アマゾンカカオ、クプアス…。サロン・デュ・ショコラ2024で注目度高まるアマゾンの食と文化
2024年 02月 8日「アマモス・アマゾン」は、アマゾンの自然の恵みを生かし、地球も人も元気になる循環を生み出すことを理念に、現地の生産者や先住民とともに手を取り合いながら活動している組織だ。
井上さんがアマゾンの野生種カカオに出会ったのは10年近く前のこと。「アマモス・アマゾン」を通じてだった。
「当時は自分はまだカカオに全然詳しくなかったのですが、他社のビーントゥバーや他の産地のカカオも試した中で、アマゾンの野生種カカオは非常にピュアで、面白かったんです」(井上靖彦さん)
サロン・デュ・ショコラ2024で提供しているメニュー(2月8日(木)まで)で、野生種カカオがつかわれているプレートのひとつが「バルゼア野生種カカオのジェラート with 生タピオカクレープ」。
「うちの店は、お魚でも、食材をできるだけ『純度』の高い状態でお客さんに届けるというのがコンセプトなので、ピュアな苦みが特徴のアマゾンの野生種カカオは自分の料理のスタイルに合ったんです」(井上靖彦さん)
野生種カカオが持つ純度は、デザートに使うためにいろいろなカカオを使って試作をする中で、よりクッキリ浮かび上がっていったという。
「いろいろなカカオを試す中で、雑味があるカカオはマスキングするために結構しっかり砂糖を入れないと苦みに対するバランスがとれないんだとか、もしくは乳製品を入れることでさらにマスキングして、カカオの雑さ、品質の悪さを隠すことも出きてしまうんだな、ということがわかっていきました。フルーツなど、いろんなものをまぜればまぜるほど薄まっていき、そういうものが世の中に多いことに気づかされました」(井上靖彦さん)
料理の素材にカカオを使うようになった井上さんは、実際に生産者を訪ねてアマゾンに赴き現地にも滞在した。そして、自身の料理に対する理念と、現地で行われていた生産の理念とがリンクしていることに気づいた井上さんは、単に野生種カカオを素材として使うだけでなく、カカオを取り巻く文化、アマゾンの魅力自体を、自身の料理を通じて紹介したいと考えるようになったという。
「野生種カカオの現地の風景を観て、自分が持っている料理に対する考えと、アマゾンのアグロフォレストリーの考えなどがリンクしたんです」(井上靖彦さん)
森林農法とも訳されるアグロフォレストリーとは、森や自然と共存しながら行う農業の方法で、自然とともに暮らしている先住民が行っている農法にヒントを得ているといわれている。
たとえば、過去にブラジルでは様々な地域で、多様な動物や植物が共存して生命のサークルが自然に作られることで成り立っている森林を伐採して、単一の植物だけを栽培する大規模なプランテーションを作った結果、自然が作った生命のサークルが機能しなくなり、植物の病気が蔓延してプランテーションがほぼ全滅する、という事象が起きている。
対して、多様な植物を混栽することで、まるで森林のような姿の畑で作物を育てるアグロフォレストリーでは、森林を自然のままの姿で守りながら果実などを栽培・収穫することができるだけでなく、そこで生産された自然の恵みを、都市部や北半球などで販売して収益を得ることで現地に持続可能な産業を創出して、生産者の生活を支えることができる。
つまり、アマゾンでアグロフォレストリーによって生産されたフルーツなどを他の地域で消費することで、アマゾンの森林を守り現地の生産者の生活を支えるという経済活動(“グリーン・エコノミー”とも呼ばれる)のサークルが誕生するということになる。
「アマモス・アマゾン」はこのアグロフォレストリーを現地で生産者とともに展開して、野生種カカオやさまざまな果実を製品化、販売することで、森林を守りながら、現地の人々が経済的に自立できるよう手助けを行っている。
実は井上さんの「シンプルズ」は、基本的には地産地消を掲げているお店。地魚などその日に出合った食材から生まれるオリジナル料理を生み出すことを得意としており、アマゾンから運ばれた食材を使うという行為は、一見、矛盾するようにも見える。しかし、アグロフォレストリーの経済活動のサークルを循環させるためには、北半球の国々など経済的に恵まれた地域の参加も大いに有効だと考えられる。
「アマゾンの人たちの生活や、自然を守っていく農業方法であるアグロフォレストリーは、自分にとってお手本でもあるんです。ですから料理とともにそれも伝えられたらという想いでアマゾンとかかわっています」(井上靖彦さん)
今回、井上さんがサロン・デュ・ショコラ2024のために考案した「コースで味わうアマゾン」(2月8日(木)まで)では、前菜からデザートに至るまでの各プレートを通じて、アマゾンの多様な文化を紹介するという仕掛けが施されている。
たとえばコース全体を通じて、ブラジルの代表的な食材のひとつであるキャッサバ芋の、多様な使われ方が紹介されている。
キャッサバ芋は、全国的に使われているでんぷん粉(キャッサバスターチ)のみならず、しぼり汁を発酵させて作るアマゾン流の調味料「トゥクピー」、しぼった残りの身、またはすりおろした身を炒って作るふりかけのようなつけあわせ「ファリーニャ」、その「ファリーニャ」をお好みで味付けした「ファロッファ」など、実に多様な使われ方をする食材だ。
さまざまな姿のキャッサバが、コースの各プレートで登場。会場では料理を提供しながら井上シェフが、詳細に解説してくれる。
「野生種カカオを使ったアイスも、ファリーニャをかけることでまた違ったカカオの料理に姿を変えます」(井上靖彦さん)
そして、デザートのひとつ「カカオパルプとトンカ豆のわらび餅 クプアス・マラクジャ・カカオ」でも使われているアマゾンカカオの仲間でもあるクプアスもまた、今回、会場で目立っている素材だ(次ページへつづく)。