ロシアW杯 ブラジルの対戦相手になりかけた日本。感動をありがとう! 西野ジャパンの素晴らしい戦いを終えて
2018年 07月 4日ここまで凄い試合になるとは夢にも思わなかった。
ブラジルがベスト8進出を決めた約2時間後に、その試合は始まった。
日本人であるわれわれにとっては、これ以上ないぐらい大事な試合だが、世界中でみれば、決勝トーナメントでもっとも盛り上がりに欠ける試合と思われていたかもしれない。
ヨーロッパの一流クラブのエースを多数揃えた世界ランキング3位の超強豪チームと、グループリーグをやっとのことで突破してきた世界ランキング61位のアジアの弱小チーム。贔屓目なしでも、誰もがそう思うだろう。
しかし、ベルギーの猛攻を受けながらも、0-0で前半を折り返した。ベルギーに押し込まれていたとはいえ、日本にもカウンターからの得意な形からいくつか決定的なチャンスを作れており、希望が持てる内容だった。
そして後半は、まさにドラマチックな展開だった。
いきなり開始3分、試合は動いた。
なんと、日本に先制ゴールが決まったのだ。
自陣内で乾から受けたボールを柴崎が絶妙なタイミングで前線へスルーパスを出した。これが針の穴を通すようにきれいに相手DFの脇を通り抜け、右サイドを走り込んだ原口が落ち着いて蹴ったシュートは、ゴール左サイドネットにきれいに入ってくれた。
よくこの状況で落ち着いて決めてくれた。毎試合、人一倍ピッチを駆け巡り、献身的に攻守に貢献していた原口が決めてくれたのだ。
そして柴崎。この人は本当に凄い。これ以上ないタイミング、コース、スピードで敵陣を切り裂くスルーパス。感動を禁じ得ないプレイだった。
しかし、1点ぐらいでは、まったく安心していられない。
そんな思いの中、そのほんの数分後に、今度は乾が魅せてくれたのだ。
相手DFのクリアを拾った香川からマイナスに入ったボールを乾が目の覚めるようなミドルシュートを決めてくれたのだ。
香川と乾の関係性については、W杯直前のパラグアイ戦で何度も見せてくれ、西野ジャパン最大の武器になることになった。
乾は、以前から大好きな選手で、なかなかレギュラーに定着できなかったハリルホジッチ時代から、いつもなぜ使ってくれないのかと思っていた。
香川については、4年前のブラジル大会でのパフォーマンスがあまりに悪く、ブラジルの地でそのプレーを目の当たりにして以来、あまり好きではなかったが、先のパラグアイ戦での乾との連動性、また死に物狂いでピッチ上を走り回る姿を見て、改めて頑張ってほしいと思った。そのとき、今の日本代表には乾と香川はなくてはならない選手だと強く思ったものだ。
なんと、後半10分にも満たない時間に、日本が2-0とリードした。
ベルギーの焦りは明らかだった。
正直、2点差になり、もしかしてベスト8に進出できるかも、ブラジルとの夢のような対戦が実現するかも、といった思いが筆者の頭の中を巡っていた。
しかし相手は、超強豪国ベルギーである。ベルギー史上最強といわれている超タレント集団だ。
とにかくゴールを奪われないでほしいと願いながら試合を見守る中、何度も危ないシーンはあったが、GK、DFを中心に何とか守りきっていた。
しかし、後半24分、遂にベルギーにゴールを奪われてしまう。ループシュートがGK川島の手の届かないところに吸い込まれるように入っていった。
そして、その5分後にもゴールを決められ、同点になってしまった。
2点差あったリードが、あっという間に消え去った。
これがW杯だ。これが決勝トーナメントだ。これがベルギーだ。悔しいけれど、そんな思いが巡った。
しかし、まだ残り15分ある。さらに延長戦に入ることも可能なのだ。
ベルギーの怒涛の攻撃に、日本選手たちは耐え続けた。そして日本も頑張って攻め続けた。しかしゴールを奪えない。
そんな中、後半アディショナルタイム、日本はFKのチャンスを得た。
キッカーは本田だ。本田ならやってくれるだろう、そんな思いもむなしく、惜しくも相手GKに弾き出された。続いてCKだ。しかしこれもGKにキャッチされてしまった。
その次の瞬間、思い出したくもない光景が目の前にあらわれることになる。
ボールをキャッチした相手GKから始まった超高速カウンターに、前がかりになった日本選手たちは戻れず、最後の最後でベルギーに仕留められてしまったのだ。
後半アディショナルタイム4分のことだった。
試合は終わった。
2-3。
今大会、後半アディショナルタイムの最後の最後に決まる試合があまりにも多いが、日本がそのケースで巻けてしまったのは残念でならない。もう少しで延長戦に入るところだった。あまりの劇的さに唖然としてしまった。
ベスト8進出はならず、準々決勝でブラジルと対戦する夢は砕かれてしまった。これが現実である。
それでも日本はベルギー相手によく頑張ったと思う。過去2回のベスト16とは明らかに違った。選手たちのプレーに、心打たれた。
本当によくやってくれたと思う。西野監督をはじめ、日本代表の選手たちは、本当に頑張った。
過去のW杯のいろいろな試合が、その観戦状況とともに、鮮明に記憶されているが、筆者は間違いなくこの試合を一生忘れることはないだろう。
やはりW杯は特別な部隊なのだと再認識させられた。
4年に一度のW杯には、出場できない国のほうが圧倒的に多い。サッカーが盛んなヨーロッパの強豪国も、今大会のイタリア、オランダのように、毎大会、必ずといっていいほど番狂わせと言われながらも出場できない国が現われる。
それに比べて、日本は、1998年から6大会連続で出場し、今大会では決勝トーナメントにまで進出してくれた。ここまで、日本国中に希望を与え、楽しませてくれたのだ。
3ヶ月前、ハリルホジッチが解任され、西野に監督が代わったとき、日本国中で賛否両論あった。いや、否のほうが圧倒的に多かったように感じた。しかし、筆者は、よくぞこのタイミングで日本サッカー協会は英断してくれた、と思った。
指揮官に一貫性がなく、個々の選手たちから信頼関係を得られなければ、戦う集団にはなりえない。監督と選手たちの意識のずれが発生すると、選手同士に迷いが生じ、思い切って戦えなくなる。だから、それを解消すべく、ギリギリのタイミングで苦渋の決断を行った日本サッカー協会には、エールを送りたいと思った。
しかし、西野ジャパンは就任後2戦ではまったくいいところなく惨敗。
勝利を得られたのは、W杯直前の最後の試合だった。しかし、この試合で初めて試した布陣はおもしろいようにはまっていた。
筆者はW杯が始ってからは、西野監督の采配は見事にはまった。はまり続けた。周りからのいろいろな意見はあるが、すべては信念を持って決断した西野監督自身の采配によるものだ。
そして、監督を信じ、選手たちは一心不乱にプレーした。出場機会を得られず悔しい思いをした選手も当然いるはずだ。しかし、レギュラーもサブも一つになった。
そして、グループリーグを突破し、最後は、ベルギー相手に素晴らしい戦いを見せてくれた。
日本代表の選手、監督、コーチ、関係者たちへ、本当にありがとうと言いたい。
そしてこの経験を糧に、さらに強い日本代表を見せてくれることを信じたい。
頑張れニッポン!
(文/コウトク、写真/Lucas Figueiredo/CBF)
写真は2017年11月10日にフランスで行われた日本代表とブラジル代表による親善試合。ワールドカップロシア大会での日本とブラジルの対戦は実現しなかった