同じビールでも店によって価格が5倍になることも!?一物三価:ブラジル経済を理解するための一断面

2014年 02月 11日

スコウ

ブラジルを旅行した方、もしくは住んでいた方はよくおわかりだと思うが、ブラジルには日本にも昔はたくさんあった、いわゆる家族経営のパパママストアがたくさんある。どういうわけか、大型スーパーの近くにもあったりする。そして、小さなバースタンドなどは至る所にある。何軒も同じような店が並んであったりもする。こんなにたくさんあって、よく商売が成り立っているなあと感心する。

では、その経済構造はどうなっているのだろう、という関心もわく。実際に、ブラジルを代表する三大スーパーである、ポン・ジ・アスーカル、カルフール、ウォルマートの3社の売上を合わせると4兆円弱であり、ブラジルの国内消費が150兆円弱であることを考えると、パパママストアの存在は決して小さくない。

もうひとつ、ブラジルで買い物をするときに気になるのが価格であろう。たとえば、生活の必需品であり、暑い国ブラジルでは欠かせないのが、水とビール。ビールの消費額は中国、アメリカに次いで、世界第3位である。

まずミネラルウォーターだが、カルフールなどの大型スーパーで買うと、500ml入りのペットボトルが約1レアル(約45円)程度で買える。3リットル入りの大きいペットボトルでさえ、1.5レアル(約70円弱)である。それが、ドラッグストアで買うと、2レアル~3レアル(約90~135円)、さらにパパママストアで買うと、3レアル~5レアル(135円~225円)となる。

ビールについても同様で、スーパーでは安いブランドで1レアル前半(約50円)、コンビニのAMPMや街頭で売っている人が4レアル(約180円)、スタンドバーで買うと6レアル(約270円)である。もちろん、日本でも買う場所で多少金額が違ってくるかと思うが、5倍も違うということはあり得ないだろう。

では、パパママショップやバーが極端に儲けているのかというとそうではない。この裏には難しいブラジルの税制が絡んでいる。

大手スーパーは、流通を通さずにおそらく直接メーカーから仕入れているために仕入れ値も安くなるが、あまり中間業者が入らないことで税金も少なくて済むため、安く売れる。ところがパパママストアは、間に問屋が1社、もしくは2社入ることにより、そこで支払わなければならない税金がオンをされる。その税金が価格を2-3倍にしなければ払えないぐらいの額なのである。

ブラジルは車社会なので、毎週末に家族で大型スーパーに大量に買い出しに行く。大型スーパーは、当然、大型駐車場も必要となるため、比較的郊外に位置する。そうするとやはり日常で、歩いていて暑くて喉が乾いたら、我慢があまり得意ではないブラジル人は価格差に関係なく、少額であればすぐに買ってしまう。近くに大型スーパーがあっても、レジで並ぶことを考えると、多少高くても目の前のパパママストアで買ってすぐに飲みたい。

そして、アミーゴの世界のブラジルでは、日常的に通って顔見知りになると多少高くてもその店で買う。さらに、1円からでも決済できるほど、進んだクレジット・デビットカード決済が普及していて、露店でさえハンディーターミナルを持っており、ブラジル人の衝動買いに拍車をかけている。

こうして、ブラジルの流通は見事に棲み分けが出てきていて、決済システムも対応をしている。さらには、宵越しの金は持たず、欲しいものはすぐに手に入れたエモーショナルな国民性が重なり、GDPの6割を占める堅調な消費と政府の税収を支えている。

(写真/輿石信男)
写真はスーパーに陳列されている現地ブランド「Skol(スコウ)」のビール

著者紹介

輿石信男 Nobuo Koshiishi

輿石信男 Nobuo Koshiishi
株式会社クォンタム代表。株式会社クォンタムは91年より20年以上、日本とブラジルに関するマーケティングおよびビジネスコンサルティングを手掛ける。市場調査、市場視察のプランニング、フィージビリティスタディ、進出戦略・事業計画の策定から、現地代理店開拓、会社設立、販促活動、工場用地選定、工場建設・立ち上げ支援まで、現地に密着したコンサルテーションには定評がある。11年からはJTB法人東京と組んでブラジルビジネス情報センター(BRABIC)を立ち上げ、ブラジルに関する正確な情報提供とよりきめ細かい進出支援を行なっている。
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