそ伝わるニュアンスもある。
この記事からは、試合は互角か、延長戦においては日本がやや有利と読み取れるのではないだろうか。
また、個人が運営するブログの中に、ドイツ戦での日本のプレスを賞賛する記事も見かけた。
◯スタジアム清掃
毎度のワールドカップで、日本代表選手のロッカールームの清潔さや、サポーターの人たちによるスタジアム清掃の事が世界中で称賛の対象になっていると、日本のメディアで目にする。
実際に海外のメディアでも話題になっているのだろうか?
少なくともブラジルでは、ブラジル代表の試合結果ほどの大きなニュースではないものの、スタジアムの清掃に関しては、やはり賞賛の声が上がっている。
直接ブラジルの友人から言われることもあるし、SNSや報道でもある程度、反応はある。
各試合の後にスタジアムのゴミを拾った事は勿論、「オ・グローボ」では、コスタリカ戦では、チームカラーである青いゴミ袋を持って応援していた事もニュースとして扱われていた。
Twitterで300万人以上のフォロワーを誇る「ESPN BRASIL」も日本のサポーターを「模範」と報じた。
これからも試合結果と共に、行動と態度でも世界に誇れる日本でありたい。
日本代表のワールドカップでの次なる挑戦は4年後となるが、2年後のパリ五輪、そしてもちろん、これからのJリーグの動向も楽しみだ。
(文/平安山良太)
著者紹介:平安山良太(へんざん・りょうた)。サッカー指導者、強化部、通訳として海外クラブやJリーグを歴任(ブラジルではコリンチャンス、ECバイーア、国内では名古屋グランパス、FC琉球など)。現在はファジアーノ岡山の強化部兼通訳。