ブラジル、14カ国に散在する恐竜化石や文化財の返還を要請
2026年 05月 22日
ブラジル政府、連邦検察庁(MPF)、国内の研究機関や科学者らは現在、恐竜の化石を含む自然遺産・文化遺産の返還に向け、少なくとも14カ国との協議を進めている。
こうした国外流出は「科学的植民地主義」と呼ばれ、ブラジルの科学研究や博物館活動に深刻な影響を与えている。外務省(MRE)によると、これらの国々との間で少なくとも20件の返還交渉が進行中だという。
外務省と同様に、セアラー州の連邦検察庁も化石の返還に取り組んでいる。同庁によると、返還要請の件数が最も多いのはアメリカ合衆国(8件)で、以下、ドイツ(4件)、英国(3件)、イタリア(2件)、フランス、スイス、アイルランド、ポルトガル、ウルグアイ、日本(各1件)と続く。
一方、スペイン向けの2件と韓国向けの2件については、いずれも返還要請が拒否されたという。
先月、ブラジルとドイツの間で、セアラー州アラリッピ盆地(Araripe)に生息していた恐竜イリタトル・チャレンジェリ(Irritator challengeri)の化石を返還する協定が結ばれた。イリタトルはスピノサウルス類に属し、最大14メートルに達したとされる。約1億1,600万年前、現在のセアラー州内陸部に生息していた。
この化石はブラジルから違法に持ち出されたもので、1991年以降、ドイツ・シュトゥットガルトの州立自然史博物館に所蔵されていた。
外務省による別の取り組みでは、ブラジルの研究者との協力により、2024年に17世紀の先住民トゥピナンバ族が使用した外套(マント・トゥピナンバ)がデンマークから返還された。
さらに今年2月には、スイスに渡っていたアラリッピ盆地(CE)産のオリジナル化石45点もブラジルに返還されている。
<販売が禁止されている化石>
セアラー州サンターナ・ド・アラリッピにあるプラシド・シダージ・ヌーヴェンス古生物学博物館館長のアリッソン・ピニェイロ教授は、外務省(MRE)が公表した件数に加え、連邦検察庁(MPF)が提起している返還請求も多数存在するとアジェンシア・ブラジルに説明した。
「ドイツとは、ほかにも複数の資料の返還交渉が進んでいます。また、ブラジルの遺産はほぼ全ての大陸に散在しています。米国、フランス、韓国、日本、イタリアとも返還に向けた協議が行われています」と述べた。
ブラジルでは、化石は1942年の政令第4.146号によって保護されている。同政令により、化石を含む自然遺産は連邦政府(国)の所有物とされ、私有化は認められていない。
化石の輸出には例外があり、科学技術省(MCTI)の明示的な許可が必要となるほか、受け取り側の機関がブラジルの研究機関と正式な連携関係を持っていることが条件となる。
「多くの国では、化石を専門業者が売買することが認められています。しかし、ブラジル産の化石を販売することは許されません」と、カリリ地方大学(Urca)の専門家は強調した。
<ウビラジャラ事件>
ブラジルの遺産返還の動きが加速したのは、特に2023年に小型恐竜ウビラジャラ・ジュバトゥス(Ubirajara jubatus)がブラジルへ戻されたことが大きな契機となった。現在、この標本はサンターナ・ド・アラリッピ博物館の収蔵品となっている。
リオグランジ・ド・ノルチ連邦大学(UFRN)の恐竜研究室(DinoLab)を率いる古生物学者アリーニ・ジラルジ氏によると、返還を拒み続けていたドイツ側の博物館に対し、一般市民が2020年から強い圧力をかけ始めたことが転機になったという。
「博物館は『不正はなく、化石はドイツに属する』という趣旨の声明を出しました。しかし、その後、博物館のSNSはブラジル人のコメントで“炎上”状態になりました。これがまさに状況を変えた瞬間でした」とジラルジ氏は語った。
彼女によると、この事件はドイツの博物館のイメージに影響を与え、返還合意を後押しする結果となった。
「欧州の博物館の大半は、かつて植民地だった地域、あるいは現在も権力の非対称性のもとで搾取されている地域から持ち込まれた資料で“あふれています”。こうした国々は、私たちの領土に来て資料を採取する権利があるかのように振る舞ってきました」と語った。
アラリッピ盆地からは、少なくとも490点の大型無脊椎動物化石が不正に持ち出されたことが、1955年から2025年までの研究を分析した『Palaeontologia Electronica』掲載の調査で明らかになっている。調査に参加したジラルジ氏は、「分析対象となった218本の論文のうち、104本(47.7%)が外国人研究者のみで執筆され、ブラジル人研究者が共著に含まれていなかった」と指摘した。
別の研究では、1990年から2020年の間に発表された、アラリッピ盆地産の白亜紀(1億4500万〜6600万年前)の大型化石を扱う71本の論文を特定。そのうち「88%の化石がブラジルから持ち出され、海外の博物館コレクションに収蔵されたまま返還されていない」ことが、英王立協会の学術誌『Royal Society Open Science』に報告されている。
違法な持ち出しが判明すると、善意で返還に応じる機関もある。たとえば、歌手パブロ・ヴィッタルにちなんで命名されたクモCretapalpus vittariの標本は、2021年に米カンザス大学が返還した。このクモは1億年以上前にアラリペ地域に生息していた。
一方で、返還に抵抗を示す国や機関も依然として存在する。
<科学研究への影響>
こうした化石の違法な国外流出は、ブラジルの科学研究に深刻な影響を及ぼしている。多くの場合、国外に渡った標本の研究は、ブラジル人研究者にとって事実上アクセス不能となるためだ。
「優れた化石がすべて海外に流れてしまえば、科学的・学術的な名声を得るような大きな発見をするのは外国人研究者だけになります。彼らは互いに利益を循環させる“権力のサークル”の中にいるため、最先端の研究成果を独占してしまうのです」と彼女は指摘する。
彼女によると、自然遺産の返還は、こうした富裕国に有利な権力構造を断ち切る手段にもなるという。
「返還が進めば、外国からの研究投資を呼び込むことも可能になりますし、私たちも対等な立場で競争できるようになるのです」と強調した。
<博物館への影響>
サンターナ・ド・アラリッピ博物館のアリッソン・ピニェイロ館長は、小型恐竜ウビラジャラの化石が返還されたことで、来館者数と投資額が大幅に増加したと語った。
「ウビラジャラは、この地域のアイデンティティと誇りの一部です。子どもたちが自分たちの土地の豊かさを“自分のもの”として受け止める姿を見るのは非常に重要です。恐竜化石は子どもたちにとって強い魅力があり、大人も含め多くの人を惹きつけています」と、カリリ地方大学(Urca)の生物多様性・天然資源プログラムの教授は説明した。
2006年、ユネスコはアラリッピ盆地をブラジル初の世界ジオパークに指定した。ユネスコ世界ジオパークとは、国際的に重要な地質遺産を有する地域を指す。
さらに2024年2月、恐竜イリタトルやウビラジャラが発見されたアラリッピ盆地は、国連(UN)が定める世界遺産候補地として新たにリスト入りした。この地域は約97万2,000平方キロメートルに及び、セアラー、ピアウイー、ペルナンブッコの各州にまたがっている。
(記事提供/Agência Brasil、構成/麻生雅人)




