遺伝学者によるブラジル人種論の新展開

2016年 11月 14日

黒人女性のマーチ

統計社会学者たちが、客観データとして信頼できると判断しているのが、2008年にフォリャ・デ・サンパウロ紙が行った全国面接調査(対象:2900 人)だ。これによれば、白人 37% 褐色 36% 黒人 14% 暗褐色 4% インディオ 5% 黄色 3%、となっている。すなわち、広義の黒人層が全人口の 54% を占める、という調査結果は、ブラジルの実態を反映していると専門家は考えているのだ。

こうした人種混淆状況を社会科学の視点から分析・評価する試みは、1930年代から、ジウベルト・フレイレや ダルシー・リベイロといった社会人類学者らによってなされてきたが、自然科学とりわけ遺伝学から科学的なアプローチが行われるようになったのは、つい最近のことでしかない。

黒人女性のマーチ

ブラジルの遺伝学者のなかでも、科学的なデータに基づいて、一般読者向けにも人種問題について発言を続けているのが、セルジオ・ダニーロ・ペーナ教授だ。

カナダのマニトバ大学で博士号(遺伝学)を修得し、現在はミナスジェライス連邦大学生化学・免疫学部教授として国際的に知られるペーナ教授が有名になったのは、共著「Homo Brasilis」を 2002 年に刊行してからだろう。この著は「ブラジル遺伝学会」が開催した国際シンポの成果をまとめたもので、ブラジル人がどのように形成されてきたか、を遺伝学、歴史学、人類学、社会学、言語学などから解明しようという試みの書であった。

そんなペーナ教授が総合週刊誌ヴェージャ(2016年8月10日号)のコラムにいささかポレミックな論稿を発表しているので、主要部分を訳出してみたい(次ページへつづく)。

(文/岸和田仁、記事提供/ブラジル特報(日本ブラジル中央協会)、写真/Tânia Rêgo/Agência Brasil)
写真は2015年3月16日、リオデジャネイロ。人種差別や黒人女性への暴力をなくすための運動「黒人女性のマーチ」が開催された。同イベントは11月18日にもブラジリアで開催された