ブラジルで国産映画の存在感、増す。第38回東京国際映画祭でもブラジル映画6作品を紹介

2025年 10月 22日

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第38回東京国際映画祭「ブラジル映画週間」で上映されるブラジル映画「カーザ・ブランカ」(画像提供/東京国際映画祭)

ブラジル映画が勢いづいている。現在日本で公開されている「アイム・スティル・ヒア」が 第97回アカデミー賞で国際長編映画賞を受賞したのも記憶に新しいが、今年5月には第78回カンヌ国際映画で、「ザ・シークレット・エージェント」のクレベール・メンドンサ・フィーリョ監督が最優秀監督賞を、同映画のヴァギネル・モウラが男優賞を受賞するなど、世界の観客を魅了する作品がコンスタントに生まれている。

10月27日(月)からはじまる第38回東京国際映画祭で上映される「ブルー・トレイル」は第75回ベルリン国際映画祭銀熊賞でエキュメニカル審査員賞を受賞。同じく同映画祭で上映される音楽家ミウトン・“ビトゥッカ”・ナシメントのドキュメンタリー映画「ビトゥーカ ミルトン・ナシメント フェアウェルツアー(仮題)」は、11月に発表される第26回ラテン・グラミー賞で長編ミュージックビデオ作品部門にノミネートされている。

ブラジル映画の好調ぶりは数字にも表われている。先月24日、ブラジル国立映画庁(ANCINE)は、2025年1月から8月31日までの国内の映画館の市場動向を発表して、過去の統計データとの比較も提示した。

ANCINEによると、現在、ブラジル国内には3,534の映画館が営業されており、統計開始以来最多の数字となっているという。ブラジルの映画館施設数は、2015年(3005施設)から2019(3507施設)年にかけて順調に増加していたが、新型コロナウイルス感染症のパンデミックの影響で2020年(1860施設)に減少した。しかし2021年(3266施設)以降は回復して、伸びを見せていた。

映画上映回数もパンデミック以降、回復基調を維持しており、今年8月1日までに291万回の上映が行われた。これはパンデミック前の2019年(294万回)に記録された水準に近づきつつある。

公開された映画の作品数は、今年8月31日までに計349本で、そのうち132本が国産映画(ブラジル映画)だった。

映画の観客数の中で国産映画の観客数が占めるの割合は、2003年は低迷して1.4%だったが、2025年は11.2%に上昇。映画の上映回数の中で国産映画の上映回数が占める割合も、2023年の4%から2025年は14.1%に上昇している。

国産映画の上映作品数や観客数が伸びている背景はいくつか考えられるが、政府による支援も大きい。ANCINEも、映画館を運営する興行会社に対し、一定数の長編ブラジル映画を上映プログラムに組み込むことを義務づけるスクリーンクォータ制度の成果を表明している。

また、国産映画の活性化には、企業による継続的なサポートも欠かせない。ブラジル映画にとって大きなスポンサーのひとつが国営石油会社(ペトロブラス)だ。

「アジェンシア・ブラジル」によると、今月3日、ペトロブラスは、2027年までに総額1億レアルをブラジルの映像コンテンツ分野に投じると発表した。

この資金は、映画や、TVのシリーズドラマの制作や配給、上映施設の維持、さらに、グラマード(リオグランジドスウ州)、チラデンチス(ミナスジェライス州)、ボニート・シネ・スウ(マットグロッソドスウ州)、モストラ・ジ・ゴストーゾ(リオグランジドノルチ州)といった国内の各映画祭への協賛に充てられる予定とのこと。

ペトロブラスのミウトン・ビッテンコール文化支援部門マネージャーは「私たちの使命は、ブラジル映画を強化し、我が国の物語を語り続け、現在と対話し、未来を描き出せるようにすることです」と語っている。

「アジェンシア・ブラジル」によると、この三十年間で、ペトロブラスは長編、短編、ドキュメンタリーを含む600本以上のブラジル映画を支援してきた。その中には「シダージ・ジ・デウス(シティ・オブ・ゴッド)」、「カランジル」、「バクラウ 地図から消された村」など日本で公開された作品のほか、カンヌ映画祭での受賞で話題となっている「ザ・シークレット・エージェント」も含まれている。

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第38回東京国際映画祭「ブラジル映画週間」で上映されるブラジル映画「ブルー・トレイル」(画像提供/東京国際映画祭)

第38回東京国際映画祭(TIFF)では、長瀬映像文化財団(NFAJ)の共催企画「TIFF/NFAJクラシックス」は同映画祭のワールドフォーカス部門として、1960年代から現在までのブラジル映画の秀作を紹介する「ブラジル映画週間」を開催する。

「ブラジル映画週間」では、1960年代に興った“シネマ・ノーヴォ”(ブラジル版“ヌーヴェルヴァーグ”)を代表する映像作家グラウベル・ホッシャの2作品「黒い神と白い悪魔」(1964)と「アントニオ・ダス・モルテス」(1969)、「アイム・スティル・ヒア」のヴァウテル・サリス監督の出世作「セントラル・ステーション」(1998)と、最新の映画3作品を上映する。

ルシアーノ・ビジガウ監督「カーザ・ブランカ」(2024)は、アルツハイマー病を患う祖母と二人で暮らす少年デーは、二人の親友の助けを借りながら祖母を看病し、日々の困難を乗り越えていく中で、友情と連帯を学んでいく物語。低所得者層の居住区を舞台に、余命わずかな祖母と過ごす時間を通じて、少年たちが直面する現実の厳しさと、それを乗り越えるために生まれる絆の強さを映し出す。

ガブリエウ・マスカーロ監督「ブルー・トレイル」(2025)は、近未来のブラジルを舞台にした社会派ドラマ。高齢者が「社会に貢献し終えた存在」として強制収容される制度が敷かれたディストピア的社会で、自由を奪われることを拒んだ77歳のひとりの女性が、アマゾン川を逃避行する。主人公テレーザが旅の途中で出会う人々との交流を通じて、映画は、老いと自由、人間の価値をめぐる根源的な問いを投げかける。

フラーヴィア・モラエス監督「ビトゥーカ ミルトン・ナシメント フェアウェルツアー(仮題)」は、ビトゥッカの愛称で知られるミウトン・ナシメントの最後のツアーに密着したドキュメンタリー。2022年から2年にわたり撮影され、ナレーションは「セントラル・ステーション」の主役も務めている名優フェルナンダ・モンチネグロが担当している。ツアーの舞台裏やミウトンの素顔を映し出すと同時に、カエターノ・ヴェローゾ、ジウベルト・ジウ、クインシー・ジョーンズ、スパイク・リーなど、国内外のアーティスト40名以上がミウトンについて語る。幼少期の再現映像など、ミウトンの故郷ミナスジェライス州が、このアーティストの原風景として詩的に描き、ミウトンと故郷ミナスとの結びつきも伝えている。

「ブラジル映画週間」は国立映画アーカイブ 長瀬記念ホール OZU(東京都中央区京橋 3-7-6)にて下記のスケジュールで上映される。定員310名(各回入替制・全席指定席)。

料金は一般1,300円、高校・大学生・65歳以上は1,100円、小・中学生900円、障害者手帳をお持ちの方(付添者は原則1名まで)・キャンパスメンバーズが800円。※「ビトゥーカ ミルトン・ナシメント フェアウェルツアー(仮題)」のみ特別料金となる。

チケットのオンライン販売は各上映日の3日前正午からはじまる(例:「ブルー・トレイル」10月28日(火)15:00~の回は10月25日 12:00より発売)。

「黒い神と白い悪魔」(1964) ▼10月29日(水)15:00~/10月31日(金)19:00~
「アントニオ・ダス・モルテス」(1969) ▼10月29日(水)19:00~/10月31日(金)15:00~
「セントラル・ステーション」(1998)  ▼10月28日(火)19:00~/11月2日(日)13:00~
「カーザ・ブランカ」(2025) ▼10月30日(木)19:00~/11月1日(土)15:00~
「ブルー・トレイル」(2025) ▼10月28日(火)15:00~/10月30日(木)15:00~/11月1日(土)19:00~
「ビトゥーカ ミルトン・ナシメント フェアウェルツアー(仮題)」 ▼11月02日(日) 16:00~

映画祭詳細は公式HP(https://2025.tiff-jp.net/ja/)を参照

(文/麻生雅人)