カタールW杯決勝トーナメント1回戦。韓国相手にゴールショーでブラジルが魅せた

2022年 12月 6日

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12月5日(月)、カタール スタジアム974。ブラジル対韓国戦(写真/Lucas Figueiredo /CBF)

12月5日(月)22:00(日本時間6日(火)早朝4:00)にカタール、ドーハのスタジアム974で、ブラジル対韓国の決勝トーナメント1回戦が行われた。これは日本代表がクロアチア相手の熱闘を戦い終えてから約1時間後だった。

それにしても日本は本当に惜しかった。前大会準優勝のクロアチア相手に十分戦ったと思う。120分の死闘を繰り広げたが決着がつかずPK戦に敗れベスト16での敗退が決まってしまった。これで、準々決勝でのブラジル対日本という夢の対戦は実現せず、ブラジルが勝っても韓国が勝っても、次はクロアチアと戦うことが決まってしまった。

日本時間では平日の夜中から早朝にかけて行われたので、2試合ともリアルタイムで見た人は少ないかもしれない。日本人として、ブラジルと日本を同じように応援している身として、日本代表が負けてしまった直後に行われるこの試合を迎えるに当たり、何とも言えない脱力感のようなものを感じてしまっていた。

何はともあれ、この試合に集中しよう。

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12月5日(月)、カタール スタジアム974。ブラジル対韓国戦(写真/Lucas Figueiredo /CBF)

この試合、ブラジルにとって嬉しいことがあった。何と初戦に負傷し戦列を離脱していたネイマール(パリ・サンジェルマン)とダニーロ(ユヴェントス)が戻ってきたのだ。これは大きなニュースだ。

ブラジルの先発はほぼ初戦と同じだった。左SBのアレックス・サンドロ(ユヴェントス)だけは戦列を離れているため、右SBが定位置のダニーロが左SBに入り、右SBにはミリトン(レアル・マドリード)が入った。

韓国は、開幕直前に怪我をしたエースでキャプテンのソン・フンミン(トッテナム)がフェイスガードをして出場していた。

開始早々から、韓国の積極的な攻勢が目を引いた。世界王者のブラジル相手でも決して一歩も引かず、自分たちのスタイルであるパスサッカーでチャンスをうかがっていた。

しかし、すぐに底力で勝るブラジルのペースで試合は進むようになる。

そして早々の7分、ブラジルがいとも簡単に流れるような攻撃からゴールを決めたのだ。

右サイドを突破したハフィーニャ(バルセロナ)がゴール前にクロスを入れ、ゴール前に密集していたリシャーリソン(トッテナム)、ネイマール、ルーカス・パケタ(ウエストハム)を通り越し左サイドにいたヴィニシウス(レアル・マドリード)がワントラップして落ち着いて決めたのだ。

グループリーグではなかなかゴールを決められなかったブラジルだったが、決勝トーナメントに入ったこの試合では、いとも簡単にゴールを決めたのだった。ブラジルにとって前半にゴールを決めるのは今大会で初めてでもある。このゴールでかなり気持ち的に楽になったことだろう。

そしてその2分後に、リシャーリソンがPA内で倒され、ブラジルにPKが与えられた。

キッカーはもちろんネイマールだ。これを落ち着いて決め、開始10分で早くも2点目が入った。ブラジルにとっては思ってもいないほど楽な展開になった。

早くも2点のビハインドになった韓国だったが、ボールをつなぎ積極的な攻撃を繰り広げた。そんな中、プレミアリーグで活躍するファン・ヒチャン(ウルヴス)が豪快なミドルシュートを打った。枠内に飛んだボールはGKアリソン(リヴァプール)が弾いたが、目の覚めるような一撃だった。韓国のすごいところは、どんな状況になっても決してあきらめないことだ。

しかし、底力で勝るブラジルは、再びじわりじわりと攻撃を仕掛けペースを握った。

27分にはリシャーリソンが魅せた。

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12月5日(月)、カタール スタジアム974。ブラジル対韓国戦(写真/Lucas Figueiredo /CBF)

ゴール前PA少し外側でボールを持ったリシャーリソンは2,3度ヘディングしてボールをキープし、マルキーニョス、そしてチアゴ・シウヴァと渡り、最後は再びゴール前に走り込んだリシャーリソンがボールを蹴り込んでゴールが決まったのだ。美しい流れるようなゴールまでの軌跡だった。

ゴールを決めたリシャーリソンはピッチ上で選手たちと輪になって喜び、その後ベンチに走り寄ってチチ監督も一緒になって踊っていた。監督まで巻き込んだこういう光景を見るととてもほほえましく思う。やんちゃ坊主たちが学校の先生を乗せて一体となって楽しんでいるような感じだ。

その後、33分にはルーカス・パケタが4点目のゴールを決めた。ルーカス・パケタも踊りながら喜んでいた。

ブラジルは30分ちょっとで4つもゴールを決めた。決勝トーナメントでここまでの展開はなかなかないだろう。

チチ監督のダンスもそうだが、これらのゴールシーンとその後のセレブレーションを見て、やはりブラジルはサッカーとサンバの国だということを再認識させられた。リズム感がほかの国の選手たちとは格段に違っているように感じられる。

ブラジルはその後も多くのチャンスをつくり、あと2,3点入ってもおかしくない展開だったが結局、前半は4-0で終了した。

ブラジルにとっては願ってもない展開に持ち込むことができた。

今のブラジルの力からすると、4点あれば安泰だと思われ、後半開始から攻撃のメンバーを中心にかなりメンバーを変えてくるかと思った。しかしながら、意外にもハーフタイムでの交代はなかった。

後半もブラジルの支配が続いた。開始早々にいきなり決定機を迎えたがゴールは決まらず。しかしその直後、ソン・フンミンがきわどいシュートを放った。これもGKアリソンが弾きゴールにはつながらなかったが、韓国は4点差があってもあきらめることなくチャンスをうかがっていた。

ブラジルの選手交代は、62分にミリトンからダニエウ・アウヴェス(プーマス)。71分にダニーロからブレーメル(ユヴェントス)、ヴィニシウスからガブリエウ・マルティネッリ(アーセナル)。そして最後の交代を79分に2人、ネイマールからロドリゴ、そして何とGKアリソンからウェヴェルトン(パウメイラス)へ行った。

この試合で復帰したネイマール、ダニーロは問題なく動けていたようで安心した。復帰戦だったのでもう少し少ないプレー時間でもよい気はしたが、70分強十分に動けることを確認できよかったと思う。

79分の最後の2枚の交代にはしびれた。

今回のW杯に選出された26名のメンバーでまだ出場できていなかった唯一の選手がGKのウェヴェルトンだった。GKは通常3名選出されるが、多くの場合、正GKは固定され、第2、第3のGKには出場機会が与えられない。しかし、チチ監督は、前試合で第2GKのエヴェルトン(マンチェスター・シティ)を使い、この試合では、第3GKのウェヴェルトンを最後の10分間出場させたのだ。これは大量得点のリードがあったからこそできたことではあるが、この心意気にはグッとくるものがある。

GKの途中交代といえば、2006年ドイツ大会の日本相手のグループリーグ最終戦を思い出す。

第3GKのホジェリオ・セニが途中出場し、会場がどっと沸いた。当時、ホジェリオ・セニは常勝クラブ サンパウロの名物GKだった。FKやPKのキッカーも務め100点以上のゴールを決めておりブラジルでも人気が高かった。そんな心意気ができるのは情に厚いブラジル人気質からなのだろうか。ほかの国では見たことがないと思う。ウェヴェルトンも嬉しかったことだろう。

また、同時に行われた、ネイマールからロドリゴへの交代も印象に残るものだった。

ネイマールもロドリゴもルーツは同じサントスで、年齢は9つ違う。今大会で代表引退も囁かれるネイマールは「セレソンの10番はロドリゴに託したい」と発言するほどである。そんな新旧サントス出身のヒーロー同士の交代も印象深いものだった。

76分に韓国はパク・スンホ(全北現代)が豪快なミドルシュートを決め一矢を報いる。

ブラジルは終始攻撃で圧倒するものの、後半はゴールを奪うことなく終了した。

結局4-1でブラジルが勝ち、準々決勝進出を決めた。後半ゴールを決めることはなかったが、快勝と言っていいだろう。

ベンチにいたネイマールも笑顔を見せていた。

そしてネイマールとダニーロは、サッカーの王様 ペレを称える横断幕を掲げた。

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12月5日(月)、カタール スタジアム974。ブラジル対韓国戦(写真/Lucas Figueiredo /CBF)

数日前に、ペレが、がんの化学療法を中止し緩和ケアに入ることが発表された。そんな闘病中のペレを励まそうと、セレソンのメンバーたちは横断幕を掲げたのだ。

やはり、サントスの後輩ということでネイマールとダニーロが掲げる役を引き受けたのだろうか。

病院のベッドで見ているペレもこの勝利には喜んだことだろう。ペレを励ます意味でも、ブラジルはこの調子で勝ち進んでいってほしいと思う。

ブラジルの次の試合は、12月9日(金)19:00(日本時間10日(土)深夜0:00)に日本を破ったクロアチアと準々決勝を戦う。

あと少しのところで相手が日本になっていてもおかしくないことを思うと残念でならないが、こうなればブラジルを全力で応援したいと思う。

(文/コウトク)

著者紹介

コウトク

2005年6月~2012年6月まで仕事の関係で、ブラジルに在住。ブラジル在住当時は、サッカー観戦に興じる。サントス戦については、生観戦、TV観戦問わずほぼ全試合を見ていた。
2007年5月のサンパウロ選手権と2010年8月のブラジル杯のサントス優勝の瞬間をスタジアムで体感。また、2011年6月のリベルタドーレス杯制覇時は、スタジアム近くのBarで、大勢のサンチスタと共にTV観戦し、優勝の喜びを味わった。

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