ネイマールとブラジルサッカー(後編)

2013年 08月 8日

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<コラム「フッチボウ・アルチ~ブラジルサッカーの魅力~」ネイマールとブラジルサッカー(前編)からのつづき>

そんなネイマールだが、その後はブラジル国内での社会現象といっても過言ではないほどの活躍ぶりである。これは、本業のサッカーだけではない。あらゆるメディアにおいて、これ以上ないってほどに露出されているのである。

最初のころは、ホモではないかと思われるぐらい常に一緒にいた大親友で、サントスのチームメイトでもあったMFガンソ(現サンパウロ)とワンセットで捉えられていた部分もあり、よく雑誌の表紙を二人で飾っていたが、徐々にネイマールだけがクローズアップされるようになってきた。

ネイマールを特集した雑誌は数知れず、TVCMに至っては、パナソニックをはじめ、スポーツメーカーのナイキ、国民的飲料のガラナ・アンタルチカ、携帯電話のクラーロ、自動車のフォルクスワーゲン、加工食品のセアラなど、超引っ張りだこであった。

その他、ブラジルの3大カルナヴァウ(カーニバル)の一つ、サルヴァドールのカルナヴァウには毎年のように出てくるし、有名歌手とのコラボレーションも数多くこなす。

そして極め付けはアメニティ商品である。ネイマールの写真を表紙にしたノートなどが売り出されているのだ。顔写真付きのノートなど、ブラジル広しといえども、ネイマールとジャスティン・ビーバーぐらいしか見たことがない。まさに社会現象といえるほどの露出ぶりなのである。

また、女の子からの人気ぶりは相当なもので、スタジアムには、ブラジルのスタジアムではほとんど見られないような若い女の子がネイマール目当てに、ネイマールの顔写真の立て看板など持ってキャーキャー言いながら見ているのである。まるでアイドルのコンサートのようだ。私も、サルヴァドールで行われたネイマール主催のチャリティー・マッチで、お揃いのネイマールの写真入りのTシャツを着た女の子のグループを見かけて圧倒された。聞いたところによると、わざわざ遠方のミナス州から来たとのことだった。

ネイマールは、ブラジル中の注目を一身に受けている感じなのである。

さて、本業のサッカーでは、プライベート以上の活躍ぶりである。

まずは、2011年、ブラジルのサッカークラブならどこでも最大の目標にしている南米王者のタイトルであるリベルタドーレス杯を弱冠19歳にして制覇し、大会MVPにも輝く。

そして、その年12月、日本で行われたクラブW杯決勝は、ブラジル一のクラッキ、ネイマール擁するサントスと、世界一のクラッキ、メッシ擁する誰もが認める世界最強のクラブ、バルセロナとの対戦となった。

それも舞台は我が国日本である。これほど楽しみな試合はないぐらいに思ったほどだった。試合は、4-0でバルサ圧勝と残念な結果だったが、ここでのネイマールの立ち振る舞いには感動させられた。

「この試合では、本当に勉強になった」「メッシは、世界一の選手。そんな選手と一緒のピッチに立ててうれしい」といったコメントを聞いたとき、あの悪がきだったネイマールがよくぞここまで成長したものだ、と感動したことを覚えている。

それまで、ブラジル国外ではほとんど注目を浴びていなかったネイマールとサントスだったが、これを境にかなり注目を浴びるようになったと思う。

その後、2012年1月には、あの澤穂希、佐々木監督も受賞したFIFAバロンドールで、プスカス賞(最優秀ゴール賞)に輝く。これも、ヨーロッパのリーグ以外から獲得するのは異例中の異例のことだろう。2012年のネイマールは、サントス創立100周年に花を添えるように、強豪ひしめくサンパウロ州選手権3連覇に貢献した。これは、サントスにとってペレの時代以来の快挙である。

そして、エースとして出場したその年8月のロンドンオリンピックでは残念ながら銀メダルに終わったが、今年2013年は、何といってもコンフェデ杯だろう。

ネイマールは、初めてセレソンの10番を背負い、ブラジルの優勝に貢献。誰もが納得する形で大会MVPに選ばれた。この大会でのネイマール、そしてブラジルのパフォーマンスは、本当に素晴らしかった。

この素晴らしいパフォーマンスを見て、私はとてもうれしく思った。特に決勝であの世界最強のスペインを破っての優勝には心踊らされるものがあった。やはり、2011年のクラブW杯でのサントスの完敗が目に焼き付いていたので、その雪辱の意味でも、スペインと戦い勝ってほしかったからだ。それが、決勝という最高の舞台で見られたのだから、これ以上のものはない。この優勝で、ヨーロッパ全盛が叫ばれる中、ネイマール、そしてブラジルサッカーの健在ぶりを示すことができたのだった。

そんなネイマールが、ついにヨーロッパ移籍を決断した。チームは、世界一のクラッキ、メッシのいるバルセロナである。新天地、バルセロナで、どのようなパフォーマンスを見せてくれるのか。これからも目が離せないネイマールなのである。

(写真/Lunae Parracho/LatinContent/Getty Images)
写真は2011年3月4日、バイーア州サルヴァドールのカルナヴァウでプラネッタ・バンド・オットンのカマロッチ(VIP席)にて。「Liga da Justiça(リーガ・ダ・ジュスチッサ)」の大ヒットで知られるポップス・バンド(Leva Nóiz)レーヴァ・ノイスのAndré Ramon(アンドレ・ハモン)とネイマール

著者紹介

コウトク

2005年6月~2012年6月まで仕事の関係で、ブラジルに在住。ブラジル在住当時は、サッカー観戦に興じる。サントス戦については、生観戦、TV観戦問わずほぼ全試合を見ていた。
2007年5月のサンパウロ選手権と2010年8月のブラジル杯のサントス優勝の瞬間をスタジアムで体感。また、2011年6月のリベルタドーレス杯制覇時は、スタジアム近くのBarで、大勢のサンチスタと共にTV観戦し、優勝の喜びを味わった。

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