マンジョッカ(キャッサバ)のUMAMIを生かしたブラジル北部のスープ料理「タカカー」が、「世界のベスト・スープ100」で26位に

2024年 07月 11日

tacaca
ブラジル北部パラー州の郷土料理タカカー(写真/ Divulgação)

2024年6 月、世界で最もおいしい料理のランキングを発表するTaste Atlasが、「世界のベスト・スープ100」のリストを更新した。

ブラジルはこの国際的なランキングの中に、「タカカー」 (26位) と「ソパ・レアォン・ヴェローゾ」(84位)を送り込んだ。

スープの世界一に選ばれたのは、パラグアイの「ボリ・ボリ(Bori-bori またはVori-Vori)」。

また、このランキングでは日本の「ラーメン」が「スープ」として認識されて堂々4位に総合評価として「Ramen ラーメン」が登場しているほかに、様々なタイプのラーメンが個別にランクインしている。

さて、「世界のベスト・スープ100」で26位に輝いたのが「Tacacá タカカー」だ。

パラー州ベレンの郷土料理。マンジョッカ(キャッサバ)のデンプンを作る際に出る副産物のしぼり汁を発酵させて作る調味料トゥクピーを使った、マンジョッカの旨味成分を堪能できる汁料理だ。

tucupi
写真はマンジョッカと、製品化された市販品のトゥクピー(写真/Divulgação)

マンジョッカから作られる旨味調味料トゥクピーとは

マンジョッカ(キャッサバ、Manihot esculenta Crantz)の根塊(いわゆる“芋”)は食用根塊ながらシアン化合物を含んでいるため、食用の加工の際には毒抜きの過程が必要となる。

シアン化合物の含有量により、含有量の多いものはマンジョッカ・ブラーヴァ(獰猛なマンジョッカ)、少ないものはマンジョッカ・マンサ(おとなしいマンジョッカ)と呼ばれ、それぞれに加工の仕方や調理法が異なる。後者は地域によってマカシェイラ、アイピンなどの呼び名でも知られている。

いずれのマンジョッカからもデンプン、粉(ファリーニャ)を取り出すことは可能で、さらに、マンジョッカ・ブラーヴァからはトゥクピーが作られ、マンジョッカ・マンサは、芋そのものを、フライや煮込み料理などで食すことができる。

マンジョッカ(キャッサバ)は、実に多様な副産物を生み出すことのできる食材なのだ。

皮をむき芯を取り除いた芋をカットして、水に浸すところまでは共通する準備となる。

この後、大きく分けると、芋の身の部分から「粉(ファリーニャ)」を作る過程と、芋の身の部分を絞って得た汁をデカンテーションして「デンプン粉」と「トゥクピー」を作る過程とに分かれる。

デカンテーションしたしぼり汁の、沈殿物は「デンプン粉」となり、この「デンプン粉」は、タピオカドリンクにも使われるタピオカパールや、チーズを練りこんだチーズパン“ポンデケージョ”や、ケーキ、“ポウヴィーリョ”と呼ばれるビスケットなどの材料となる。

デカンテーションしたしぼり汁の、上澄み液を発酵させ、調味して作られるのが「トゥクピー」だ。

芋を搾った後に残る身の部分(豆腐で言えば“おから”?)を乾燥させ、鉄板などで焼いて得られる「粉」は、“ファリーニャ・ジ・マンジョッカ”や、これを他の食材と混ぜて味付けした“ファロッファ”など、料理の付け合わせに使う食材となる。“ファリーニャ~”や“ファロッファ”は、日本でもシュハスコ料理店などで出会うことができる。

ただし、マンジョッカから作られる製品は、全国レベルでは、搾り汁の沈殿物から得る「デンプン粉」と、搾った後の身から得る「粉(ファリーニャ)」がほとんど。「トゥクピー」を作るのは、先住民の食文化の影響が強く残っているブラジル北部にほぼ限られている。

発酵食品でもある「トゥクピー」は黄色い色と酸味が特徴。北部では、今回ランキングに入ったスープ料理「タカカー」だけでなく、鴨肉の汁料理「パット・ノ・トゥクピー」など、様々な料理に使われる。

近年ではリオやサンパウロなど都市部でもガストロノミー界で、“ブラジルのUMAMI”として注目され、チョコレートのフレイバーにも使われている。

3b6c2244-b62b-4c53-94ea-ef997d1745f9_b
写真は2023年にベレン市で開催された第三回タカカゼイラ・フェスティバルに参加したネイジさん(写真/Marcos Barbosa-Comus/Agência Belém)

北部のソウルフード「タカカー」

ブラジル・ア・ゴスト研究所はこの料理を以下のように説明している。

「北部では、タカカーは日常的に、路上の屋台で午後の遅い時間に販売されています。午後17時から18時はタカカーの時間です!」

「アマゾン地域を象徴する料理の一つで、民俗学者カマラ・カスクードが記録している、パラー州に古くから暮らしていた先住民が調理していたスープ料理“マニ・ポイ”が起源。(“マニ・ポイ”と)異なるのはゴマ(マンジョッカのデンプン粉)の質とエビ、ジャンブー(香草)の量です」

屋台でタカカーを販売するのは女性のみで、タカカゼイラと呼ばれる彼女たちは街のシンボルでもある。レシピから販売のスタイルを含むタカカゼイラの存在は、現在、国立歴史美術遺産院(IPHAN)によりブラジルの文化遺産に指定されるべく調査が行われている。

毎年9月13日の“タカカゼイロの日”には、ベレンでは市の主催でタカカゼイラ・フェスティバルが開催される。

「タカカー」に使われる主な材料は、トゥクピー、大きめの干しエビ、マンジョッカのデンプン粉、薬味香草類。

薬味香草類に、アマゾン地域の名物でもあるジャンブー(舌が痺れる成分が入った香草)、シコーリア(コリアンダーの現地版ともいえる薬味)、ピメンタ・ジ・シェイロ(アマゾン地方原産のトウガラシ類)が使われるのもこの料理の大きな特徴だ。

ブラジルにもある「ボリ・ボリ」

ところで、ランキングの1位に輝いたパラグアイ料理「ボリ・ボリ」は、Taste Atlasよると以下のように解説されている。

「ボリボリは、肉(一般的に牛肉または鶏肉)、コーンミールとチーズで作ったふわふわの団子、ニンジン、セロリ、玉ねぎなどの野菜が入った、愛情たっぷりのパラグアイのスープ。スープは伝統的に月桂樹の葉、クローブ、パセリで味付けされ、サフランが濃い黄金色を与えている」

そしてこのボリ・ボリは、ブラジルでも、パラグアイと国境を接するマットグロッソドスウ州(特にパンタナウ地域)では郷土料理として親しまれている。

パンタナウ地域の出身で、食の財産研究機構を主催するパウロ・マシャード・シェフは「ここの食文化には先住民族とパラグアイの影響が色濃く反映されています。ここでは、グアラニー語起源の鶏肉のボリボリチキン(コーンミールの団子入りスープ料理)、シッパ(ポンジケージョの地域版)、チパグアスまたはソパ・パラグアイア(塩味のトウモロコシ生地を焼いた料理)などを、国境の外側と内側で競い合っています」と語る。

(文/麻生雅人)