アカデミックにアマゾンと向かい合える「大アマゾン展」
2015年 03月 15日3月14日(土)から、東京・上野の国立科学博物館ではじまった「大アマゾン展」。同展示では、世界最大の流域面積を持つアマゾン川流域に棲息する生き物の多様性をテーマに、アマゾンを総合的に紹介している。開催は6月14日(日)まで。
展示では、哺乳類、鳥類、爬虫類などアマゾンの生物多様性を、国立科学博物館の各分野の専門研究者がそれぞれ担当して研究の成果を発表している。
映画「ブルー 初めての空へ(「RIO」)」でもお馴染みスミレコンゴウインコから、ジャガー(オンサ)やオオアナコンダなど、アマゾンと聞いて多くの人が思い浮かべるであろう生き物についても知ることはできるが、水草類、菌類に至るまで、これまで”知られざる世界”だったアマゾンの一面を深く知ることができるのが、「大アマゾン展」の醍醐味といえるだろう。
展示は、まず大きく三つの章に分かれている。
第1章で紹介されるのは、「太古の南米大陸からアマゾン誕生まで」。こちらは冨田幸光・地学研究部長、矢部淳・地学研究部 生命進化史研究グループ研究主、小野展嗣・動物研究部 陸生無脊椎動物研究グループ研究主幹が担当。サンタナ層の翼竜化石や魚類化石、クラト層の植物化石、クモ・昆虫化石を紹介。展示は骨格や化石が中心。
第2章のテーマは「大河アマゾン」。8つのコーナーでアマゾンに宿る生命を紹介する。
「アマゾンの哺乳類」は、川田伸一郎・動物研究部 脊椎動物研究グループ研究主幹が担当。南米で多様化したサル・ネズミ類、南米期限のアリクイ・ナマケモノ・アルマジロ、アマゾンに進出した哺乳類などを紹介。
サル類はゴールデンライオンタマリン、エンペラータマリン(写真上)、映画「アマゾン大冒険~世界最大のジャングルを探検しよう!~」 で主演を務めたフサオマキザルなど。ネズミ類はカピバラ、ローランドパカ(写真ページ一番上)などのはく製が展示されている。
アルマジロの展示では、ワールドカップブラジル大会のマスコット「フレコ」のモデルとなったミツオビアルマジロの種も。
アマゾンに進出した哺乳類では、ジャガー(オンサ)やピューマ、メガネグマ(!)、アマゾンスカンク、キンカジュウ(写真上)などのはく製が。
アライグマ科のキンカジュウは、霊長類のようにものをつかむことができる前肢や、木の枝などにしっかり巻きつけることができる尾をつかって樹上の果実を採取することもできることから、発見当初はキツネザルではないかと考えられていたという。各分野の専門家が手掛けた、ひとつひとつの展示に記されているアカデミックなエピソードは国立科学博物館ならではの情報量!
「アマゾンの鳥類」は、西海功・動物研究部 脊椎動物研究グループ研究主幹が担当。コンゴウインコのなかま、アマゾンの名が付く鳥、アマゾン特有の鳥、30種以上のはく製を紹介。マリア・ベターニアの歌でもお馴染みのハヤブサの一種カルカラ(カラカラ)から、ベージャフロール(ハチドリ)の種類、スズメ目マイコドリ科のアオボウシマイコドリ(写真上)のような小鳥まで。
「アマゾンの爬虫類・両生類」は、「アマゾンの哺乳類」と同じく川田伸一郎・動物研究部 脊椎動物研究グループ研究主幹が担当。アマゾンの爬虫類、アマゾンのカエルたちが紹介される。アマゾン周辺には400種類を超えるカエルが生息しているという。中米から南米に170種以上分類されるという色鮮やかなヤドクガエルは、アニメ映画「ブルー 初めての空へ(「RIO」)」の続編「RIO 2」に準主役級で登場していたカエルだ(厳密には同種といえないかもしれないが、映画のネタバレになるため詳しくはここでは記さない)。
「アマゾンの昆虫類」は、野村周平・動物研究部 陸生無脊椎動物研究グループ研究主幹が担当。華麗なるモルフォチョウ、アマゾン特有のチョウ・ガ、アマゾンの巨大カブトムシ、アマゾンの巨大カミキリムシを紹介。鮮やかなメタリックブルーに輝くモルフォチョウのコーナーでは、“多層膜干渉膜”と呼ばれる発色メカニズムについても解説。これを応用して繊維・化繊メーカーの帝人が開発した、染料を使わずに発色する構造食繊維「モルフォテックス」などの展示も。
「アマゾンカワイルカ」は、単独コーナーを設置。こちらは山田格・動物研究部 脊椎動物研究グループ長が担当。イルカやクジラは主に海に生息する生き物だが、アマゾン、ガンジス、インダス、ヨウスコウ、ラプラタなどの大河にはカワイルカが生息している。カワイルカは全身白か明るい灰色で、吻(長くて細いくちばし状の口)があり、相対的に大きな胸ビレがあることが特徴だという。
皮膚の色素が少なく、激しく運動すると皮下の血行が盛んになり赤身を帯びることからピンクイルカ、ピンクカワイルカとも呼ばれるそうだ。アマゾンカワイルカの雄姿は4Kシアターの映像でも見ることができる。
「アマゾンの魚類」は、篠原現人・動物研究部 脊椎動物研究グループ研究主幹が担当。巨大な淡水魚では有名なピラルクーやピライーバ、アマゾンのユニークな魚たちでは、デンキウナギやピラニア類、ピラニアよりも怖いといわれる肉食魚ブルーカンディルや吸血魚ヴァンデリアの一種(カンディル)などが紹介される。ブルーカンディルは、魚を襲う様子を捉えた映像も見られる。
「アマゾンの水草」は、田中法生・植物研究部 多様性解析・保全グループ研究主幹が担当。水草と水質、水位変動への対応といったテーマで展示を行っている。アマゾンでしか生きられないアマゾンの水草のみを紹介。国立科学博物館ならではのディープなコーナーだ。
直径3mメートルにもなる葉を持つオオオニバス(写真上)は、映像をつかって巨体を支える浮力を生み出す構造などが紹介されている。
「アマゾンの菌類」も、国立科学博物館ならではのディープなコーナーのひとつ。保坂健太郎・植物研究部 菌類・藻類研究グループ研究主幹が担当。アマゾンの熱帯雨林ではどんなキノコが生える?、アマゾンで共存するキノコと他の生き物、アマゾンと日本の不思議な関係、アマゾン千住民のキノコ食という各コーナーで、知られざるアマゾンのキノコワールドを見せる。
アマゾンと日本の不思議な関係では、日本とアマゾンにしか存在しないという、不思議な分布パターンをもつキノコたちが紹介されている。日本固有種の希少種コウボウフデ属のキノコは2種しか知られておらず、日本にある種の他の1種がアマゾンに分布しているという。なぜこれらの近縁種が日本とアマゾンにしか分布しないかは謎だという。
また、アマゾンというとオオオニバスや巨大アリなど、巨大な動植物が有名だが、キノコは大型のものはあまりなく、むしろ小さなキノコが多いという。最大でも5ミリほどという世界最小のキノコ、スッポンダケの一種(写真上)も本展示のハイライトのひとつといえるだろう。
第3章は、「アマゾン先住民の装飾品」。こちらは、2014年に惜しまれながら閉館したアマゾン民族館・自然館の所蔵品の一部を山口吉彦・アマゾン研究所所長が、インコの羽根を使ったタピラペ族の仮面やシクリン族の酋長の頭飾り、イチヂク属の大木の内皮を使ったというティクナ族の樹皮布(写真上)、ゴライアスタマムシのさやばねを使ったカリプーナ族の首飾りなどを紹介する。
各展示のキャプションは博物図鑑並の情報量。じっくりと腰を据えて向かい合いたい展覧会だ。
最後の、オリジナルグッズが並ぶお土産売り場情報は次ページに。
「大アマゾン展」
開催期間/3月15日(土)~6月14日(日)
会場/国立科学博物館(東京・上野)
開館時間/午前9時~午後5時(金曜日は午後8時まで)。※入館は各閉館時刻の30分前まで。※開催日時が変更となる場合があります。※特別開館延長:4月25日(土)~5月10日(日)は午後6時まで。ただし、5月1日(金)・5月8日(金)は午後8時まで
休館/毎週月曜日。ただし3月30日(月)、4月27日(月)、5月4日(月・祝)は開館
主催/国立科学博物館、TBS
後援/文部科学省、外務省、ブラジル大使館、ペルー大使館、BS-TBS、TBSラジオ
協力/NTTドコモ、アマゾン研究所、鶴岡市
技術協力/ソニーPCL
問い合わせ先/ハローダイヤル 03-5777-8600
(写真・文/麻生雅人)