プラスチック汚染に関する法的拘束力のある国際条約、合意に至らず
2025年 08月 18日
10日間にわたる交渉が行われた末、プラスチック汚染(海洋環境を含む)に関する法的拘束力のある国際文書(条約)の策定を目的とした政府間交渉委員会(INC)の第5回会合第2部「第5回政府間交渉委員会再開会合(INC5.2)」は、条約文に関する合意に至らないまま中断された。
この報に対し、ブラジルの外務省(MRE)、環境・気候変動省(MMA)、開発商工サービス省(MDIC)は懸念をもって受け止めたことを8月17日(日)に公表した。委員会は、交渉の再開時期については今後決定すると発表した。
第5回政府間交渉委員会再開会合(INC5.2)は、2025年8月5日から14日にかけてジュネーブで開催された。ジュネーブの国連本部「パレ・デ・ナシオン」では、184か国の国連加盟国、関係国際機関、NGO等約3700人が参加したとのこと。
「ジョルナウ・グランジ・バイーア」によると、会期中には、非公式の円卓会議やコンタクトグループも設けられ、プラスチックの設計、有害化学物質、生産制限、資金調達、遵守メカニズムなどのテーマが議論された。
環境省などによると日本からは、中田宏環境副大臣が関連会合に出席した他、経済産業省(福本拓也GXグループ審議官他)、外務省(中村亮地球規模課題審議官他)、環境省(小野洋参与、小川眞佐子特別国際交渉官他)、農林水産省(西浦博之輸出・国際局審議官他)から構成される政府代表団が出席した。
INC-5.2の目的は、前回の会合(INC-5.1)で議長から提示された改訂草案を整理し、さらなる準備が必要な未解決の課題を特定することだった。委員会議長であるルイス・バヤス・バルディビエソ・エクアドル大使は、目標達成には至らなかったものの、国際社会の取り組みへの意志は揺るがないと述べた。
政府間交渉委員会(INC)事務局のジョーティ・マトゥール=フィリップ局長は、今回の会合によって今後の課題が明確になり、それに立ち向かうための決意が新たにされたと述べた。この条約は、国連環境総会(UNEA)で採択された決議5/14を起点としており、プラスチックのライフサイクル全体を対象とする法的拘束力のある措置と自主的措置の両方を策定することを目的としている。
「G1」によると、会合の最大の争点は、プラスチックの世界的な生産削減と、有害化学物質に対する法的拘束力のある規制の導入に関する提案だったという。
この提案は、EU、英国、カナダ、そして多くのアフリカ・ラテンアメリカ諸国による連合が支持していた。一方、石油・ガス産出国は、業界への制限に反対し、条約はリサイクル、廃棄物管理、再利用、製品設計に限定すべきだと主張した。
「G1」は、このような戦略は研究者たちから否定されており、リサイクルだけではもはや汚染危機を食い止めることはできないと指摘されていると報じている。
最新の草案では、製造制限の文言は削除されていたものの、現在の生産・消費水準が「持続不可能」であることは明記されていた。さらに、「これらの水準は廃棄物管理能力を超えており、今後さらに悪化する傾向があるため、世界的に協調された対応が必要である」とする文言が追加されたという。
<各国の反応>
各国の反応に多雨して「G1」は以下のように伝えた。
「我々の意見は反映されていない。合意された枠組みがなければ、このプロセスは正しい道を進めず、危険な方向へと滑り落ちる恐れがある」とクウェートの交渉官は述べた。
中国代表団は、プラスチック汚染の終息を「マラソン」に例え、今回の交渉決裂は一時的な後退であり、合意形成への新たな出発点だとした。
キューバ代表は「歴史的な機会を逃したが、我々は前進し、迅速に行動しなければならない。地球と現在・未来の世代にはこの条約が必要だ」と語った。
環境、水資源、循環経済競争力に関するEUコミッショナー(欧州委員会のメンバー)のジェシカ・ロスウォル委員は、草案がEUの要求には届かないものの、次回交渉に向けた良い出発点だと評価した。
パラオは、39の小島嶼開発途上国を代表して交渉に費やした努力にもかかわらず「国民に示せる進展が乏しいまま帰国することの繰り返し」に対する不満を表明した。
<ブラジルの対応>
ブラジル代表団は、交渉に積極的かつ建設的に参加し、各国間の対立がある中で、プラスチック汚染への対応に関する異なる立場を調和させるためのバランスの取れた提案を擁護した。
ブラジルは、資金調達、保健、国際協力、公正なエネルギー移行といった戦略的分野において提案を行い、先進国による途上国への適切な支援の重要性と、廃品回収労働者の根本的な役割の認識を強調した。
また、先住民族、伝統的なコミュニティ、貝類採取者、小規模漁業者などの人権保護と促進に向けた取り組みも擁護した。
公正なエネルギー移行に関する議論の進展は、労働者団体やリサイクル業界の代表者から好意的に受け止められ、廃棄物処理に関わる何百万人もの人々の社会的・経済的な重要性が評価された。
ブラジルの中間的な立場は、対立する見解の橋渡しを促し、特に汚染の影響が大きいプラスチック製品や人間の健康へのリスクといったセンシティブなテーマにおいて、交渉の円滑化に貢献した。しかし、会合は一定の進展があったものの、限られた時間の中では、プラスチック汚染対策に関する国際的な合意には至らなかった。
<今後の行方>
現在、条約に提案を盛り込むには全加盟国の同意が必要とされている。インド、サウジアラビア、イラン、クウェート、ベトナムなどは、条約の有効性には全会一致が不可欠だと主張。一方で、他の国々は投票による意思決定への移行を求めている。
「我々は堂々巡りをしている。同じことを繰り返していては、違う結果は得られない」と、グリーンピース代表グラハム・フォーブス氏は語った。
国連環境計画(UNEP)のインガー・アンダーセン事務局長は、課題はあるものの重要な進展があったと評価し、「このプロセスは止まりませんが、条約の完成までにどれほどの時間がかかるかはまだ不明」と述べた。
「私たちが期待していた条約文には到達できなかったものの、プラスチック汚染との闘いは続きます——それは水中でも、河川でも、土壌でも、そして私たちの身体の中でも」(インガー・アンダーセン事務局長)
「ジョルナウ・グランジ・バイーア」によると、政府間交渉委員会(INC)のプロセスは、2022年3月の国連環境総会(UNEA-5.2)において条約策定の決議が採択されたことに始まるという。
今回の第5回政府間交渉委員会再開会合(INC-5.2)(2025年8月5日~8月15日、スイス:ジュネーブ)は、これまでの会合——INC-1(2022年11月28日~12月2日、ウルグアイ東方共和国:プンタ・デル・エステ)、INC-2(2023年5月29日~6月2日、フランス共和国:パリ)、INC-3(ケ2023年11月13日~11月19日、ケニア共和国:ナイロビ)、INC-4(2024年4月23日~4月29日、カナダ:オタワ)、INC-5.1(2024年11月25日~12月1日、大韓民国:釜山)——に続くものである。
「G1」によると、世界では毎年4億トン以上の新たなプラスチックが生産されており、政策が変わらなければ2040年までに約70%増加する可能性がある。年間生産量の半分以上は使い捨てであり、15%がリサイクル目的で回収されるものの、実際にリサイクルされるのはわずか9%。約46%が埋立地に送られ、17%が焼却され、22%は不適切に処理され、土壌や海洋に流出しているという。
(文/麻生雅人)