ブラジルの物理学の教師、脳の手術中(!)に計算問題に回答
2016年 10月 10日TVグローボが10月9日、報道バラエティ番組「ファンタスチコ」で伝えたところによると、サンパウロ州で脳の手術を受けていた患者が、手術中、計算テストを受けていたという。
患者は航空技術研究所の物理学教師のアルナウドさん。同研究所はエンジニア育成の教育機関として最高峰とされている。
アルナウドさんは生粋の数学好きで、彼にとって計算は呼吸をするのと同じくらい当たり前に行うことなのだという。
この日、アルナウドさんは教室ではなく、手術台の上で脳の手術を受けながら計算をしていた。そして、人生最大の難局を乗り越えた。
アルナウドさんは航空技術研究所で35年間教鞭をとってきた。彼が自分の異変に気づいたのは2か月前、教室で黒板の前に歩いて行って生徒に説明をしようとしたとき、自分が何について説明しようとしていたかわからなくなってしまった時だ。
その後、生徒の何人かは構内を歩いていて気分が悪くなった彼を介助したという。
病院で検査をした結果、アボカドの種ほどの大きさの腫瘍が脳の右側の前頭葉に見つかった。
手術の前、アルナウドさんは医師から自分の抱えている脳の障害について、ほおっておくといずれ話ができなくなる、人の顔も認識できなくなるという説明を受けたという。
手術を行ったサンパウロ大学医学部病院の医療チームによると、アルナウドさんの手術は頭蓋骨を切開し、脳表を切り出し、腫瘍を取り出す、という手順で行われたという。その間、患者を眠らせず、意識があることを確認する必要があったとのことだ。
確認のため、手術中に医師がアルナウドさんに質問をし、答えてもらうという方法をとった。医療チームは彼が物理学の教師だったことから、計算問題を用意したのだという。
これは医療チームにとっては、腫瘍の摘出過程で脳の機能に影響が出るような傷をつけていないかを確認する意味があったという。
手術中に医師たちは名前を呼び掛けて、意識があることを確認する。そののち、11×53=583、11×82=902などの算式だけでなく、その答えを導き出すまでのプロセスを言語化させるという手法をとった。
また、図形に対する認識も確認し、その用途についての認識も確認した。ハンガーの絵を見せ、これは何に使うものか、といった質問に答えさせるのだ。
そして記憶を確認するための質問を用意した。家族の写真を見せ、家族のそれぞれについて知っていることを現在に至るまで話してもらう。
手術開始から1時間後、腫瘍の摘出は無事に終わった。朗報は手術室の外で待つ家族にも伝えられた。
手術後9日目、アルナウドさんは退院して自宅に戻った。まだ職場復帰は果たせていないが、家に友人を招き、一時は忘れてしまうのではないかと恐れていた友人たちとくつろぎの時間を過ごしている。
入院中は忘れてしまうことを恐れ、お見舞いに来てくれた人たちと写真を撮って細かく記録した。その結果『入院アルバム』が出来上がった。
今は少し左手に一時的なまひが残っているものの、日々リハビリに励み、職場復帰もそう遠くはないとみている。
「私は論理的思考がなくなってしまうことが本当に怖かったので、そのことを手術の前に主治医に話しました。手を尽くしてくださった先生方には本当に感謝しています。早く元の生活に戻りたいと思っています。今の生活が本当に好きなのです」(アルナウドさん)
(文/原田 侑、写真/Reprodução/Fantástico/TV Globo)
写真はアルナウドさんの手術の様子、「ファンタスチコ」より。TVグローボの番組は、日本ではIPCTV/グローボインターナショナル(スカパー 514ch)で放送中)