リオ五輪閉会式でも紹介された国立公園が資金難で存続の危機
2016年 09月 15日ブラジルに十三あるユネスコの世界遺産(文化遺産)のひとつに、セハ(セーハ)・ダ・カピバラ国立公園があります。2016年8月21日に開催されたリオデジャネイロ・オリンピックの閉会式でもテーマのひとつとして扱われたこの世界遺産が、深刻な資金難に陥っています。
現地メディア「フォーリャ・ジ・サンパウロ」紙によると、給与の支払いが困難なため、従業員を解雇せざるを得なくなったほか、四つある公園の入り口のうち、二つの入り口が閉鎖されているそうです。
また、入場料25レアル(約800円)も、回収する人が不足しているために適切に収集されていません。さらに、外部委託している警備員は、直近四カ月間給与を受け取っていないとのことです。
1970年代にこの国立公園を発見し、今も国立公園の運営の責任者となっている考古学者の仏系ブラジル人ニエジ・ギドンさんは、昨年(2015年)から国立公園の危機的な状況について警鐘を鳴らしています。
彼女は、「フォーリャ」紙の取材に対して、「もう預金残高が底をついています。明日、54,000レアル(1.6百万円)の税金の支払いがあるにもかかわらず、払えるお金がありません」など、切実な現状を訴えています。資金不足のため、7月はギドンさんが自分の預金から給与を支払ったといいます。
文化遺産の保存のために最大限の努力が行われてきたものの、現在、存続の危機に立たされています。国立公園の保存のため、当初20名の従業員が居ましたが、現在は2名までに削減されています。いくつかある警備所の多くは扉を閉ざしたままになっています。
同国立公園が閉鎖の危機に陥ったのはこれが初めてのことではありません。
公園の保存費用の責任は、公的にはICMBio(シッコ・メンデス研究所)が担っていますが、その他に、ペトロブラス、Iphan(国立歴史美術遺産院)、CNPq(国立科学技術開発機構)、ピアウイ州政府、ブラジル連邦政府が基金を分担することになっています。
今年の初め、ギドンさんは一年分の管理料4.5百万レアル(約1.4億円)の支払いを求めて、出資者を訴えましたが、ICMBioは、ギドンさんの要請額は高すぎであり、同様の国立公園を15拠点管理することができる金額だと反論しました。ICMBioの主張だと、国立公園の年間維持費用は約9百万円と考えていることが分かります。出資者の弁護団は、他に政治的に優先順位の高い事項があることを背景に、これ以上の予算割り当ては不要であると主張しています。
ギドンさんは他の国立公園が十分な予算の割り当てを受けていないことを認めたうえで、次のように述懐しています。
「彼らは国立公園の存続について何ら責任感を持っていません。それにも関わらず、何のためにそんなに多額の予算が居るんだ、と言ってきます。我々は人類の文化遺産を残すため国立公園を作ったんですよ」(ニエジ・ギドンさん)
環境省は国立公園の維持のために「できる限りの努力を払う」とし、百万レアル(約3千万円)を緊急予算として割り当てることとしています。
セハ(セーハ)・ダ・カピバラ国立公園は、13万ヘクタール(サンパウロ市の約85%)の面積を有しています。敷地内では考古学的な発見のあった場所が1,000拠点以上あり、まだ、数百もの拠点があるものと考えられています。世界的にも、セハ(セーハ)・ダ・カピバラ国立公園の壁画の数は他に類を見ない数に上ります。
ICMBioの従業員は、「人々はこの国立公園の本当の価値を理解していない」と言います。この国立公園では、アメリカ大陸で最も古い人間の痕跡が見つかったとされています。北アメリカの人類は約1万3千年前にアフリカからアジア、ベーリング海峡を渡ってきたと考えられていますが、国立公園では5万年前に人類が生活していた痕跡が発見されたことから、アフリカ起源節が覆される歴史的な大発見となりました。
しかし、この理論は未だ見解が分かれています。ペドラ・フラーダの近くで発見された化石が5万年前のものであるという考えには、科学者からは未だに疑問視されています。国立公園の研究者はそれがたき火の痕跡であると考えていますが、否定する科学者はそれが自然火災によるものであると反論しています。
国立公園の歴史的・文化的な潜在価値は、観光客を呼び寄せる大きな可能性を秘めているものの、国立公園へのアクセスが非常に悪いために客足を鈍らせています。18年かけてやっと開業した空港は火曜日と水曜日しか便がないそうです。
(写真・文/唐木真吾)