新春企画<PLAYBACK 2021年カシャッサ重大ニュース>“ジョニー・ウォーカー卿に敗訴”したカシャッサ

2022年 01月 2日

販売が差し止められたカシャッサ「ジョアン・アンダンチ」(写真/ divulgação

「ジョニー・ウォーカー」のイラストは、ジョン・ウォーカー卿がモデルとされており、シルクハットを被り、ステッキを手にさっそうと歩く紳士の絵柄だ。

「ジョアン・アンダンチ」のイラストは、荷物袋を先に縛り付けた木の棒を背負い、木の枝を加えた男性の姿。放浪者のようだ。

現地紙「フォーリャ・ヂ・サンパウロ」の報道によると、「ジョアン・アンダンチ」のオーナー、マテウス・ヴィエイラ・ラナ氏は、ジョアン・アンダンチの名前と図版のモデルは実在する人物で、国立公園としても知られるシポー山麓で自然と共に生活していた名物男Juquinha ジュキーニャだという。スコッチ・ウィスキーのジョニー・ウォーカーからのインスピレーションは一切ないと主張する。

名物男ジュキーニャは、兄弟と共に山麓で暮らし、公園にやってきた観光客に山で摘んだ花を与える代わりに食糧をもらい、自給自足の生活をしていたという。ジュキーニャの自然と共に暮らすライフスタイルの支持者も少なくなく、1983年にジュキーニャが他界した後、国立公園を横切る街道沿いに、3メートルの巨大なジュキーニャ像が設置されたほどだ。

「私たちはパブリシティ会社を雇い、多くのスタッフとともにこの“ジョアン・アンダンチ”というキャラクターを作り上げました。候補にはドン・キホーテもありました」(マテウス・ヴィエイラ・ラナ氏)

最終的にミナスのシンボルとしてジュキーニャがモデルとなったが、ジュキーニャそのものではなく、さまざまなキャラクターを複合して生まれたのがジョアン・アンダンチだという。

「木の枝を担ぐ姿は、(ブラジルの著名な児童文学作家)モンテイロ・ロバートの有名なキャラクター、ジェッカ・タトゥーがモデルです」(マテウス・ヴィエイラ・ラナ氏)

ジョアン・アンダンチ側のラナ・マルチンス弁護士は「私たちは、頑張っても5,000瓶売るのがやっとの小さなメーカーです。世界で商売をしている巨人企業と争うことになり、驚きました」と語った。

ディアジオの要求は、第一審では却下されたが、2017年のサンパウロ州司法裁判所(TJSP)による第二審は、「ジョアン・アンダンチ」ブランドは、「ジョニー・ウォーカー」の商標の単なる翻訳であり形を変えた複製であると結論付け、賠償金20万レアルの支払いを命じた。

第二審の判断は、無許可のパロディー商標が作成されたことでオリジナルのブランドが侵害され、(被告である)カシャッサの生産者はオリジナルのブランドの名声を利用する形でビジネスを行い不当に利益を得ていたというものだった。

そして最終判決となる2021年9月の第三審の判決でもディアジオが主張する商標権の侵害が支持されたが、賠償金の金額は20万レアルから5万レアルに引き下げられた。第三審連邦司法高等裁判所(STJ)は、20万レアルは小さな蒸留所が現実に払える金額ではないため、賠償金額を実際に支払える額にするとい判断で5万レアルにしたという。

またジョアン・アンダンチの蒸留メーカーは、第二審の判決が下る前、係争中に、ブランド名を「ジョアン・アンダンチ」から「オ・アンダンチ(英語で言えば、ザ・ウォーカー)」に変更して2014年から販売を開始していた。

「オ・アンダンチ」は、同年の国内最大級のカシャッサ見本市「エキスポ・カシャッサ 2014」で初披露され、

2019年には、カルヴァーリョ(オーク)の樽で1年と、アンブラーナの樽で2年熟成させた「オ・アンダンチ オウロ」も発売された。

ディアジオは、「オ・アンダンチ」の名称使用も禁止することを要求していたとのことだが、第三審はこの要求に関しては退けたとのこと。

現在、このカシャッサは「オ・アンダンチ」の名で販売されている。2014年に国内最大級のカシャッサ見本市「エキスポ・カシャッサ」で初披露された「オ・アンダンチ」は、同見本市で最終週「ブラジル原産樹木樽での熟成カシャッサ」の1本に選ばれたことでも注目を集めていた。

(文/カシャッサ麻生)

12