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来日したパウロ・マシャード・シェフ、マンジョッカの料理と文化を紹介

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9月5日、駐日ブラジル大使公邸。日本で栽培されたマンジョッカを紹介するパウロ・マシャード・シェフ(右)(撮影/麻生雅人)

「外側は濃い茶色の樹皮で覆われていますが、皮をむくと中の芋は白いマンジョッカは、ブラジルの食文化の研究家でもあるルイス・ダ・カマラ・カスクードが“ブラジルの女王”と呼んだことで知られています」(パウロ・マシャード シェフ)

ブラジル外務省が主催するプロジェクト「ブラジルの味」により日本に派遣されたアンバサダー・シェフのパウロ・マシャードさんは、9月上旬から約2週間日本に滞在して、日本の料理人や料理学校の学生たち、食のインフルエンサーたちに、マンジョッカや故郷の料理などブラジルの食文化を伝えた。

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9月8日、服部栄養専門学校。中西部風ポン・ヂ・ケイジョ“シッパ”を紹介するパウロ・マシャード・シェフ(撮影/麻生雅人)

「ブラジルの味」プロジェクトでは、ブラジルの5つの地域を代表するシェフが5大陸に派遣され、各シェフは故郷のバイオームを表現した郷土料理を紹介すると同時に、ブラジルを代表する食材のひとつであるマンジョッカを使った料理を紹介するというミッションを携えて活動を行っている。

ポルトガル人が南米大陸にやってくる以前から、先住民の食の根幹のひとつでもあったマンジョッカは、1500年以降、ヨーロッパからの移住者たちの食文化にも取り入れられ、現在のブラジルの食文化においても、日常的に親しまれている重要な食材となっている。

「マンジョッカには、先住民に伝わる有名な伝説があります。その昔、ある部族に肌の色が白いマニという娘がいました。珍しい肌の色だったため彼女を一目見ようと大勢の人がマニに会いに来ました。しかしマニは生まれつき体が弱く、若くして亡くなってしまいました。皆が彼女の死を嘆き悲しんでしると、彼女が住んでいた家から一本の植物が生えてきました。これを抜いてみると芋が生えており、中を切ってみるとマニの肌のように真っ白でした。マニの住んでいた家から生まれたこの植物は、マニの家(先住民の言葉でオカ)=マニオカとよばれるようになりました。これがマンジョッカの語源と言う説もあります」(パウロ・マシャード シェフ)

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青パパイヤと黒糖のスイーツに添えられたフライドマンジョッカ(撮影/麻生雅人)

日本や英語圏ではキャッサバの名で知られるマンジョッカ(学名マニホット・エスクレンタ Manihot esculenta)はトウダイグサ科で、原産は南米。ブラジル農牧研究公社(Embrapa)によると、現在は100か国以上で生産しており、ブラジルは世界の生産量の10% を占めているという。

マンジョッカには異なる性質を持ついくつかの種類があり食材としての加工工程や作ることができる製品も異なる。タピオカ・ドリンクに入っているタピオカ・パールの原料となるでんぷん粉も、その一例だ。

「マンジョッカは、万能な食材で、この芋から得られる副産物は10以上もあります。種類によって食べ方は異なりますが根塊の部分をそのまま茹でてフライにしたり、削って粉状にしたものを炒って粉状にしたものを肉や汁料理にかけて食べたり、搾った汁を発酵させて調味料にしたり、貯められた搾り汁からでんぷんを取り出したり、さらに実だけでなく葉も栄養が豊富です。搾り汁を発酵させた調味料の“トゥクピー”はうまみ成分が非常に豊富で、世界のトップクラスのレストランのシェフたちをも魅了しています」(パウロ・マシャード シェフ)

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9月9日、駐日ブラジル大使公邸。パウロ・マシャード・シェフ(右)とサポートを務めたルカス・カスル・シェフ(左)(撮影/麻生雅人)

マニヴァと呼ばれる葉も、アマゾン地方では食材として親しまれている。

ゴイアス州連邦大学(UFG)農学部によると「基本的にマンジョッカにはシアン化合物が含まれておりシアン配糖体の形で存在する」が、毒性の少ない種類のもの(Manihot palmata)はマンジョッカ・ドーシまたはマンジョッカ・マンサ、毒性が多い種類のもの(Manihot utilissima)はマンジョッカ・ブラーヴァと呼ばれる。

アマゾニア州連邦農村大学(UFRA)食品科学技術コースのプリシラ・アンドラーヂ教授は「根に含まれるシアン化合物の含有量が異なる点が異なりますが、どちらのマンジョッカも種としてはマニホット・エスクレンタ(Manihot esculenta)」と説明している。

地方によってはマカシェイラ、アイピンとも呼ばれる前者は、芋を茹でたり揚げたりして“根菜”として食べられている。

毒性の多い後者は、すりおろして脱水~乾燥させたものを加熱処理したり、発酵させるなどして“毒抜き”処理をして食されている。

パウロ・マシャード・シェフは、コース料理で紹介した6つのプレートのうち5つに、様々な形でマンジョッカを使った。

「マンジョッカ(・ドーシ)の根塊の皮をむいたものを茹で、カットして揚げれば、マンジョッカ・チップやフライド・マンジョッカになります。茹でたマンジョッカは、煮込み料理にもよく使われるほか、プリンなどスイーツにも使われます」(パウロ・マシャード シェフ)

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マンジョッカを使ったプリン(撮影/麻生雅人)

パンタナウ地方の高地地域、茹でたマンジョッカと干し肉、たまねぎなどと共に煮込んだシチュー料理“カリベウ”という家庭料理が知られている。日本でいえば肉じゃがに近い感覚だろうか。

「マンジョッカ(・ブラーヴァ)をすりおろして脱水、粉状になったいもを天日干しにした後、鉄板などで炒ることで“ファリーニャ・(ジ・マンジョッカ)”と呼ばれる粉ができます。“ファリーニャ”や、この“ファリーニャ”を刻んだたまねぎやベーコン、にんにくなどと共に炒ってつくる“ファロッファ”は、ブラジルの食卓ではお馴染みの存在です。触感がパリパリしているため、肉や、汁気のある食べ物にかけてよく食べられています」(パウロ・マシャード シェフ)

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マンジョッカと干し肉の煮込み料理カリベウ、ファロッファを添えて(撮影/麻生雅人)

“ファロッファ”を作る際に使われる材料は多様。卵、ソーセージ、バナナなども使われることがある。日本でも、シュハスコ(ブラジル流グリル肉料理)のレストランのメニューでお目にかかることができる。

「脱水したときに溜まった液体を置いておくと、でんぷん質が底の方に溜まります。でんぷん質を除いた液体を発酵させて作るのが先ほどお話した“トゥクピー”です。一方、でんぷんから得られるでんぷん粉が“ポウヴィーリョ”。“ポウヴィーリョ”には、発酵させた“アゼード”と呼ばれるタイプと、発酵させていない“ドーシ”と呼ばれる、2つのタイプがあります」(パウロ・マシャード シェフ)

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日本に輸入されているポウヴィーリョ・アゼードとポウヴィーリョ・ドーシ(撮影/麻生雅人)

ブラジルの軽食でとても有名なチーズパン、ポンジケイジョは、この“ポウヴィーリョ・アゼード”とチーズで作られる。ポン・ジ・ケイジョの中がもちもちしているのは、小麦ではなくマンジョッカのでんぷんだを使っているためだ。

「今回私は、ブラジルの中西部に伝わるシッパを紹介します。マットグロッソドスウ州は隣接するパラグアイやボリビアから伝わったもので、中西部風のポン・ジ・ケイジョとも言えます。“ポウヴィーリョ・ドーシ”を使うため、ポン・ジ・ケージョとは食感が異なります」(パウロ・マシャード シェフ)

そして、おなじみのタピオカもマンジョッカから作られる。

「このポウヴィーリョに水分を含ませたでんぷん粉が“タピオカ”。フライパンで焼くだけでもちもちのタピオカ・クレープができます。タピオカ粉からつくられるタピオカパールは日本でもおなじみですね。これはブラジルでは“サグー”と呼ばれています」(パウロ・マシャード シェフ)

“ファリーニャ(ファリンニャ)”も“ポウヴィーリョ(ポルヴィーリョ)”も、製品として日本に輸入されており、ブラジル食材店などで入手できるほか、通販サイトでも販売されている。“マンジョッカ”のワードで検索すればさまざまな製品が見つけられるはずだ。

「マンジョッカは先住民の食生活の中心にあった食材だったため、タピオカ、トゥクピーなど関連する副産物にも先住民が使っていた言葉がそのままつかわれています。タピオカクレープの原型となる調理も先住民によって行われていました。ポルトガル人がやってくる前からこの土地にあり、今もブラジル人の食卓に様々な形で親しまれているマンジョッカは、ブラジルの食の原点でもあり基本でもあると言えるのです」(パウロ・マシャード シェフ)

(文/麻生雅人)

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