ネイマールとブラジルサッカー(前編)
2013年 07月 18日Mega Brasilのサッカーコラムを担当しますコウトクと申します。よろしくお願いします。
サッカー観戦が大好きで、ブラジルに住んでいた頃も、日本に住む今も、できる限り生観戦するようにしています。このコラムでは、ブラジルを中心としたサッカーについて語っていきたいと思います。
さて、今回はコラムの初回ということで、今ブラジルで、いや世界中で最も注目されている選手、ネイマールについて書いていこうと思います。
今のブラジルサッカーを語るうえで、切っても切り離せないのがネイマールだ。日本のサッカーファンの間でも、コンフェデ杯でのネイマールの活躍ぶりは鮮烈だったことだろう。
私は、2005年6月から2012年6月までブラジルに住んでおり、生観戦、TV観戦を問わずよくサッカーを見ていた。ネイマールは、2010年シーズンから今年2013年シーズン前半まで、サントスの絶対的エースとして活躍しており、私もその一部始終を目の当たりにしてきた。
だから、今回のコンフェデ杯での大活躍は、私にとってこれ以上ないぐらいうれしいことでもあった。サインをもらったことも握手をしたこともあり、今回のコンフェデ杯に出場した全選手のなかでも、私にとって最も身近な存在がネイマールだった。
ネイマールの所属しているサントスだが、2006、2007年とサンパウロ州選手権を連覇した後、2008年から暗黒期に入る。そんな中、突如強くなったのが2010年のことだった。この年監督に就任したドリヴァウ・ジュニオールは、積極的に下部組織からの若手を使い、シーズン早々から快進撃を迎えたのだった。
その若手の筆頭が弱冠17歳のネイマールだった。このサントスの快進撃とともに、ネイマールは脚光を浴び始めることになった。
このときのネイマールは、線は細かったが、華麗なテクニックを武器にドリブル突破を得意として、サントスの若きエースとして活躍した。2010年、5月に3年ぶりにサンパウロ州選手権を制覇すると、8月にはブラジル杯のタイトルも圧倒的な得点力で獲得したのだった。
この2010年は、ワールドカップイヤーであり、ブラジル国内で突如大活躍をし始めたネイマール待望論が持ち上がっていた。しかし、当時のセレソン(ブラジル代表)の監督だった頑固なドゥンガは、それまで4年間一度もセレソンに呼んだことのないネイマールを招集することなく、W杯ではベスト8止まりという散々たる結果に終わってしまったのである。
しかし、W杯終了後、監督にマノ・ネメーゼスを迎えた新生セレソンは、早速ネイマールを招集する。そのデビュー戦でいきなり先制ゴールを決める活躍を見せたのだった。このとき、弱冠18歳の若者は、その後もコンスタントにセレソンの中心メンバーとして活躍するのだった。
しかし、そんなネイマールにも挫折はあった。
この年(2010年)の9月に、ネイマールはとんでもないことを起こしてしまうのである。ブラジル選手権の試合中、PKを蹴らせてもらえなかったことに対し激怒し、監督に暴言を吐いてしまったのだ。
試合終了後、TVのインタビュアーの問いかけにも無視。日本ではそんな選手もいるかもしれないが(本田などはそうだろう)、ブラジルでは皆どんな状況でもきちんと答えるのが普通だ。私もこのとき、ブラジル人でインタビュアーを無視する選手を初めて見た。
この態度を見かねた、相手チームの監督が、「ひどい態度のサッカー選手を何人も見ているが、これほどひどい奴はみたことがない。彼はモンスターだ」という発言をした。そのことによって、今まで、ヒーロー扱いされていたネイマールに対してマスコミの態度は一変し、この日を境に大批判されるようになったのだ。「セレソンには呼ぶべきではない」という世論まで起き、セレソン監督のマノ・メネーゼスが会見を開くまでに発展した。
このネイマールの態度に対し、当時のサントス監督のドリヴァウ・ジュニオールが下した制裁は、15日間の出場停止。しかし、それに怒ったのがスポンサーだった。スポンサーはチームのサントスにプレッシャーをかけ、驚くことにサントスは、監督のドリヴァウ・ジュニオールを解雇したのだ。この当時は、サントスというチームは何というバカなことをするのか、と思ったものだった。
しかし、ネイマールはこのことで相当反省したのだろう。この事件があり、彼は人間として一回り成長することができたのだろう。その後の彼の態度は、この事件が嘘だったかのように一変したのだった。(つづく)
(写真/Luiz Fernando Menezes/FotoArena/LatinContent/Getty Images)
2010年10月9日、Estádio Vila Belmiro(ヴィラ・ベウミーロ・スタジアム)でのSantos(サントス)対Atlético-PR(アトレチコ・パラナエンセ)戦でのネイマール