ブラジルはまたもベスト8の壁を破れず。前大会と同様、準々決勝で散る

2022年 12月 12日

Brasil Croácia pelas quartas de final da Copa do Mundo Catar 2022
12月9日(金)、カタール、エドュケーションシティスタジアム。ブラジル対クロアチア(写真/Lucas Figueiredo/CBF)

この結果に対して、何と表現すればよいだろうか。しばらく虚脱感から抜け出せなかった。

12月9日(金)と10日(土)(日本時間10日(土)と11日(日))の2日間、2試合ずつ、ベスト4をかけた準々決勝が行われた。

ブラジルはその先陣を切って、9日(金)19:00(日本時間10日(土)深夜0:00)にカタールのエドュケーションシティスタジアムで、日本をPK戦の末破ったクロアチア相手にベスト4を賭けた戦いを行った。

ブラジルの先発は、前試合の韓国戦と同じ顔触れ。ただひとつ違った点は、2試合目で負傷したアレックス・サンドロが復帰してベンチに入ったことだ。一方のクロアチアは前試合の日本戦から2人を変えてきた。

定石通りに考えれば、FIFAランキング1位のブラジルと12位のクロアチアでは、ブラジルが優勢と思われるだろう。しかし、サッカーとはわからないものである。試合はブラジルが攻め、クロアチアが守るという図式になるかと思ったが、前半はほとんど互角の戦いとなった。

前半、ブラジルはペースを握れずに過ぎ去ってしまった感じだ。ボールがキープできないのだ。クロアチアペースで進んだと言えるだろう。両者ゴールは決められず、0-0で折り返した。

後半、メンバーチェンジはなかったが、ブラジルは開始から猛攻を仕掛けてきた。しかし、クロアチアもカウンターから惜しいシーンをつくり出しており、ヒヤッとするシーンもあった。

猛攻を仕掛けるが、なかなかペースをつかみ切れないブラジルはいつもより早く動く。

55分に右のウイングをハフィーニャからアントニーに変える。

そして、63分には左ウイングのヴィニシウスからロドリゴに変える。ロドリゴはネイマールやリシャーリソンのように髪を銀色に染めていた。

ブラジルは猛攻を仕掛け決定機をいくつもつくるが、クロアチアのGKリバコビッチが悉く跳ね返す。

そして、83分にはゴールゲッターのリシャーリソンに代えペドロを投入した。

結局、90分間でゴールは決まらず延長戦に入った。

ゴールは決まっていないが、ブラジルはペースを握れるようになり、決定機を何度もつくることはできるようになっていた。

延長戦に入っても、ブラジルの猛攻は続くが、フィニッシュがどうしても決められない。

そんな中、延長前半のATにネイマールがPA内に切り込み角度のないところからゴールを決めたのだ。

やっと神懸っていたクロアチアのGKリバコビッチの関門を突破することができたのだ。静かだったブラジルファンの観客たちも大喜びだった。

ネイマールはこのゴールがブラジル代表で77ゴール目となり偉大な先輩のペレに並んだ。さすが、この大舞台でメモリアルゴール決めるのがネイマールとこの時は思ったのだが・・・。

延長前半のATも終わり、残りは延長後半の15分。

多くのファンがブラジルは守り切れると思っただろう。

しかし、サッカーは何が起こるかわからない。守るにしても15分間はとてつもなく長く感じられる。

延長後半開始と同時に、ブラジルはミリトンからアレックス・サンドロ、ルーカス・パケタからフレッジへ交代した。これで、初戦に続き、サントス黄金期の3人、ネイマール、ダニーロ、アレックス・サンドロが同時にプレーすることとなった。

ブラジルは完全に守りに入っていた。CKを得てもキープに入っていた。

しかし、とんでもないドラマが待ち受けていた。

試合終了まであと4分という116分、クロアチアにゴールが決まってしまったのだ。

カウンターからシュートを打たれ、きれいにゴールマウスの中にボールは入っていってしまったのだ。CBマルキーニョスに当たり少しコースが変わったのもブラジルにとっては不運だった。

その後、ブラジルは急にギアを上げ、120分にはアントニーがファウルをもらいネイマールがFKを蹴ったが決まらず、ATが2分あったがゴールを決められず、延長戦終了のホイッスルが鳴った。トータルスコア1-1となりPK戦で決着を決めることになった。

PK戦はクロアチアが先攻、ブラジルは後攻になった。

クロアチアは全員が成功。

ブラジルは1人目のロドリゴが止められる。2人目カゼミーロ、3人目ペドロは決めたが、4人目マルキーニョスの蹴った球はゴールポストに当たり外側に跳ね返ってしまった。

ブラジルの敗退が決まった瞬間だった。

ブラジル人選手たちは気の毒なほどにうなだれていた。

特にネイマールは、最年長のダニエウ・アウヴェスに慰められていたが、今大会に賭ける思いは人一倍強く、悲しみぶりは尋常ではなかった。

それにしても、サッカーとは何て残酷なものなのだろうか。

今大会のブラジルはFIFAランキング1位で臨み、グループリーグから試合内容も充実しており、優勝候補の筆頭と言われていたが、こんなに早く大会を後にすることになってしまった。結果的に、前回ロシア大会と同じベスト8での敗退となってしまった。

しかし、これがサッカーなのだ。ブラジルにとってみれば残念極まりない結果になってしまったが、サッカーではこのようなことは往々にして起こることである。

サッカーは、3分の1ぐらいは運もあると思っている。90分もしくは延長戦を含めた120分を通してそんな運をいかに呼び寄せるかである。

PKがすべて運だとは思わない。しかし、運による部分も少なくないと筆者は考える。

PKの練習を徹底すればいいという意見もあるだろう。しかし練習に練習を重ねても、実際の試合では緊張感の度合いが違う。多くの場合、選手たちは120分間プレーしたうえで、極限の状態で蹴らなければならないのだ。平常心ではとても蹴ることはできないだろう。

PKを外した選手を批判することは絶対にできないし、こんな状況で、勇気を持って蹴ってくれたということだけでも、本当に素晴らしいことだと思う。

試合中のPKキッカーを任されているネイマールは、当然5番目のキッカーだったはずだ。2016年、地元開催だったリオ五輪の決勝もPK戦での決着になったが、その時は5番目で最後のキッカーとなったネイマールが決めて優勝が決まったことを思い出す。

今回のブラジル代表には、私自身もとても思い入れの強いものだった。ブラジル在住中にスペクタクルなサッカーを魅せ続けてくれていたサントスのネイマール、ダニーロ、アレックス・サンドロが揃って選ばれそれもレギュラーとして3人同じピッチに立ち戦っていた。それだけで鳥肌が立つほどに嬉しいことだった。

そして、今年6月国立競技場で行った日本との親善試合では取材もさせていただいた。チチ監督の会見にも参加し、チチ監督とブラジルチームの空気感を実際に体感することができたことは鳥肌ものだった。一サッカーファンとして何もできるわけではないのだが、このチチ監督のセレソンには何としても優勝してほしいと思っていた・・・。

残念だが、現実を受け入れるしかない。

ブラジル国民からのこれ以上ないほどの大きな期待を背負った選手やチーム関係者たちのショックは言葉では言い表せないぐらい大きなものだろう。選手たちがショックから立ち直れるかどうかとても心配だ。

結果は残酷なものだったが、選手たちは十分に戦ってくれたと思う。

今後、4年後のW杯に向けてブラジル代表の体制も新しく動くことになるだろう。ネイマールがセレソンでプレーするかどうかもわからない。

お疲れさまでした、と心からいいたい。そして、ありがとう。十分に休んで、心身の疲れを取り、またクラブで活躍してくれることを願うばかりだ。

ブラジル代表の選手たち、監督、チーム関係者に対して、今伝えたいことはそれだけである。

(文/コウトク)

著者紹介

コウトク

2005年6月~2012年6月まで仕事の関係で、ブラジルに在住。ブラジル在住当時は、サッカー観戦に興じる。サントス戦については、生観戦、TV観戦問わずほぼ全試合を見ていた。
2007年5月のサンパウロ選手権と2010年8月のブラジル杯のサントス優勝の瞬間をスタジアムで体感。また、2011年6月のリベルタドーレス杯制覇時は、スタジアム近くのBarで、大勢のサンチスタと共にTV観戦し、優勝の喜びを味わった。

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