サマルコ社、被災者への補償より自社イメージ広告を優先!?
2016年 02月 28日2015年11月に発生したブラジルはミナス・ジェライス州(以下「ミナス州」)、エスピリトサント州の一部とドーシ川に壊滅的被害を与えた鉱山廃水ダム決壊事故から、3月5日で丸4か月となる。
時間の経過とともに事故の実態が明らかにされつつあるものの、被災者への支援、補償は十分というにはほど遠い。
そんな中、ダムの管理会社サマルコ社に関して、耳を疑いたくなるニュースが入ってきた。
グローボ系ニュースサイト「G1」が2月19日づけで伝えたところによると、事故の調査を行っているミナス州連邦公共省(以下「MPF」)がサマルコ社に対し、同社の広告キャンペーンについて質問状を送っているという。
「G1」が入手した文書から、MPFがサマルコ社に対して同社が放映を予定している広告キャンペーンを取り仕切る代理店の名前、キャンペーンに対して支出する金額と広告に関する契約書のコピーを提出するよう求めていることがわかった。
サマルコ社が管理するフンダゥン鉱山廃水ダムは2015年11月5日に決壊し、ミナス州マリアーナ市のベント・ホドリゲス地区と近隣のバーハ・ロンガ市を泥で埋め尽くし、近くを流れる大河、ドーシ川に壊滅的被害をもたらした。
鉱山廃水とともに流れ出した汚染泥土はミナス州東部及び隣のエスピリトサント州の40の自治体に到達した。これはブラジル史上最悪の環境汚染災害となった。
MPFは18日、サマルコ社に質問状を送付したと伝えている。
サマルコ社の広告キャンペーンは被災地に住む従業員が事故の前、事故の後の自分の生活や会社の取り組みについて語る形式をとっている。
サマルコ社の顧問弁護士は「G1」からの質問に対し、MPFからの文書はまだ受け取っていないという回答メモを送ってきた。
MPFによると、サマルコ社が被災住民への補償については財政難を訴える一方で、テレビ媒体を使ったゴールデンタイムの広告キャンペーンに大金を払うことに、MPF検察団は大いに違和感を感じているとのことだ。
事故の後、サマルコ社はベント・ホドリゲス地区での事業活動に対し、ミナス州環境保全持続可能開発局長から停止命令を受けている。同局によると、サマルコ社がかつて鉄鉱石を採掘していたジェルマーノ鉱山での採掘は、11月のフンダゥンダムの決壊事故の損害賠償が終わるまで停止されることになっているという。
サマルコ社に3億レアルの賠償金を払わせるために、マリアーナ市のフレデリコ・エステーヴィス・ドゥアルチ・ゴンサウヴェス判事は3億レアル分のサマルコ社の資産差押命令を出した。判事はサマルコ社の資産を差し押さえても十分に経済力があることを根拠に差押命令を書いたという。判事はサマルコ社には年間80億レアル(約2400億円)、関連会社には30億レアル(約900億円)を稼ぐ経済力があるともいう。
2月18日、広告自主規制協会(以下「Conar」)はテレビ媒体を使ったサマルコ社の広告が適切かどうかを審議するための調査を始めた。Conarによると、3月に行う倫理協議会では150人が審議を行うことになるとのことだ。
Conarにはすでにサマルコ社の広告に含まれる情報を疑問視する告発が寄せられているという。現段階で約50人から苦情が寄せられている。苦情を寄せてきているのはサンパウロ州、リオ・デ・ジャネイロ州、ミナス州、エスピリトサント州在住の消費者だ。
Conarの顧問弁護士によると、広告の内容を精査した報告書から倫理協議会の審議を待たずに放映を保留にする選択肢もあるとのことだ。倫理審議会が放映に適さないと判断した場合はできるだけ早く放映を停止しなければならなくなる。Conarはサマルコ社に内容の変更を命じるか広告をお蔵入りにするかを決めることになる。
サマルコ社はまだConarから何も知らせは届いていないと文書で回答した。
鉱山廃水ダムの決壊はブラジル史上最悪の環境汚染災害とみなされている。文民警察事故調査委員会の代表、フェルナンド・ブスタマンチ署長にとっては19人の死者が出た災害でもある。2月5日、同署長はサマルコ社、ヴァーリ、BHPそして各社の取締役は殺人罪を負うと述べた。
今までにマリアーナ市内で汚泥の中から発見された遺体のうち17人の身元が確認できている。残りの2人はまだ身元が分かっていない。事故調査期間は今までに3度延長され、新しい期限は3月12日に設定されている。
サマルコ社のテレビ広告『あらゆる面に目を向けるのは常によいことだ』の映像は下記。
(文/余田庸子、写真/Rogério Alves/TV Senado、Antonio Cruz/Agência Brasil)
写真は2015年11月7日(下)、11月17日(上)、汚染泥土にのみ込まれたマリアーナ市ベントホドリゲス地域