トランプ政権の関税爆弾でカシャッサが米国市場から消える!?
2025年 10月 1日
「バーボンの国から、カシャッサが姿を消そうとしている」ーー。そう報じたのはブラジルの現地メディア「フォーリャ・ジ・サンパウロ」。
アメリカ合衆国のドナルド・トランプ大統領によって課されたブラジルへの50%という関税爆弾の影響は、ブラジル産蒸留酒カシャッサの輸出にも影響を及ぼしている。
カシャッサはサトウキビの搾り汁から作られるブラジル産の蒸留酒。ブラジルの国民酒だ。生産者たちは、販売の停止、輸入業者からの注文キャンセル、そしてアメリカ合衆国側との交渉の中断が相次いでいると訴えている。
農牧供給省(MAPA)によると、2024年の時点で同省に登録されたカシャッサの生産者は1,266軒、ブランド数は7,223を記録している。年間の生産量は2億92,45万9,906.27リットルで、このセクターは直接雇用で6,363人、間接雇用を含めると約60万人の雇用を生み出しており、その多くは全国各地の小規模な農場や蒸留所に支えられている。
アメリカ合衆国は、パラグアイとドイツに次いで世界で3番目のカシャッサの輸出先だ。しかし、それだけではない。輸出額でみると順序は入れ替わり、アメリカ合衆国は最大の市場となる。米国への輸出額は3,537,884米ドルに達し、これはカシャッサ輸出市場の約24.3%を占めている。
ブラジル・カシャッサ機構(IBRAC)のカルロス・エドゥアルド・カブラウ・ジ・リマ会長は「関税爆弾の発表は、すでに輸出企業に対して深刻な影響を及ぼしています。輸出に関する条件が少しでも変更されてしまうと、カシャッサは、すでに米国市場で確立されている他のアルコール飲料と比べて不利な競争状況に置かれてしまうのです」とコメントしている。
ブラジル・カシャッサ機構(IBRAC)は、今回の関税爆弾によって輸出による売上が12%減少し、米国向けの販売量は少なくとも6%落ち込むと見込んでいるという。
「他の蒸留酒と比べて競争力が低いということは、中期的にはカシャッサが米国市場から排除されることを意味します。問題となっているのは、何千もの小規模生産者が持続していけるかどうかです」(カルロス・リマ会長)
しかも、臨機応変に製品の輸出先を切り替えることができる他の産業分野とは異なり、カシャッサはその消費の多くが、文化的な習慣などの要因に結びついていることから、こうした市場の形成には、時間を要する。
カルロス・リマ会長も、輸入量で首位に立つパラグアイは、ブラジルとの地理的・文化的な近接性がその背景にあるという。一方、2位のドイツは蒸留酒の消費習慣が歴史的に根付いている国という背景があると指摘する。
アメリカ合衆国に代わる輸出先を探すのは、簡単ではないということだ。なぜなら米国は現時点で高品質なカシャッサに、もっとも理解のある市場であり、ブラジルの輸出業者にとって、最も収益性の高い市場だからだ。
平均支払価格で見ると、パラグアイが1リットルあたり1.22米ドル、アメリカ合衆国が1リットルあたり4.29米ドルと、1位の米国が2位のパラグアイを大きく上回る。これは、米国が大量生産品の工業酒だけでなく、高品質で価格の高いクラフト・カシャッサの輸入量が多いことを示している。
数あるカシャッサの中でも品質の高さを誇るカシャッサの一つで、日本にも輸入されている「カシャーサ・ダ・キンタ」(リオデジャネイロ州)は、同蒸留所の生産量の50%をアメリカ合衆国の輸入業者が購入しているため、関税爆弾の影響は大きそうだ。「フォーリャ・ジ・サンパウロ」によると、経営者兼生産者のカチア・アウヴェス・エスピリット・サントさんは非常に不安な状況にあると語る。
「当社は小規模で、プレミアム製品に特化しています。今回の影響は非常に大きく、事業運営全体に深刻な打撃を与えています」(カチア・アウヴェスさん)
同蒸留所のカシャッサは、米国では輸入業者が使用するブランド「Avuá」として販売されている(製品のラインナップや瓶のデザインなども本国とは異なる)。
「私が恐れているのは、10年以上かけて築いてきた仕事を失うことです。かなりの量の注文が止まってしまったため、生産を減らさざるを得ませんでした。この先どうなるか分かりません」(カチア・アウヴェスさん)
カシャッサ生産者の現状はすでに農牧供給省(MAPA)に報告されており、同省のカシャッサ産業部門審議会を通じて、業界企業を支援するための対策が検討されている。
財務的な打撃を抑えるために、「カシャーサ・ダ・キンタ」の生産者は、米国の関税爆弾によって影響を受けた輸出企業を支援する緊急措置「主権あるブラジル・プラン」の信用枠を利用したと語る。
「フォーリャ・ジ・サンパウロ」によるとこのプログラムには、輸出保証基金(FGE)から300億レアル、国立経済社会開発銀行(BNDES)から100億レアルが拠出され、合計400億レアルが用意されているとのこと。緊急融資枠は、運転資金や事業適応のための投資などのニーズに対応しており、固定金利は月最大0.66%となっている。
「これは政府による救済措置であり、状況が根本的に解決するまでの間、すでに一つの支えとなっています」とカチア氏は語っている。
カシャッサ生産者たちは、ルーラ・イナーシオ・ルーラ・ダ・シウヴァ大統領とドラルド・トランプ大統領の対話による事態の解決を一刻も早く望んでいると、「フォーリャ・ジ・サンパウロ」は伝えている。
(記事提供/カシャッサ・カウンシル・ジャパン)
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