ブラジルで天然素材の農業用保水ゲル実用化へ

2017年 07月 30日

ハイドロゲン ブラジル

ブラジルは農業大国ながら、南部で大雨かと思うと、北東部では干ばつ、と、常に天候の変動に悩まされてきた歴史をもつ。

特に今年の北東部の干ばつはここ100年の中で最悪と言われるレベルで、年始から飲料水にも事欠く状態が続いていた。

冬の雨季に入り沿岸部ではようやく雨が降り出したが、内陸部では雨は降らず、いまだ緊急事態宣言が解除されていない自治体もある。当然、農牧畜用に回せる水もなく、農業生産が停止状態となっている。

その干ばつを緩和するかもしれない研究成果が、サンパウロ州のサン・カルロス連邦大学(UFSCar)から発表された。

グローボ系ニュースサイト「G1」が7月10日づけで伝えたところによると、同大学の農業用ハイドロゲル(保水ゲル)研究チームが1グラムで2キロの水を蓄えられるゲルの開発に成功したという。

研究チームは12年の歳月をかけて潅水と肥料散布を適正化を可能にするハイドロゲルの開発を行っており、今まで何度か試作品を出してきたが、このほど、大幅に品質レベルを高めた製品を完成させた。

今回の完成品は天然由来の材料を用いることで環境への影響を最小限に抑えつつ、製造コストがより低く、かつ保水量が格段に多いものとなった。

「現在市場に出ているハイドロゲルの保水量は製品重量の200~400倍ですが、我々が開発した製品の保水量は2000倍です」(UFSCar物理化学科博士課程のアドリエウ・ボルトリンさん)

この研究は2012年、農業地区の衛生管理についての研究機関、エンプラパ・インストゥルメンタサゥンの研究員、ルイス・エンヒッキ・カパレッリ・マトーゾさんとジョゼー・マノエウ・マルコンシーニさんの指導の下、UFSCarのファウズィ・アーマド・アオウアーダさんが始めたものだ。アドリエウさんはファウズィさんから研究を引き継ぎ、材料を変えたりしながら改良を重ね、現在の製品を完成させた。

新作のハイドロゲルは現在、ブラジリアにあるエンブラパの試験農場でトマトとピーマンの栽培に使われている。研究チームはこの製品を市場に出すための協力機関・団体を募集している。

ハイドロゲルの用途として現在最もポピュラーなのはおむつ、コンタクトレンズだが、これまでの製品は農業用としてはコストが高すぎた。研究チームの課題の一つはその点で、コストをできるだけ下げるということも念頭に置いて研究を重ねた。

コストを下げる、という点を重視した結果、研究員たちは天然素材を使って、セルロースからの派生物を合成ヒドロゲルに加えてみることにしたという。

しかしながら最初の試作品は100倍までの保水力しかなく、製造コストも実際の農業の現場で使うには高すぎた。チームは思い切ってゼロから方式を見直し、粘土から抽出した成分を使って開発をはじめ、改良を重ね、1グラム2キロの保水量を達成した。

マトーゾ教授は「これによって農業用ハイドロゲル技術は飛躍的に伸びた」と語る。

研究メンバーはスポンジと新しく開発したハイドロゲルを比較し、スポンジよりも吸水性が高く、一定の期間が経過したのちも安定的に水分と養分を与え続けることを確認した。しかも天然成分のため、役割を終えた後も廃棄物が出ないのだ。

「雨が降らなくても植物には継続的に水をやること必要です。この新しいハイドロゲルを使えば植物はここから水分と養分を継続的に得られるのです」(アドリエウさん)

このゲルを使うと、水や養分をやりすぎるということもなくなるという。

「例えばある植物に1週間、1日1グラムの養分が必要だったとします。1週間で7回、1日1回ずつ人間がこれを行う場合、ずいぶんと費用がかかります。また、せっかく養分を与えても、その直後に雨が降って全部流されて無駄になることもあります」(マトーゾ教授)

ブラジルの干ばつは単なる農産物の減産だけでなく、生き延びるため農地を捨てて大都市に移住する国内難民を生んでいる。製造コストだけでなく運用コスト、廃棄物回収コストの削減まで実現できる画期的なハイドロゲルは、国内難民問題という社会的コストの削減にも大きく寄与すると思われる。

(文/原田 侑、写真/Paloma Bazan/Divulgação)