カトリックだけじゃない。寛容の国、ブラジル
2015年 07月 1日前回のコラムでご紹介した「神はブラジル人」。この言い回しを使って、何とも気の利いたお話をした方がいます。カトリック教会のトップだったローマ教皇ヨハネ・パウロ二世です。
彼が1997年にリオデジャネイロを訪れたとき「もし神がブラジル人なら、私はカリオカだ」と語りました。ポープはカリオカの心をグッと掴んだことでしょう。
ところで、カトリック大国といわれるブラジル人が信仰する宗教について、ブラジル地理統計院がデータを公表しています。2010年のデータによるとカトリック約65%、プロテスタント約22%、無宗教8%となっていますが、ブラジルにはキリスト教の新しい宗派やアフリカ由来の信仰、そして仏教、神道ほか、いろいろな宗教が共存しています。
あらゆる国からの移住者がいるブラジルにおいて宗教にも多様性があるのは自然なことと思います。ただし、人々は必ずしも出身国ゆかりの宗教を信仰しているというわけでもありません。
また、それぞれの宗教が対立している大きな事件や諍いを私は聞いたことがありません。お互いの宗教にそれぞれが寛容なのだと感じました。教会に行くこともあるし寺に行くこともある、という人に会ったこともありますし、お寺の夏祭りは日系人のみならずいろいろなブラジル人が来ていて大人気でした。ヤキソバがお目当の人も多いと思いますが。
バイーア州の州都サルバドールでボンフィン教会というカトリック教の教会を訪れた時、教会の敷地回りに建てられた柵に、フィッタ(あるいはフィッチーニャ)と呼ばれる色とりどりのリボンがびっしり結びつけられているのを見ました。
リボンの色は、アフリカから奴隷として連れてこられた人々が信仰していた宗教をルーツに持つ「カンドンブレ」という宗教の神様を表すシンボルカラーです。それだけでなく、さらにキリスト教の聖人も重ね合わせた意味付けがされています。例えば、水色はイエマンジャ=海の女神=聖母マリア、というように。
教会内にある博物館の受付の方にたずねたら、「人が何を思って祈っていても、それは我々にはわからない。バイーアの白くてふわっとしたスカートを着た(カンドンブレを信仰する)女性たちが、年に1回、ボンフィン教会前の階段を洗うお祭りも、教会の外で彼らが自由にやっているもの。彼女たちは教会の中には入れない」とのことでした。それぞれの立場を維持しながらうまく折り合いをつけて共存しているんですね。
ブラジルの学校の中には、キリスト教の宗派、さらには広い意味での宗教を超えて、みんなで共に、というエクメニズムの考え方に基づいて卒業式を行うところもあります。近くにあるメジャーな教会やお寺から、神父、牧師、住職などを招き、皆に祝ってもらうというものです。
宗教は人の心や社会の安寧のためにあると思いますが、その宗教が原因で争い事が起こるのはなんとも
悲しいことです。そういうことがおきないブラジルのおおらかさは素敵です。
(写真・文/井上睦子)
写真はバイーア州サルバドール、ボンフィン教会の柵に結びつけられたフィッタ。フィッタは願い事をかなえてくれるおまじないのしるしやお守りとして手首や足首に結ぶ習慣もある