「アイム・スティル・ヒア」主演女優フェルナンダ・トーヘスとは

2025年 02月 17日
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映画「アイム・スティル・ヒア」より、フェルナンダ・トーヘス(右上)(写真/(a)valentinaherszage)

第97回アカデミー賞で、作品賞・主演女優賞・国際長編映画賞とあわせて合計3部門にノミネートされているヴァウテル・サリス(ウォルター・サレス)監督作品「アイム・スティル・ヒア」が2025年に日本で公開されることが決定した。8月公開が予定されている。

主演を務めるフェルナンダ・トーヘス(フェルナンダ・トーレス)の経歴を、ブラジルの大手メディア「オ・グローボ」が紹介している。

フェルナンダ・トーヘス(フェルナンダ・トーレス)は1965年9月15日、リオデジャネイロ生まれ。俳優のフェルナンド・トーヘスとフェルナンダ・モンチネグロ夫妻の娘として生まれた彼女は、劇場の舞台袖で両親のリハーサルを見ながら育った。

「私はいつも両親の付き人として劇場に付き添い観劇して、家では、夕食のテーブルでのリハーサルも見ていました。私が育ったのは、両親の舞台演劇のキャリアの全盛期です」(フェルナンダ・トーヘス)

彼女は13歳の時に、俳優のための伝統的な演劇学校「タブラード」に入学した。

初めて舞台に立ったのは、1978年、「タブラード」創設者マリア・クララ・マシャードの演劇『ウン・タンゴ・アルジェンチーノ(アルゼンチンタンゴ)』。

1979年、セルジオ・ブリート監督のテレビ番組「ノッサ・シダージ(私たちの街)」(TVE)でテレビデビューを果たした。

同年、ドミンゴス・オリヴェイラ監督の『アプラウゾ(喝采)』のエピソードのひとつ「ケリードス、ファンタスチコス・サバドス(愛しき君たち、素敵な土曜を)」でテレビグローボでもデビューした。

1981年、15歳のとき、マノエウ・カルロス監督の初のテレノヴェラ(連続テレビドラマ)『バイラ・コミーゴ』(1981年)に出演して、若きファウナ・ホーザ・フランサを演じた。

同年、女優はジウベルト・ブラーガのテレノヴェラ『ブリリャンチ』で、母フェルナンダ・モンチネグロ演じるチカの孫娘マリリア・リベイロを演じた。

1983年、彼女はジャネッチ・クライール作『エウ・プロメット』(1983年)でダイジー・カントマイアを演じた。

同年、ブラウリオ・ペドローゾ作、デニス・カルヴァーリョとマルコス・パウロ監督のミニシリーズ『パラベンス・プラ・ヴォセ』にも出演した。

同じく1983年、フェルナンダ・トーヘスは、オスカー・ワイルドの同名小説をアントニオ・ペドロ監督が脚色した特別作品「カンタヴィルの幽霊」にも出演。

同じころ、長寿音楽番組『コンセルトス・パラ・ア・ジョーヴェントゥージ』では俳優パウロ・グアルニエリと共に司会を務めた。同番組はクラシック音楽振興のモデルとしてユネスコにも注目された。

1986年、フェルナンダは、ジャネッチ・クラールの1970年代の最も成功したテレノヴェラの一つ「セウバ・ジ・ペドラ」のリメイク版で主人公シモーニ・マルキス役を依頼された。「セウバ・ジ・ペドラ」新バージョンでフェルナンダは、はトニー・ハモスの恋人役を演じた。

ミニシリーズ『ルナ・カリエンチ』(1999年)(アルゼンチンのメンポ・ジャルディネッリの小説をジョルジ・フルタード監督が脚色)を除き、フェルナンダ・トーヘスの1990年代以降のテレビ出演はコミカルな役どころが中心となった。

2001年から2003年にかけては、ルイス・フェルナンド・ギマランイスとともに、フイとヴァニの夫婦が経験する日常の状況をユーモアと斬新な語り口で描いたテレビシリーズ『オス・ノルマイス』で主演を務めた。

アレシャンドリ・マシャドとフェルナンダ・ヤングが脚本を書き、ジョゼー・アウヴァレンガ・ジュニオールが監督した『オス・ノルマイス』はカルト的な人気を誇り、シチュエーションやセリフに魅了された多くのファンが金曜の夜には家にこもるようになった。人気を背景に、映画版も2作(2003年、2009年)公開された。

2008年、第2子を妊娠中のフェルナンダ・トーヘスは、エヴァンドロ・メスキータとともに人気バラエティ番組『ファンタスティコ』のコーナー「セクソ・オポスト」に出演した。

2010年1月1日、クラウジオ・パイヴァが脚本を手掛け、マウリシオ・ファリアスが監督したコメディスペシャル『プログラマ・ピロット』に出演。

このドラマでは、パキスタンを舞台に展開される物語と、架空のブラジルの放送局のスタジオの舞台裏が描かれた。フェルナンダは、“カルメン(アンドレア・ベウトラォン)の夫エドガー(アレシャンドリ・ボルジェス)の世話をするイスラム教徒のメイド”という役を演じる女優レナータを演じた。

2011年から5年間、フェルナンダ・トーレスは自身のキャリアを特徴づけるもうひとつのコメディシリーズ『タパス&ベイジョス』に、アンドレア・ベウトラォンと共に出演した。

クラウヂオ・パイーヴァが脚本を手掛け、マウリシオ・ファリアスが監督したこのシリーズでフェルナンダが演じたのは、スエリ(アンドレア・ベウトラォン)の友人であり同僚であるファッチマ。

二人はリオデジャネイロ南部コパカバーナにあるウェディングドレス店の販売員で、次から次へといろいろなことが起こる日々に翻弄される。

フェルナンダ・トーヘスは、2010 年に2つのシリーズに参加した。

10代の視聴者を対象としたムウチショウでは、ミラー・フェルナンデスの作品に基づいた『アモール・ダ・イストーリア』に出演。

コンスピラサォン・フィウミスが制作したこの番組は、「ファブラス・ファブローザス(Fábulas Fabulosas)」という本にインスパイアされたフェルナンダ・トーヘス自身によって考案された。

11月、フェルナンダは、TVグローボのシリーズ『アス・カリオカス』のエピソード「ア・インヴェジョーザ・ジ・イパネマ(イパネマの嫉妬深い娘)」でクリス役を演じた。

2018年、フェルナンダは、アンドルーシャ・ヴァジントンが芸術監督を務める医療シリーズ『ソビ・プレザォン
(プレッシャーの下で)』のキャストに加わり、シーズン2で病院のマネージャー、へナータを演じた。

2020年、新型コロナウイルス感染症のパンデミックの最中に初放送された、グローボのマルチプラットフォームシリーズ『ジアーリオ・ジ・ウン・コンフィナード(孤立の日々)』では、ムリーロ(ブルーノ・マッツェオ)の診察中に、個人的な葛藤と向き合うためセッションを中断するセラピスト、レオノールを演じた。

同年のパンデミックの最中、フェルナンダは『アモール・イ・ソルチ(愛と幸運)』の年末特別エピソード「ジウダ、ルシア・イ・ア・ボージ(ジウダトルシアとやぎ)」にも出演した。隔離生活を送っていた農場で、母フェルナンダ・モンチネグロと共に出演した。

<映画>

フェルナンダ・トーヘスは、映画と演劇でも多彩なキャリアを誇っている。

映画界でのキャリアのスタートは10代で、1983年にヴァウテル・リマ・ジュニオール監督作『イノセンシア(無垢)』で主演を務めた。

1985年にはアンドレ・クロッツェル監督作『ア・マルヴァーダ・カルニ(罪深き肉)』で準主役を務めた。食や結婚を題材にしてサンパウロ内陸部の人々の姿をコミカルに描いた本作では、グラマード映画祭で最優秀女優賞をはじめ数々の賞を受賞した。

1986年に出演したアルナウド・ジャボール監督作『エウ・セイ・キ・ヴォウ・チ・アマール(あなたを好きになるって、私は知っている)』ではカンヌ、映画祭とキューバ映画祭で最優秀女優賞に選出された。

同じく1986年のルイ・ファリアス監督作『コン・リッセンサ、エウ・ヴォウ・ア・ルッタ(申し訳ないけれど、私は闘う)』では、ナント三大陸映画祭(フランス)で最優秀女優賞を受賞。ロカルノ映画祭(スイス)でも特別ノミネートされた。

1991年の『静かなる戦い(邦題)』は、ブラジルのセルジオ・トレード監督を手掛け、アンソニー・ギデンスが主演を務めたイギリスのテレビ映画。日本で公開が決まった『アイム・スティル・ヒア』にも通じる、南米の軍事政権の圧政と戦った人物を描いた、実話をもとにした物語だ。

舞台は1976年、ストロエスネル将軍による軍事政権下のパラグアイ。貧しい人々のための診療所を開設するなど、人道的な医師ジョエル・フィラルティガ(アンソニー・ホプキンス)は、常に政権を批判していた。報復として、息子ジョエリットが軍事警察のペニャ・イララに拉致され拷問を受け死亡するが、警察は別の殺人犯をでっちあげる。

フェルナンダが演じたのは、フィラルティガ医師の娘ドリー。父と共に軍警察に対し裁判で不屈の戦いを挑む。

1996年、『アイム・スティル・ヒア』のヴァウテル・サリス(ウォルター・サレス)監督とダニエラ・トーマス監督によるブラジル・ポルトガル共作映画『テーハ・エストランジェイラ(異国の地)』に出演。

続いて1997年に出演したブルーノ・バヘット監督作『クアトロ・ディアス(邦題)』は、軍事政権下のブラジルを舞台にした物語で、これも実話が基になっている。フェルナンダは学生ゲリラ活動グループのリーダーを演じた。

地下に潜る彼女たちを目撃する市民役で母のフェルナンダ・モンチネグロ、逮捕されてしまう革命の闘士でセウトン・メロ(セルトン・メロ)も出演している。映画はアカデミー賞外国映画賞にノミネートされた。

1999年、アンドルーシャ・ヴァヂントン監督のサスペンス映画『ジェミアス(ふたご)』に主演。お互いが入れ替わり、男性を騙して暮らしている一卵性双生児イアラとマリレーラをフェルナンダが演じた。母親役はフェルナンダ・モンチネグロ。

2003年、人気テレノヴェラ『オス・ノルマイス(“普通”の人々)』の映画版『オス・ノルマイス ザ・ムービー』に出演。2作目も2009年に公開された。

2004年には、兄であるクラウジオ・トーヘスが監督を務め、両親が出演した映画『ヘデントール(キリスト像)』では、母フェルナンダ・モンチネグロが演じたイザウーラの若い頃の役で出演しただけでなく、脚本チームにも参加した。

2005年、アンドルーシャ・ヴァヂントン監督作品『カーザ・ジ・アレイア(砂の家)』でも母モンチネグロと親子を演じた。

2006年、スザーナ・アマラウ監督作『オ・カーゾ・モレウ(モレウ事件)』はフーベンス・フォンセカによる同名の観念的な犯罪小説(探偵小説ともいえる)の映画化。フェルナンダは重要なキャラクターの一人を演じた。

2007年、ジョルジ・フルタード監督作『サネアメント・バジコ・オ・フィウミ(「基本的衛生」ザ・ムービー)』は、予算のない小さな自治体の住民が、下水処理環境の改善を独自の道で解決しようとかけずりまわるコメディ。フェルナンダはグアラニ・ブラジル映画賞で主演女優賞を受賞した。

2009年、再び兄のクラウジオ・トーヘスの2作目の爆笑コメディ『恋はまぼろし(邦題)』ではバイプレイヤーとして作品を支えている。

2019年、フェルナンダ・トーヘスは『オ・ジュイーゾ(分別)』で脚本家として本格的にデビューした。監督はアンドルーシャ・ヴァヂントン。過去と向き合う家族の物語で、主演は母モンチネグロ。

(文/麻生雅人)