第28回東京国際映画祭、開幕。ブラジル映画「ニーゼ」をコンペティションで上映
2015年 10月 23日毎秋恒例の東京国際映画祭が、10月22日(木)に開幕した。1985年にスタートした同映画祭は、2015年で28回目を迎えた。開催期間は31日(土)まで。
会期中は六本木ヒルズ、新宿バルト9、新宿ピカデリー、TOHOシネマズ新宿ほか、都内の各劇場や施設にて、世界各国の多彩な映画が上映される。
そして東京国際映画祭のメインイベントはコンペティション。2015年1月以降に完成した長編映画を対象に行われる今年のコンペには、世界の86の国と地域から1409作品の応募があった。そのうち厳選な予備審査を経て選ばれた16本の作品が映画祭で上映され賞が競われる。
今年はこのコンペティションにブラジル映画が1作品、選ばれている。ホベルト・ベリネール監督による「ニーゼ(原題「ニージ~オ・コラサォン・ダ・ロウクーラ」)」(2015年)だ。
映画「ニーゼ」は実話を基にした人間ドラマで、舞台は1940年代のリオデジャネイロ郊外エンジェーニョ・ジ・デントロにあった国立精神医学センター(ドンペドロ2世精神医学センター)。まだ統合失調症をはじめ精神疾患の原因が明らかになっておらず、ロボトミー(前頭葉白質切除術)や電気ショック療法など、今では信じがたい処置が、”効果的な最先端治療”として推奨されていた時代の物語だ。
同機関に赴任した主人公である女医のニージ(ニーゼ)・ダ・シウヴェイラは、精神疾患患者を人間として扱わない暴力的な治療に異を唱え、施設内でただひとり、患者のひとりひとりと人間として接する。彼らを”パシエンチ(患者)”ではなく”クリエンチ(顧客)”と呼び、自分たちが彼らにすべきことは生活の手助けだと宣言。”顧客”たちの心の声に耳を傾けようとする。
やがて彼らは、絵画や彫刻などさまざまな手法を通して、個々が自身を表現しはじめる。それまで筆すら手にしたことのなかった患者が描いた絵の想像力、表現力は、施設を訪ねた美術評論家のマリオ・ペドローザをも驚かせるほどだった。
しかしそんな中、精神疾患の治療は抑制以外に方法はないと信じて疑わない所長以下、施設の医師たちは強硬手段に出る…。
ホベルト・ベリネール監督は、1940年代の精神病院の施設内の様子を生々しくリアルに描き、物語に説得力をもたらしている。ドキュメンタリー映画の手法を取り入れながらドラマにリアリティを持たせるブラジル映画が得意とする手法を、ホベルト監督は本作品でも生かしている。
強い意志を持ち何物にも屈せず、自身の信じる道を突き進むニージ(ニーゼ)を演じるのは、ブラジルのベテラン人気女優グロリア・ピリス。日本で公開された作品では、2008年と2009年のブラジル映画祭で上映された「逆転夫婦(シ・エウ・フォッシ・ヴォセ)」「逆転夫婦2(シ・エウ・フォッシ・ヴォセ 2)」での、夫と体が入れ替わってしまうキャリアウーマン役、第7回ラテンビート映画祭(2010年)で上映された「ルーラ、ブラジルの息子」でのルーラ前大統領の母親エウリジシ・フェヘイラ・ジ・メロ役などで知られる。
施設があったエンジェーニョ・ジ・デントロには、現在、ニージ・ダ・シウヴェイラ財団が運営する「無意識のイメージ博物館」が立てられ、劇中にも登場するニージ(ニーゼ)の”顧客”たちが生んだ作品が展示されている。
「ニーゼ」の上映は、10月25日 13:40 TOHOシネマズ 六本木ヒルズ SCREEN7、10月26日 11:00 新宿バルト9 シアター3、10月27日 17:40 TOHOシネマズ 六本木ヒルズ SCREEN1。すべての回でホベルト・ベリネール(監督/脚本)、ホドリーゴ・レチエル(プロデューサー)の登壇ゲスト出演が予定されている。
http://2015.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=23
第28回東京国際映画祭
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(文/麻生雅人、写真/(c) TvZero)
写真は映画「ニーゼ」より