ブラジル個人所得税の留意点 第二回
2018年 07月 1日<不動産に関連する所得>
ブラジル居住者は、原則、全世界の所得がブラジルで課税されるが、「日本に所有する不動産に関する所得」など例外規定もあることに留意する必要がある。
日本ブラジル租税条約では、不動産から生ずる所得は、不動産が存在する締約国において租税を課すことができるとされている。
たとえば、日本からブラジル子会社に派遣された人が、日本の留守宅を人に貸すことにしたとする。この家賃収入は、日本でのみ課税され、ブラジルでの課税はない。あるいは日本の留守宅をブラジルに居住する間に売却し、譲渡益がでたと仮定する。この譲渡益に関する課税もブラジルでは行われず、不動産の存在する日本でのみ、課税されるということになる。
一方、日本からのブラジル派遣者がブラジルで不動産を取得した場合は、これを売却した際の譲渡益は、不動産の存在する締約国、すなわちブラジルで課税されることになる。
<賃貸契約と住宅手当>
駐在員が現地で住居を借りる場合、契約書類上の煩わしさや言語の問題から、現地法人総務部などの助けを借りて、賃貸契約が、家主と勤めている現地法人の間で行われることがある。
このとき、本人が、現地法人から住宅手当をもらう代わりに、現地法人が家賃を直接家主に支払い、家賃を会社の
経費として会計処理しているケースが時々見受けられる。
この家賃は、法人税法上、本人の所得と考え、給与や役員報酬に含めるべき金額であることから、費用としての控除は認められない。さらに税務調査があると、法人の課税問題だけでなく、本人の報酬に含めていないことに対する個人の所得税の納付不足に対しても追徴されるので、注意が必要である。
<ブラジル所得税確定申告>
医療費について
医療費は課税所得の控除項目になっており、本人と扶養家族の分も含めて、金額の制限はない。医療費として認められる範囲も厳しい制限はない。ただ薬代などは、病院領収書の中に入っていない限り、認められていない。
留意点は、単身赴任などの場合、本人だけでなく、日本に居住する扶養家族の日本での医療費も、所得からの控除が認められることである。ただ、税務署は、通常、ブラジル国外で支払った医療費の控除に対しては、後で詳細な情報を求めることが多く、実際は簡単に控除が認められるわけではない。
<入国前に保有する財産の申告>
ブラジルでは、一定額以上の所得(おおよそ年間で 9000米ドル以上)を得る者は、国籍を問わず、所得税確定申告を
提出しなければならない。そのため、通常、駐在員は普通確定申告提出が義務付けられる。入国後、初めてとなる確定申告書の提出時(2018年の4月末日まで)には、特に留意する点がある。
納税者は、国内、海外を含め、不動産及び一定額以上の動産については、申告書内にある財産申告欄に前年度と当年度の、財産目録をリストアップしなければならない。入国後初めての申告書では、入国前に保有する日本などに保有する財産、借入金などの負債残高を記入申告する。申告しておけば、入国前の所得に関してはブラジルでの課税はない。日本などに残した財産から生ずるブラジル入国後の利子所得や株式譲渡益などは、ブラジルで課税される(日本で源泉徴収があれば差し引く)。
日本の財産を申告しておかないと次のような問題が起きる可能性がある。駐在員の入国後は、税務上は居住者としてブラジル人と同じく扱われるので、入国前にすでに日本で所得税を払って保有した日本にある財産であっても、ブラジルでの申告が必要となる。
ブラジル国外に保有する財産も申告しておかないと、隠し財産と間違えられ、取得に使った金の出所が疑られるリスクが発生する。近年、特に G20 諸国では、課税逃れをとらえようとする目的から個人の保有する海外資産について、各国の情報交換をして、これを把握しようとする動きが具体化しつつあることに留意。
ブラジルの本人銀行口座から、日本を含め、ブラジル国外の本人個人口座へ送金を行なおうとする時、一回の送金が
3000 米ドル以上であると、一般的に個人所得税申告書のコピーが必要となる。ブラジルの所得税申告書に、財産として海外に保有する口座とその残高が書かれていないと、3000米ドル以上の送金はむずかしくなる。
(文/都築慎一、写真/Rafael Neddermeyer/Fotos Públicas)
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