アイガモ農法ならぬヒツジ農法、ブラジルで拡大中
2018年 04月 6日オーガニック食品の需要が世界的に高まる中、無農薬・低農薬志向の農家は世界各国で様々な工夫を凝らして生産活動を行っている。日本でも農薬に頼らずに雑草を取り除く合鴨農法で栽培したコメが高級米として流通している。
ブラジルでも産物は異なるものの、除草剤に頼らず動物を活用した農法で収益を上げつつある地域がある。
TVグローボがアグロビジネス情報番組「グローボ・フラウ」で伝えたところによると、ブラジル北東部で果物栽培とヒツジの飼育を組み合わせた新しい農法が広がりつつあるという。
ペルナンブーコ州ペトロリーナ市は地理的には内陸部の乾燥地帯に属するが、近くを流れる大河、サンフランシスコ川の恩恵を受けており、農牧畜業が盛んだ。
農家は家畜の飼育をしながら、玉ねぎ、豆、トマト、メロン、スイカ、ブドウ、ニンニク、マンゴーなどの農産品を栽培して生計を立てている。
ペトロリーナ市でブドウ栽培を行っているパウロ・アウメイダさん夫妻は自分たちの持つリソースをもっと生産的に活用できないかと頭を悩ませてきた。ある日、ブドウ畑に迷い込んだヒツジが、弦の下にあるスペースで草を食べている姿を見て、果樹園の新しい活用方法を思いついた。
アウメイダさんは1区画あたり30頭の小型のヒツジを毎日ブドウの弦の下のスペースに放ち、草を食べさせている。小型のヒツジを選んだのは、臆病な性質と後ろ足で立ち上がってもブドウの実に届かないためだ。ヤギなど大きいものになると、後ろ足で立つなどしてブドウの実を簡単に食べてしまうのだ。
アウメイダさんの試みは成功し、ブドウ畑の草取りにかかる費用を削減しただけでなく、13ヘクタールのブドウ畑はヒツジのえさ場として良質な羊肉も生産している。
ヒツジが草を食べている間、果樹園の従業員たちはブドウの房から出来の悪い実を間引いていく。草取りがなくなった分、従業員たちはこの作業に十分な時間を割くことができ、ブドウの質を向上させることができた。
9年前にこの農法を始めて以降、ブドウの木の下に生やす草の種類もいろいろと試してきた。中でも、カッピン・アルアーナという種類の草は生育サイクルが早く、ヒツジの肉質を向上させ、かつ、ブドウの生育にも影響を与えないことがわかったという。
アウメイダさんはブドウの生育度合いをみながらヒツジを放つ区画を決めている。ブドウが収穫期に入った区画にはヒツジを放たず、従業員がブドウの収穫に専念する。
この農法でアウメイダさんは年間60トンのブドウと、300頭のヒツジを出荷している。彼らの成功例に追随する農家が次々と現れ、今では地域全体に広がりつつあるという。
マンゴー農家のホベルト・フェヘイラ・ダ・コスタさんもこの農法で収益率を上げた一人。ここでもヒツジが果樹園に入るのは、まだマンゴーの実が成っていない時期だけだ。
マンゴーの下にはやす草は自然のものもあれば、コスタさんが植えたものもある。羊肉の質をさらに向上させるため、ミネラル塩成分を含ませたエサも併用しているという
果樹園と動物の飼育に関して注意すべき点としては、果樹には定期的にボルドー液など有機規格に合った栄養剤を噴霧する必要があるが、栄養剤で動物が中毒になる可能性もあるため、その時期には動物を果樹に触れさせないよう気を配る必要があるという。
地面に植えるタイプの作物には適用できない農法だが、オーガニック食品に対する需要がますます大きくなる中、新しい農法は生産農家からも消費者からも熱い視線を浴び続けていくと思われる。
(文/原田 侑、写真/Reprodução/Globo Rural/TV Globo)
写真は「グローボ・フラウ」よりペルナンブッコ州のぶどう農家。TVグローボ系列の番組はIPCTV(グローボ・インターナショナル)で放送中。視聴の問い合わせは、080-3510-0676 日本語対応ダイヤルまで)