レアアース埋蔵量世界2位のブラジルは、「戦略的空白」を抱えていると専門家が指摘

2026年 05月 13日

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ブラジルのレアアース埋蔵量は約2,100万トンに上り、中国(約4,400万トン)に次いで世界第2位の規模とされるが、国土の約25%しか地質調査が進んでおらず、未発見の潜在力は大きいとみられている(画像:Portal Gov.br)

ブラジルは鉱物資源を管理するための法的手段を備えているものの、それを産業発展へと結びつけることに失敗している――。そう指摘するのは、気候正義と気候法の専門家であるルシアーナ・バウエル氏だ。

連邦裁判官としての経歴を持ち、Jusclima研究所(気候変動と社会的公正を扱う研究機関)を創設したルシアーナ氏は、長期的な目標を掲げ、ブラジルの技術・産業発展を促す戦略的計画の欠如が、同国が持つ地質学的潜在力の活用を妨げているとみている。

バウエル氏によると、彼女が「戦略的空白」と呼ぶ状況は、国家主権そのものを脅かしかねないという。とりわけ、中国や米国といった世界的な大国が、テクノロジー産業、自動車産業、防衛産業、さらにはエネルギー転換の実現に不可欠なクリティカルミネラルやレアアースの鉱床をめぐって争奪を繰り広げる現在の国際環境において、そのリスクは一層高まっている。

「ブラジルには、地下資源や鉱物コモディティに対する主権を定めた法制度、特に憲法の規定がすでに整備されています」。ルシアーナ・バウエル氏は Agência Brasil の取材にこう語った。

「必要なのは、憲法の基本原則を出発点に、それを具体化していく戦略です。レアアースやクリティカルミネラル(重要鉱物)に限らず、私たちが保有するあらゆる鉱物資源を、どのように国民の利益に結びつけるかという戦略を構築することが求められています」と同氏は続けた。これは、鉱物資源は連邦政府に帰属し、国家の利益に沿うかたちでのみ採掘が許可されるという憲法上の原則を指しての発言だ。

「鉱物資源を保有しているだけでは、戦略的優位は確保できません」。専門家はこう警鐘を鳴らす。これは、彼女が政治学者ペドロ・コスタ氏とともに、進歩派の社会運動関係者、コミュニティメディア、環境保護団体、社会活動家らで構成される市民団体「主権擁護ネットワーク」からの依頼で作成した研究の結論のひとつでもある。

ルシアーナ氏とコスタ氏の提言を踏まえ、「主権擁護ネットワーク」は一連の勧告を取りまとめ、クリティカルミネラルおよび戦略鉱物の国家政策を定める法案(PL 2.780/2024)の審査を担当するアルナウド・ジャルジン下院議員(シダダニア党・サンパウロ州)に提出。ジャルジン議員は同法案に関する報告書を今月4日(月)に提出して、6日(水)に下院で可決された。

議員によると、報告書は鉱業分野、産業界、行政機関、専門家らから寄せられた提案を踏まえて作成されたもので、ブラジルが保有する戦略鉱物の埋蔵量を活用し、付加価値の高い製品を国内で生産する産業チェーンの構築を目指す内容となっている。

「重要なのは、単に資源を採掘することではありません。ブラジルが新たな経済の中でどのような役割を果たしたいのか――原料供給国にとどまるのか、それとも価値創出・技術・開発の主導的立場を目指すのか――を決めることなのです」(アルナウド・ジャルジン下院議員)

ルシアーナ氏によると、報告官の判断を経た今回の法案には一定の前進が見られるものの、あくまで「最低限の規制枠組み」にとどまっており、下院で可決された場合には、続く上院でさらに議論と改善が必要になるという。将来的な改良の余地は大きいと指摘する。

「(PL 2.780/2024 は)この段階の議論には適しています。私たちが支持するハイブリッド型モデルを導入しており(現時点で国営企業の創設案を退けている点も含め)、その点は前進です。しかし、領土の安全保障や資源開発に必要な憲法原則の具体化がまだ不十分です」と同氏は述べた。

さらにルシアーナ氏は、同法案には依然として戦略的計画が欠けており、ブラジルが鉱物資源に対する国家主権を守るための実効性のある措置も十分に盛り込まれていないと指摘しており、国家の主権確保という観点からも、より踏み込んだ制度設計が必要だと訴えた。

<提案事項>

「主権擁護ネットワーク」によると、ルシアーナ氏とコスタ氏に委託した研究に基づき取りまとめ、ジャルジン議員に提出した提案は、国家主権の重要性だけでなく、環境保護やブラジルの民主的制度の維持にも重点を置いた内容となっている。

研究の著者らと同様、同団体は戦略鉱物資源の管理における「ハイブリッド型モデル」を支持している。これは、決定的な要素が資源そのものの保有ではなく、精製・加工・技術応用といった 価値連鎖(バリューチェーン)の掌握にあるとの認識に基づくものだ。

「ハイブリッド型モデルでは、ペトロブラスのような独占的な国営企業を創設することが必須ではありません。国が設立することも可能ですが、民間主体の参入も認める仕組みです」と、ルシアーナ氏は提案内容を説明した。同氏によると、これは国家の調整力と規制権限を民間の活動と組み合わせる中国のモデルに近く、同国では多数の中小鉱山会社が活動しているという。

「レアアースやクリティカルミネラルの採掘は大企業にしかできない、というのは誤りです。中国、オーストラリア、カナダなどでは多くの中小鉱山会社が実際に操業しています」(ルシアーナ・バウエル氏)

「主権擁護ネットワーク」はこのほか、連邦政府による戦略備蓄政策の導入、未加工鉱石や濃縮鉱石の輸出に対する条件付け、先住民族および伝統的コミュニティへの事前協議の義務化など、複数の勧告も提示している。

ブラジルのレアアース埋蔵量は約2,100万トンに上り、既に確認されている規模としては中国(約4,400万トン)に次いで世界第2位とされる。ただし、国土のわずか約25%しか地質調査が進んでおらず、未発見の潜在力は極めて大きいとみられている。

エネルギー転換を後押しする資源として注目されるレアアース、戦略鉱物、クリティカルミネラルは、近年、国際的な重要性を急速に高めている。しばしば同義語のように扱われるものの、地政学や世界経済において果たす役割はそれぞれ異なる。

ブラジル地質調査局(SGB)によると、戦略鉱物とは、各国の経済発展に不可欠で、高度技術、防衛、エネルギー転換に必要な製品やプロセスに欠かせない鉱物を指す。

一方、クリティカルミネラルは、供給にさまざまなリスクが伴う鉱物を指す。具体的には、生産の地理的集中、対外依存、地政学的な不安定性、技術的制約、供給途絶、代替の困難さなどが挙げられる。

レアアース(ETR)は、周期表にある17の元素群を指し、15のランタノイド(ランタン、セリウム、ネオジム、ジスプロシウムなど)に加え、スカンジウムとイットリウムが含まれる。風力タービン、電気自動車、バッテリー、電子機器、防衛システムなど、先端技術に不可欠な素材だ。

どの鉱物を戦略的またはクリティカルと定義するかは国によって異なり、技術革新、地質調査の進展、地政学の変化、需要動向などに応じてリストは変動する。また、レアアースは文脈によって戦略鉱物やクリティカルミネラルに分類されることもある。

(記事提供/Agência Brasil、構成/麻生雅人)