ブラジルの国民的おやつ「ポンデケージョ」とは
2025年 05月 23日
ブラジルのカフェや軽食店、パン屋さんでは必ずといっていいほど置いてあるポンデケージョ。朝食にも食べられるし、朝に限らず一日中、おやつとしていつでも食べられている。ブラジル国内の各地の空港をはじめ、専門店のファストフード。チェーン店もある。
ミスタードーナツの「ポン・デ・リング」のネーミングの元ネタにもなっていると思われるポンデケージョとは、言語に近い形で記すと“パォン・ジ・ケージョ”。パォンはパン、ケージョはチーズ。つまり、チーズのパンという意味だ。
ただし、パンといっても、伝統的なレシピでは小麦粉は使わない。主な材料は、ポウヴィーリョと呼ばれる、マンジョッカ(キャッサバ)から得られる澱粉と、チーズ、牛乳、水、塩、卵、油。小麦粉を使わないため、グルテンフリー食品としても知られている。
カリっと焼かれた外側の生地に対し、中はモチモチ。マンジョッカ(キャッサバ)ならではの食感だ。ほんのりとしたバター風の香り、卵の味が、おいしさを左右する。
しかし、ポンデケージョのレシピには厳格な規定はないため、牛乳だけを使う場合、水だけを使う場合、食用油ではなくラードを使う場合など、家庭によって細かなレシピは異なる。
食べ方も多様だ。半分に切ったポンデケージョにお好みの具を挟んだりジャムを塗って、という食べ方もある。
基本的なポンデケージョの味や食感を大きく左右するのは、生地のメインの材料であるポウヴィーリョだが、このポウヴィーリョには、発酵タイプで酸味がある「Polvilho Azedo ポウヴィーリョ・アゼード」と、発酵させていない「Polvilho Doce ポウヴィーリョ・ドーシ」の2種類があり、どちらを使うかで生地の質感が変わる。もちろん使うチーズの種類が違えば、味や香りが変わる。
ブラジルの大手メディア「エスタダォン」の人気料理ページ「パラダール」では、両者の違いを以下のように説明している。
「一例を挙げると、ポウヴィーリョ・アゼードはポンデケージョにふんわり軽やかな風味を与える役割を果たす。なぜなら、ポンデケージョはやや大きめに膨らみ、冷めると乾燥するため。ポウヴィーリョ・ドーシを使った場合は、食感はより滑らかで、均一で密度が高く、噛んだときに“もちもち”した食感が生じる」
また、2種類のポウヴィーリョを混合することで、それぞれの長所を生かして風味と食感のバランスのとれたポンデケージョを作ることも可能だと指摘している。
さて、そんなポンデケージョだが、いつどこでどのようにして誕生したのか、起源については諸説があり、定かではない。今では北から南までブラジル全国で親しまれている食品だが、生まれた場所は、牛乳とチーズの名産地ミナスジェライス州で、18~19世紀に誕生したという説が有力だ。
全国商業職業訓練機関ミナスジェライス支部ガストロノミー科のヴァニ・フォンセッカ教授によると、この丸い形の小さなパンが発明されたのは1750年頃で、マンジョッカから得られるポウヴィーリョが使われ始めたころだという。
「当初はポウヴィーリョを材料にした焼き菓子を作っていましたが、18世紀初頭にミナスジェライス州の農場でチーズ作りがはじまり、やがて余剰のチーズが出るようになりました。余ったチーズは保管され、週末に、ポウヴィーリョの焼き菓子の生地にチーズを入れるようになりました」(ヴァニ・フォンセッカ教授)
教授によるとこの焼き菓子は、当時は特別な機会に食べられていたもので、広く普及したのは後年になってからだという。
テイスト・アトラスは「アフリカ出身の奴隷たちがマンジョッカ(キャッサバ)の残り物を使い始めたときに生まれた料理を源流に持つ。細かい白い粉、つまりデンプンを丸めて焼き上げた。当時はチーズは加えられておらず、ただデンプンを焼いたものだったが、19世紀末に奴隷制度が廃止されると、アフリカ系ブラジル人も初めて他の食品を摂取できるようになった。ブラジルの酪農の中心地であるミナスジェライス州では、デンプンで作られた丸形の食品にチーズと牛乳を加えるようになり、ポンデケージョが誕生した」と解説している。
いずれにせよ、今や全国で親しまれている国民的な軽食のポンデケージョ。2007年以降、非公式ながら8月17日が「全国ポンデケージョの日」とされている。
このポンデケージョの日を広めたのは、国材最大手の放送網グローボの人気トークバラエティ番組「マイス・ヴォセ」の司会者アナ・マリア・ブラーガ。料理コーナーが看板のひとつでもあるこの番組で、2007年に全国ポンデケージョ・レシピ・コンテストが開催されたとき、アナ・マリア・ブラーガが呼びかけ、設定された。非公式とは、ポンデケージョの日はなんとなく定着しており、この日には官民を問わず、全国各地でさまざまなイベントが行われている。
これを受けて2024年に、ミナスジェライス州では、8月17日を州立ポンデケージョの日に制定しようという法案が提出されている。
●ポンデケージョのレシピ●
以下に、公開されているいくつかのレシピを紹介しよう。
「エスタダォン」紙(パラダール)
<材料>
半熟成チーズ(太めに削ったもの) 200g
ポウヴィーリョ・アゼード 200g
牛乳 100ml
バター 40g
全卵 1個
塩 好みの量
<準備>
1.オーブンを180度の予熱で準備しておく。
2.鍋に牛乳とバターを入れて沸騰するまで温める。
3.沸騰した混合物をポウヴィーリョ粉に注ぎ、かき混ぜて生地を作る。
4.すりおろしたチーズを加えて混ぜる。卵を加えて再度混ぜる。塩をふる。
5.パンの形を整え(手に油を塗って)、中火で黄金色になるまで焼く。
6.(ヒント)オーブンを予熱するのを忘れない。冷めたオーブンでは、丸形のパンは形が崩れ、皮が柔らかくなってしまう。怖がらずに焼く。ポンデケージョは黄色というより黄金色。
「ブラジル・ア・ゴスト研究所」
<材料>
ポウヴィーリョ・アゼード ティーカップ 3杯と1/2杯
塩 スープスプーン1杯
牛乳 ティーカップ 1杯と1/4杯
食用油 ティーカップ 1/4杯
半熟成チーズ ティーカップ 1杯と1/2杯
卵 3個
<準備>
ポウヴィーリョ・アゼードをボウルに入れ、置いておく。
鍋に油と牛乳を入れて混ぜ、沸騰するまで火にかける。
鍋に塩を加え、火からおろし、鍋の中身をポウヴィーリョ・アゼードに少しづつ加え、熱湯を注ぎ、粗目の粉状になるまでかき混ぜる。
少し冷めたら、摺りおろしたチーズと卵を加え、滑らかになるまで再びかき混ぜる。
生地を約30分、寝かせる。
生地を小さなボール状に丸めたものを作っていき、180度で予熱しておいたオーブンで20分焼く。
「オ・グローボ」紙(ヘセイタス)“お手軽ポンデケージョ”
<材料>
ポウヴィーリョ・ドーシ 250g
牛乳 ティーカップ 1杯
食用油 ティーカップ 1/2杯
塩 ティースプーン 1さじ
卵 1個
半熟成チーズ(削ったもの) ティーカップ 1杯
食用油 生地をこねる際に手に塗る分量
<準備>
1.容器にポウヴィーリョ・ドーシ250gを入れ置いておく。
2.鍋に牛乳1カップ、油 1/2カップ、塩 ティースプーン1杯を入れ、沸騰させる。
3.鍋の混合物をポウヴィーリョ・ドーシが入った容器に移す。
4.冷めるまで材料を混ぜる。
5.次に、卵1個と削った半熟成チーズ 1カップを加える。生地がしっとりするまで混ぜる。
6.手に油を塗り、生地を少しづつスプーンでとる。
7.手で、小さく丸めた生地を作っていく。
8.丸めた生地をベーキングトレイに並べ、200度で予熱しておいたオーブンで20分焼く。
ポウヴィーリョ・アゼードまたはポウヴィーリョ・ドーシは、日本では、「タピオカ粉」、「ポルビージョ」などの名で売られている(念のため、製品に原語でPolvilhoと記されていることを確認すべし)。
(文/麻生雅人)