ブラジルで40年以上愛されつづけている小説「ぼくのオレンジの木」、日本語版発売

2015年 11月 11日

永田翼

訳者のひとり、永田翼(ながた・たすく)さんは現在、サンパウロ在住。ブラジルとは40年来のつきあいになるという。

「ブラジルにちょっとでも関係したほとんどの外国人はブラジルのことを好きになってしまう。これはどうしてなんだろうと長年、不思議に思っていました。その答えのひとつが、この本の中にあるのではないかと思っています」(永田翼さん)

鍵は、「サウダージ」と「テルヌーラ」という、外国語に訳すことのできないふたつの言葉にあるのではないかと、永田さんはいう。

「ブラジル人というのは、実は、故郷を失った人たちといってもいいのかもしれません。ブラジルには、日本人でいえば100年以上も前から多くの人が移住していますし、ポルトガル人、ドイツ人、中国人など、世界中から移住してきた人たちがいます。移住者だけでなく、その子孫たちも、親やおじいさん、おばあさんなど”故郷を失った人たち”の想いを、受け継いできているところがあるように思います」(永田翼さん)

移住者が作り上げたブラジルという国で生まれたブラジル人には、もともと「サウダージ」という想いがインプットされていると、永田さんはいう。

「そもそもブラジルにいた先住民、ブラジルではインジオと呼ばれる人々。そこにポルトガルから、征服者と呼んでもいいのかもしれない人たち、これは貴族だけでなく普通のひとたちがブラジルに渡ってきています。アフリカから連れてこられた人たち、奴隷として連れてこられた人たちが多いのですが、こういう人たちが混ざった、いつの間にか混血した人たちが、いちばんブラジル人らしいブラジル人といわれます」(永田翼さん)

ぼくのオレンジの木

「ヨーロッパから来たポルトガル系の人、アフリカから来た黒人系の人、自分たちが住んでいたところから、もといた場所に住めなくなって他の土地へ移ってきた先住民、こういった人たちの想いというのは、どういう形かは別にして、子孫たちに脈々と伝わっているものだと思います。ですからブラジル人は誰もが、サウダージという想いを強く持っているのです」(永田翼さん)

しかし、永田さんは、サウダージという気持ちだけしかないと、被害者意識を抱いたり、昔の良さを美化するだけの、ある種の”甘え”ているだけの状態に陥ってしまいがちだが、それを補っているのがテルヌーラという気持ちではないかと指摘する(次ページへつづく)。

(文/麻生雅人、写真下/Reprodução/Google)