【コラム】ブラジル人たちの不思議な名前の呼び方
2018年 08月 20日会社でブラジル人たちと一緒に仕事をしていると、「Na (ナー)」、「Mi(ミー)」などと1音だけで呼びかけて、話し始めることがある。ナオミさんだとナー、ミゲウだとミー。「ミー、今日これやっといてねー」みたいな感じだ。
いくら長い名前を省略すると言っても日本だったら、ナオミならせめてナオ、ハナコならハナくらいで、ナーとかハーとは呼ばない。美咲やみどりだってミーにはならない。しかしブラジルでは家族など親しい間柄では1音だけで呼びかけるのは、ごく普通だという。
そこで、ブラジル人レポーターのジョニー佐々木に、これがどういう習慣なのか、訊いてみた。
彼からすると、ブラジル人にとってはあまりに普通なことだから、僕がなんでこの習慣に興味を示すのかはじめは判らなかった様子だが、日本にはない習慣だから僕が面白がっていることを知ると、逆にそのことを面白がっていた。
僕が不思議だったのは、Johny(ジョニー)は仲間のことを「Na (ナー)」、「Mi(ミー)」など1音で呼んでいるのに、彼自身は「Ji(ジー)」と略して呼ばれていないので、ちょっと不公平感を感じた。そういえばAlex (アレックス)も「Aa(アー)」とは呼ばれていない。
英語圏の名前であるJohny(ジョニー)は、John(ジョン。ポルトガル語名だとJoão ジョアン)という名をの親しみを込めた呼び方なので、ブラジル式の名前の略し方があてはまらないのかもしれない。
ちなみにジョニーは、子どもの頃はなぜか父親からトンと呼ばれていたそうだが、理由を聞いたことはなかったという。理由はわからないが、ジョニーの父親にとって彼はトンだったに違いない。
さて、そのジョニー曰く、名前を短くして呼ぶときに、1音だけで呼ばないケースがあるとのこと。何でもかんでも名前の最初の1音を呼べばいいというわけではないらしい。
例えば僕はモトノブなので「Mo(モー)」だなと言ったら、モーの音はアモーレ(愛)を意味する言葉に受け取られる可能性があるので、呼びかけには使わないという。
社長のArthur(アルトゥール)は「A(アー)」と呼ばれるかと思いきや、アイウエオをはじめ母音で始まる名前に関しても、まず使わないと言う。
言われてみれば僕の周りでも、Eduardo(エドゥアルド)は短くしても「E(エー)」ではなく「Edu(エドゥ)」と呼ばれている。
さらにいろいろなパターンを考えていくうちに、日本とブラジルでは、名前に使われる言葉(音)がそもそも異なることも、僕がこの習慣を理解しにくい理由のひとつだと気がついた。
ブラジルでは、ヤ・ユ・ヨ・ワで始まる名前はあまり聞かない。僕の周りにいる同僚のブラジル人の例で言えばPedro(ペドロ)、Davi(ダヴィ)、Giovanna(ジオヴァーナ)、Bernardo(ベルナルド)、Daniel(ダニエウ)、Gustavo(グスターヴォ)など、子音の濁音で始まる名前が多い。
では、ヤヨイ、ユリエ、ヨシエ、ワタル、シンゴ、ツヨシ、トシキ、ノブオ、フミヤ、ムサシなど日本名を持っている人が多い日系ブラジル人はどうしているのかと思ったら、名前の最初の一音で呼ばれることは少なく、名前をそのまま呼ばれることが多いらしい。
日本人の僕からしてみれば、なんとも不思議な習慣にしか思えないが、こうなったら徹底的にこの習慣を学んでやろうと「アイウエオ」表を持ち出して、実際に呼びかけに使われる言葉とそうでない言葉を教えてくれと頼んだら、他はだいたい、どれでも大丈夫とのことだった。
しかし、その国の習慣というのは一日や二日でわかるものではない。さっそく失敗をやらかしてしまった。
僕もこの習慣を取り入れてやとろうと思って、部下の女性クリスを「Cu(クー)」と呼んだが、振り向いてもくれなかった。それどころか、「そう呼ばれても返事しないよ」と、睨まれた。
あとでジョニーに聞いたら、ブラジルではCu(クー)はお尻の穴を意味する言葉で、人に呼びかけに使うなんて持ってのほかとのことだ。
NGワードがあるなって、先に言ってくれよ…。
ちなみに「Nu(ヌー)」は裸で、「Co(コー)」はポルトガル語ウンチを意味する「cocô(ココ )」に近いのでこれもNGワード。特に女性に呼びかけたら、たへんなことになりそうだ。
(文/加藤元庸、写真/Michell Zappa)