シングル・オリジン・カカオ最前線を味わえる“カカオ沼”「サロン・デュ・シュコラ2025」開幕
2025年 01月 18日パリ発のチョコレートの祭典サロン・デュ・ショコラ。1995年にフランス・パリで始まったこのイベントは、本場パリでは毎年10月下旬~11月上旬に開催されているほか、現在11か国以上で開催されている。
新春イベントとしてすっかりおなじみとなった伊勢丹新宿店で開催される「サロン・デュ・ショコラ2025」が、1月15日(水)、同店で開幕した。
国内外からショコラティエ、シェフやパティシエ、生産者などが今年も会場に集結してチョコレートの魅力を多彩な角度から伝える。もちろん、ブラジル産のカカオを使ったチョコレートも並んでいる。
「2025年のテーマは“時間”です」と、サロン・デュ・ショコラ担当の鈴木健介アシスタントバイヤーは語る。
「例えば、カカオの木からカカオ豆ができるまでには約5年と長い“時間”がかかりますが、そのわりに食べる“時間”はほんの一瞬。でも、こんなにおいしいものを食べられたという幸せはずっと続いていく…。この“時間っていいよね”、という想いが今回のコンセプトになっています」(鈴木健介アシスタントバイヤー)
1月15日から2月14日まで約1か月という開催期間も、特別な“時間”だ。会期はPart1からPart3までの3部構成となっており、1月15日(木)から20日(月)までのPart1のテーマは、ずばり「CACAO」。
世界各地のカカオ生産地と手を取り合いながら、カカオの栽培からチョコレートの製造までを一貫して行うビーン・トゥ・バーのブランドを紹介することで、カカオそのものの魅力を伝える。
「昨年も3部構成で、1部のテーマは同じくカカオでした。このパートは、まさに伊勢丹の武器だと思っています。他のチョコレートの催事場で、こんなにいろんな国のカカオのタブレットが並ぶことって、まずないんですよ。これを楽しみに来てくださるお客さんがいるのが、強味だな、と思います」(鈴木健介アシスタントバイヤー)
そもそも、世界各地の生産地のシングル・オリジン・カカオにこだわるビーン・トゥー・バーの作り手が、こんなにも多く存在するのは、日本ならではの現象のようだ。
イタリアから出店している「カルーナ・チョコレート」も「イタリアにはまだこんなにたくさんシングル・オリジンのカカオにこだわるブランドはない」という。
数だけではない。
ビーン・トゥ・バーのチョコレートを作るショコラティエたちの、原料であるカカオへのこだわりも、年々、深化しているように見える。
生産国という大きなくくりではなく、地域や農場、生産者、品種などの単位でカカオと向き合い作られる“シングル・オリジン”のチョコレートは、カカオ自体の魅力をダイレクトに伝えてくれる。
そんなシングル・オリジンのチョコレートでも、同じ産地の同じカカオ豆が、生産工程におけるほんの少しの違いで風味に大きな違いを生む。
「ビーン・トゥ・バーのタブレット界では、最近は、シングル・オリジンであるのがもう当たり前、みたいな傾向が出てきているのかな、という気がしています。掘っていけば掘っていくほど、今までとは違う景色が見えてきますからね。間違いなく『サロン・デュ・ショコラ』のPart.1にお越しくださるお客様は、もうシングル・オリジンは当たり前で、プラス、何? というところを求めていらっしゃると思います」(鈴木健介アシスタントバイヤー)
「サロン・デュ・ショコラ2025」の会場では、自分がほれ込んだ産地のカカオ豆に、さまざまな視点や発想で徹底的に向き合おうとするいくつものブランドやショコラティに出会った。
2021年にサロン・デュ・ショコラで日本に初上陸した「カルーナ・チョコレート」は、北イタリアのボルツァーノ(トレンティーノ=アルト・アディジェ州)、南チロル地方におけるクラフトチョコレートの先駆者。
今回、会場ではドミニカ共和国ドゥアルテ州エルチバオ地域の農家のカカオや、同じくカリブ海のユカタン半島にある国ベリーズの先住民族が栽培に携わっている固有品種カカオを使ったチョコレートなどを紹介している。
しかし、このベリーズのカカオを使ったダークチョコレート「シングルオリジン ベリーズ70%」だけでも2種類があり、黄色とオレンジ、パッケージも異なる。使っているのはカカオ豆、きび砂糖、カカオバターのみで、材料はどちらも同じだが、オレンジのパッケージのチョコレートは「シングルオリジン ベリーズ70% スローライド」と記されている。
「カカオ豆の乾燥方法が異なります。黄色いパッケージの方は天日干しで乾燥させている一般的な作り方ですが、スローライドは影干しで10日以上かけてゆっくり乾燥させたものです」(カルーナチョコレート)
乾燥にかける“時間”が生み出すカカオの魅力を追求したチョコレートといえる。
ビーン・トゥ・バー・チョコレートでは近年、南米アマゾン産のカカオの人気が高まっているが、サロン・デュ・ショコラでは、同じアマゾン産のカカオでも、アマゾン川流域という広大なエリアにあるさまざまな産地の多彩な“アマゾン・カカオ”が紹介されている。
ひこととでアマゾン・カカオといっても、広大なアマゾン川流域のエリアは、エクアドル、コロンビア、ブラジル、ペルー、ボリビアなどいくつもの国にまたがっているし、それぞれの国の中でも地域や生産者によって、カカオの個性は全く違う。
おなじみ「アマゾンカカオ」はイートインで、同じペルーでも山側の農園のカカオ、川側の農園のカカオを使い分けたプレートを提供する。
ボリビアのアマゾン地域、標高400mに位置するアルトベニ地方の生産者による組合のカカオを使ったシングル・オリジンのビーン・トゥ・バー・チョコレートを紹介する「エル セイボ ボリビア」は、原生林に生息する野生種カカオ100%の「ナティーボ100」を、「サロン・デュ・シュコラ2025」で初紹介している。
野生種カカオといえば、「サロン・デュ・ショコラ2024」では「シンプリス」(Part.3に出店)がブラジルの野生種カカオを使ったプレートを紹介していた。同じアマゾンカカオの野生種でも、地域が異なれば個性も異なる。
そんな、人間の手が加えられていない野生のカカオの木から収穫される野生種=ネイティヴのカカオは、一体、いつからそこに存在しているのだろう。アマゾン地域のカカオは、最終氷期をも生き延びて存在していると考えられている。
野生種カカオが秘めている“時間”を現在生きている我々が知る由もないが、果てしなく想いを馳せることができる“時間”であることは確かだ。
「ラ ショコラトリ ナナイロ」の西村亜矢さんも、シングル・オリジンにこだわる作り手だ。それも、毎年、ひとつの産地のカカオのみを扱うという徹底ぶり。
「1年ごとに扱うカカオの産地を変えています。まとめて輸入して、なくなるのがちょうど1年くらい。それを使ったチョコレートを年に2回、秋と春に販売しています」
今年販売しているチョコレートは主にコロンビア北西部アラウカ地方のもので、この地方のものはエリザベス・アグデロという生産者の農場のカカオのみを使っているという。
まさに“シングル・オリジン”の極みだが、西村さん自身は、この言葉は使っていないという。
「自らの農場で発酵まで行っているカカオでも、品質のよくないものもあります。一方で、組合のような組織が地元の小さな農家さんのカカオを集めて、そこで発酵させた豆を販売しているところもあるんですが、そういった組合がものすごくクオリティの高いカカオを作っているケースもあります。農園まで指定して語るといいカカオだと認識されやすいのは確かですが、私はこういうカカオもシングル・オリジンだと思っています。だから私はシングル・オリジンという言葉は使わずに、カカオに対する想いや情熱があって、技術も学んでしっかりしている方たちが取り組んでいるいいカカオであれば、すべて同じように使わせていただいています」
実は先述のボリビアの生産者の組合が発信する「エル セイボ ボリビア」も、このケースにあてはまるカカオ。昨年、西森さんはこの地のカカオを扱っている。
「標高の高いところでカカオを保管しているので、一切、虫がつかないんです。発酵の仕方も年々よくなっていきますし、本当に素晴らしいカカオでした」
1年ごとに扱うカカオを変えるのは、世界中のいろいろな素晴らしいカカオと取り組みたいからだという。
しかし、一つのカカオと取り組むのに、1年は必要だという。
「チョコレートの作り方は120億通りあるといわれていまして、私たちがひとつのカカオを扱うのに1年かかるのも、同じそのカカオに、いろんなアプローチをしたいからなんです。ローストを変えてみたりとか、砂糖の種類を変えてみたり」
そうして、毎年、今年はここと決めた産地から約1トンのカカオを輸入して、さんざんいろんな角度で調理を試みて、その中で美味しいと思えるものだけを12種類販売しているのだという。
会場にも、コロンビア アラウカ産のカカオ豆を使ったチョコレートが数種類、並んでいて、それぞれにナンバーも振り分けれらている。
Batch No.89は、カカオ70%。No.91はカカオ90%のタブレットだ。No.92~95はどれもカカオの割合は70%だが、それぞれ、カナダ・ケベック州産メイプルシュガー、沖縄県・西表島産黒糖、島根県・出雲産はちみつ、メキシコ・ハリスコ州テキーラ村産有機アガベシュガーと、甘味が異なる。
これらは、甘さが異なるだけではなく、甘さを変えることによって、豆自身が持つ異なる魅力を引き出している。カカオにとっても、同じ豆からこんなに多彩な表情を引き出してもらえて、カカオ冥利に尽きるだろう。
西森さんにとって1年という“時間”は、そのカカオを徹底的に研究して、納得がいくまで向き合うための“時間”だった。
会場にも、コロンビア アラウカ産のカカオ豆を使ったチョコレートが数種類、並んでいて、それぞれにナンバーも振り分けれらている。
Batch No.89は、カカオ70%。No.91はカカオ90%のタブレットだ。No.92~95はどれもカカオの割合は70%だが、それぞれ、カナダ・ケベック州産メイプルシュガー、沖縄県・西表島産黒糖、島根県・出雲産はちみつ、メキシコ・ハリスコ州テキーラ村産有機アガベシュガーと、甘味が異なる。
これらは、甘さが異なるだけではなく、甘さを変えることによって、豆自身が持つ異なる魅力を引き出している。カカオにとっても、同じ豆からこんなに多彩な表情を引き出してもらえて、カカオ冥利に尽きるだろう。
西森さんにとって1年という“時間”は、そのカカオを徹底的に研究して、納得がいくまで向き合うための“時間”だった。
今回の「サロン・デュ・シュコラ2025」Part.1で、唯一見かけたブラジル産カカオを使ったタブレットを作るのは、20年以上も前から世界各地のカカオ農園を訪ね歩き、厳選したカカオを使う「カカオストア」の土屋公二さん。
「ブラジルは2、3回行ってるんだけど、1回は北東部のバイーア州の産地。北部のトメアス(パラー州)の農園にも行きました。ブラジルのカカオは基本的にフォラステロ種が多いんだけど、バイーアはたぶん異なる種も混ざってて、独特ですごく美味しいんですよ。ブラジルのすべての地域のカカオがいいとは思わないけれど、バイーアとトメアスはいいです。好きですね」(土屋公二さん)
サロン・デュ・シュコラには、バイーア州にあるセンプレ農園のカカオを使用したミルクチョコレート「ブラジル ミルク ウィズ アサイー&バナナ」を紹介している。
シングル・オリジンのカカオを使ったタブレットではダークチョコレートでなければ豆の個性を生かせないと考えるのは早計だということを、このミルクチョコレートは証明している。
ブラジル、バイーア州にあるこの農園のカカオの魅力の引き出し方は限りなくあるのかもしれないが、この配合だからこそ引き出される風味もまた、到達点のひとつなのだろう。
ところで、このチョコレートに使われているアサイーはトメアス産だが、土屋シェフは、トメアス産のカカオパルプも愛用しているという。
日本へは冷凍パルプの形で運ばれてくるカカオの果肉。生産地では生で食べることができる。
「アフリカなど産地に行くと、カカオの果肉を食べてますよね。カカオって、もともとは果肉を食べてたんじゃないかと思うんです。僕らからみるとライチのようなフルーツというか、種の周りに果肉がひっついてる感じですよね。完熟すると甘酸っぱくて旨い、と。それで食べた後、ピッて種を捨てていたら実がまた出てきた、みたいな」
「なんとなくですけど僕が思うに、ローストって、山火事かなんかがあって、燃えたときにカカオって焼いたらうめえじゃん、ってなってはじまったんじゃないかなって思ったりもします」
カカオは間違いなく、フルーツとして美味しい食べ物だという。
「糖度も高いし、酸味もあるし、ポリフェノールもあって健康にもいいし。他のフルーツには例えられない、独特の美味しさですよね。柑橘系のような味もするし、ライチみたいな感じもするし。それで粘度もあって食感も面白い。何の味って聞かれても答えにくいんだけど、凄く美味しいです」
そしてカカオ豆と同様に、この果肉もまた、産地によって味の個性は異なる。
「水分量も違えば粘度も異なりますし。ブラジルのカカオのパルプは美味しいですよ。僕は好きです」
日本人はほとんど、カカオに関して最初に出会うのはチョコレートだった。それが種をローストして作られていること、そしてそもそもカカオはフルーツであり、果肉も美味しい、ということを多くの人が知るようになったのは、近年のことだ。
果たして大昔の人たちは、僕らとは逆に、先に果肉に魅せられていたのだろうか?
人類とカカオがかかわってきた歴史は、長い。エクアドルの熱帯雨林では、少なくとも5000年以上前からカカオが栽培されていたと考えられる痕跡が発見されている。
人がカカオと共に過ごしてきた“時間”を想像させてくれるカカオパルプ。美味しいだけじゃない、ニクい存在だ。果肉(カニク)だけに。
日本でも注目度上昇中のカカオパルプだが、サロン・デュ・シュコラでは、独特の個性を持つこの果実を、さまざまな形で体験することができる。
イートインで、いくつもの期間限定メニューを発信するのは、国内外のコンテストで名をはせている瀧島誠士さん。自身がシェフショコラティエを務めるブランド「セイスト」のプレートで、カカオパルプの様々な魅力を紹介している。
1月15日(土)~17日(金)には、カカオパルプジュース入りのパッションフルーツのジュレを、栃木県のハート&ベリー農園の苺、とちあいかに合わせたプレートを紹介。カカオとパッションフルーツという特徴のあるフルーツ同志を組み合わせたジュレを苺と合わせて、これらのどの素材のものでもない味で、かつ非常にやさしい甘さのスイーツを作り上げていた。
柔和だけれど確かに存在感のあるこの甘さは、甘さを控えようとして生まれた味ではなく、恐ろしく研ぎ澄まされた組みあわせから生まれる唯一無比の甘さ、なのだろう。
「甘さを控えようとはしていないですね。スイーツには甘さは大事ですから。これが未知の味だと感じていただけたのなら、きちんと仕事したってことですね(笑)」(瀧島誠士さん)
カカオパルプが持っている他のフルーツにはない独特の風味が、瀧島シェフの手で新しいポテンシャルを見せてくれる。
「カカオパルプって、私の中では、主役にはなれないんだけど副素材としてものすごいポテンシャルがある食材なんです。何かとあわせたとき、他の食材にはない酸味などの風味をプラスしてくれたり」
「この酸味って、柑橘系とも違うし、ベリー系とも違う。発酵してるわけじゃないんだけど、ちょっと乳酸に近いのかな、とも思っています。カカオパルプを使うことで、皆さんになじみの深いフルーツと組み合わせても、他の酸味とは違う、今までにない新たな組み合わせのバリエーションが作れる素材です」
役者に例えるなら、主役ではなくあくまで“助演”ながら、この脇役でなければ生まれない味を持っている超個性派脇役といったところか。
しかし、存在感のある脇役であればあるほど、下手な演出家の手にかかると、存在感が出すぎて主役を食ってしまったり、あるいは反対に、いたのかいなかったのかもわからないほど存在感が希薄すぎたりすることもある。この脇役を、どのシーンに配置すると、どの俳優と対峙させると、作品全体が引き締まるのか。監督の演出次第で、脇役は、結果的に作品全体を味わい深くする。
「カカオパルプと主役の食材との組み合わせでいえば、ここしかない、という点をピンポイントで狙っていってます。よく、相性がいい食材、といわれる食材同士ってありますよね? でもあれって、単に“相性の幅が広い”だけで、実はどんな食材同士でも、ここだという“相性”ポイントはあると思んです。僕ら(料理人)の仕事は、ここしかない、という点を見つける作業といえるかもしれません」
18日(土)~20日(月)には、エクアドル産カカオのカカオパルプをジュースやソルベにして、クロモジの軽い泡とレモン、ライムなどの柑橘を使った「柑橘とカカオパルプ」が登場する。
さらに同じ期間に、「セイスト」と「昆布屋孫兵衛」のコラボレーションデセール企画で、白餡とカカオパルプのアイスクリーム、ライチの生キャラメルとマリネしたパイナップルを添えた「東雲」を発表する。パイナップルとライチが、カカオパルプの風味や酸味を引き出している一皿とのこと。
それぞれのプレートでカカオパルプをどう生かしているのか、瀧島監督の演出は、練りに練ったものなのか、瞬間的な閃きによるものなのか、向き合う“時間”も素材次第で全く異なるのかもしれない。その“時間”が、何日間、何週間かけたものであろうと、あるいは一瞬であろうと、狙うべき点が確実に存在することを知っている瀧島シェフにしか生み出せない味を生んでいることは間違いない。
「サロン・デュ・シュコラ2025」、1月24日(金)からはPart.2が始まる(~1月29日(水))。この会期のテーマは「ARTESAN」。世界中のファンを魅了するトップ・ショコラティエや、新進気鋭のシェフが集結する。
「Part.2では、私たち三越伊勢丹でしか買えない直輸入の商品を紹介しています。毎年出てくださっているシェフは人気や知名度が年々高まっていますし、『プランクール』のマキシム・フレデリックさんなど、大きな影響力を及ぼしそうだな、というシェフが今年は新規に登場しますので、そちらにも注目していただけたらと思います」(鈴木健介アシスタントバイヤー)
Part.3のテーマは「NEXT」。広がり続けるショコラの魅力を紹介する。
「“バレンタインの催事”としてではなく、あくまで『サロン・デュ・シュコラ』のためのメニューをシェフに作ってもらっています」(同)
Part.3は2月1日(土)~14日(金)まで約半月かけて開催されるが、さらに前半(2月6日まで)と、後半(2月8日から)とに、会期が区切られている。
「今年のPart.3は、前半と後半でがらりと催事の模様も変える予定ですので、“Part.3”といいながら2つの別のイベントが楽しめるようになっているかな、と思っています」(同)
また、Part.3に登場する、アマゾン原産のフルーツ、クプアスのアイスクリームを使ったメニューも、サロン・デュ・シュコラでは名物のひとつだ。
クプアスはカカオの親戚で、カカオの果肉にも通じる独特の酸味と香りを持ったフルーツ。ブラジル、トメアス産のクプアス・パルプが使われている。
提供するのは「ヨシノリ・アサミ」の浅見欣則さん。今年、クプアスのアイスクリームが使われるのは、クリームソーダ2種(マスカット+カカオ果汁、白桃+カカオ果汁)と、パッションフルーツのソルベ、安納芋クリーム、チョコの生クリーム、マンゴーソースを使ったパフェ(2月8日(土)~14日(金))。
サロン・デュ・シュコラは3つの会期に分かれて開催されるが、すべての会期を通して共通する点もある。
「サロン・デュ・ショコラの“サロン”って、“集い”ですよね。この場に集う、そしてサロン・デュ・シュコラだからこそ集うシェフや生産者、お客様、それぞれが、直接交流できて新しい何かが生み出される場という点では、会期を問わずこの催事全体にいえる特徴ですね」(鈴木健介アシスタントバイヤー)
これは、出店するブランドにとっても大きな魅力の一つだ。
「クーベルチュールを作っているブランドが会場で出会ったパティシエに制作をお願いしたりとか、反対にパティシエさんからは、サロン・デュ・ショコラに出ているようなクーベルチュールの製品を使ってみたいというリクエストがあったりと、いろいろなコラボが実現しています」
(鈴木健介アシスタントバイヤー)
自身がチョコレートの大ファンで、初めて出会うカカオは他のお店のチョコレートで知ることが多いという「ラ ショコラトリ ナナイロ」の西森さんも、「サロン・デュ・シュコラ」でカカオに出会うことも多いという。
「気になるカカオは、そこの方に色々お話しを聞かせていただいて、自分たちもそこのカカオに挑戦してみる、という感じなんです。今年、ちょうどお隣に出店されている『ボナ』さんのチョコレートは、いろんな種類のクオリティの高いカカオを使われているので、いつも食べさせていただいています。自分だったらこういう風に作るな、とか思いながら味わっています」(西森亜矢さん)
「ドン ブラボー」(イタリア料理)の平雅一シェフ(Part.1)、「オーツー」(中国料理とナチュラルワイン)の大津光太郎シェフ(Part.3)のイートインなど、普段はカカオを専門とはしていないシェフによるカカオを使った料理が楽しめるのも、サロン・デュ・シュコラならでは。
「こういった異業種×カカオという提案も『サロン・デュ・シュコラ』ならではの楽しみかと思います」(鈴木健介アシスタントバイヤー)
実際、そんな出会いを楽しみにしている出展者も少なくないという。
「今回出展する『キャトルエピス』さんも注目度が高いブランドだと思うのですが、藁科(わらしな)シェフ自身、いろんな方と話がしたいと言っています。もちろん会場に足を運んでくださる方や、チョコレートの作り手、出店者の中にも、藁科シェフと話してみたいと思っていらっしゃる方はいると思います」
「サロン・デュ・シュコラという場は、シェフたち同志にとっても刺激を受けあう場であってほしいし、お客様にとっても、自分が食べているものってどうやって作っているんですか、とか、どういう想いがあるんですか、とか聞くことができる場であってほしいというのは、私たちの想いです」
このイベントがそんな場であるのは、今年で23回目というサロン・デュ・シュコラがこれまで“時間”をかけて培ってきた実績があるからだ。
これまで見たことのなかった国や農園のカカオ、味わったことのない味に出会えるサロン・デュ・シュコラの会場は、カカオファンにとっては宝探しの場、でもある。なのに、こんなにいろいろ紹介してしまったら楽しみが半減するじゃないかって?
心配はご無用。ここで紹介しているのは、ほんの一握りに過ぎない。オブスキュアなカカオとの出会いを楽しめる数えきれないチョコレートが、計り知れないショコラティエたちのカカオに対する想いが、会場には溢れかえっている。
(文/麻生雅人)
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