ブラジルで40年以上愛されつづけている小説「ぼくのオレンジの木」、日本語版発売
2015年 11月 11日松本乃里子さんとこの物語との出会いは、1990年代半ばに遡る。日伯修好100年祭で上演された日本の劇団によるポルトガル語による劇『わんぱく天使』だったという。
「2013年に永田翼から一緒に翻訳をしないかと誘われましたが、二人でひとつの作品を翻訳するのは不可能だと思い、(一度は)断りました。しかしこの物語が心を打つものだということは覚えていたので改めて原作を読んでみたら、著者の想いをしっかりと伝えたいと思うに至りました」(松本乃里子さん)
最初は困難だと思った二人での翻訳作業も、いざ翻訳を手掛けることになり、二人だからこそ可能になると考えなおしたという。
「著者は他界して久しいので、(疑問点などを)著者に電話をかけて質問することができません。二人で力を合わせれば、なんとか意味を汲んで日本に紹介することができるかなと思いました。共同で訳をはじめると、まさに作品の力に突き動かされたのでしょう、ぐいぐいと引き込まれていきました」(松本乃里子さん)
ポルトガル語の原書も、二人で訳した翻訳も、数十回に渡って読み直し、推敲したという。
「どちらかがリードするというのではなく、句読点に至るまで、すべて話し合いで作業を行いました。独特の文体、伏線に満ちた構造を持つ原書は、決して平易な文章ではないと思います。子どものために書かれた物語ではないと思います」(松本乃里子さん)
決して安易なハッピーエンドで終わらない物語に込められた、現実の社会と向き合うという著者の視線も大切にしたいと松本さんはいう。
「ブラジルの良さを伝えたいという想いと同時に、ブラジルに限らない、地域や年代を超えた人間に共通する普遍的な問題についても、(本書は)語っていると思います。この日本語版をと降りて、一人の人間が育っていく道のりにある普遍的な問題を汲み取ってほしいと願っています」(松本乃里子さん)
「ぼくのオレンジの木」の帯には、ブラジルで生活した経験のある児童文学作家の角野栄子さんが推薦の言葉を寄せている。記者会見場に来場していた角野さんも、自身のブラジルでの経験と本書との関連などを語った(次ページへつづく)。
(写真・文/麻生雅人)