【コパアメリカ2019】 ブラジル、3度目の正直で鬼門パラグアイの壁を超え4強へ

2019年 06月 30日

6月27日、アレーナ・ド・グレミオでパラグアイに勝利したブラジル代表( Wander Roberto/CA2019 )

コパアメリカ2019も開幕してから2週間が過ぎ、決勝トーナメントに入った。

決勝トーナメントは、27日(木)(日本時間28日(金))に、グループAを1位通過したブラジルと、グループBを3位で終えたパラグアイの試合で幕を開けた。

今大会のレギュレーションは、グループリーグは4チームが3組に分かれて行い、上位2チームは無条件で、そして3位の3チームから勝ち点の高い2チームが勝ち抜け、8チームが決勝トーナメントに進む。

各グループの3位は、グループAが勝ち点4のペルー、グループBが勝ち点2のパラグアイ、そしてグループCは勝ち点2の日本だった。

パラグアイと日本は勝ち点では並んだが、得失点差で、パラグアイが決勝トーナメントへの切符、そしてブラジルと戦える権利を得たのだ。日本にとっては、初戦のチリ戦での大敗がこたえた。

ということで、ブラジルとパラグアイという対戦カードが決まったのだが、ブラジルにとっては嫌な相手だろう。

ブラジルは、前大会ではグループリーグで敗退しているが、その前の2大会、2011年アルゼンチン大会、2015年チリ大会と連続で、決勝トーナメント初戦でパラグアイと対戦し、いずれもPK戦の末敗れているのだ。

運命のいたずらか、今大会でも同じく準決勝で、同じカードで戦うことになったのだ。

会場は、ポルトアレグリのグレミオアリーナ。

ポルトアレグリはブラジル南部の都市でパラグアイにも近いせいか、客席にはパラグアイのサポーターの姿もけっこういる印象だ。

ブラジルは、絶対的なボランチ、カゼミーロ(レアルマドリッド)が出場停止で、代役には、前試合で始めてプレーしたアラン(ナポリ)が抜擢された。

国歌斉唱時、ブラジル自国開催のときは、必ずそうなるのだが、演奏が終わった後もサポーターたちは最後までアカペラ状態で国家を最後まで歌い切る。これは、いつ聴いても感動させられる。

試合は、終始ブラジルのペースだった。これは、いつものことで予想通りといっていいだろう。

前半は、ブラジルが攻め続けるがそれほどシュートまで持ち込めたシーンは多くなかった。

しかし後半は、途中、パラグアイがレッドカードで一人少なくなったせいもあるだろうが、ブラジルの決定的なチャンスが数多く、一方的な試合になった。

この試合でも、ブラジルはVARに泣くシーンがあった。

後半9分、フィルミーノ(リバプール)が、PA内で倒され主審はPKの判定を下した。

ブラジルはこの千載一遇のチャンスに、キッカーをコウチーニョ(バルセロナ)に決め、始めようとしたが、試合は止められた。VARのチェックが始まったのだ。

主審が判定を下し、誰も抗議もしていないのに試合が中断される。選手からしても、観客の立場からしても、VARは本当に嫌なものだ。

VARの結果、倒されたのはPA外とのことで、PKは取り消され、FKになってしまった。このファウルでパラグアイの選手にはレッドカードが出たが、パラグアイにとっては、PKにならず命拾いした心境だろう。

このFKでは、コウチーニョ、エヴェルトン(グレミオ)、ダ二エウ・アウヴェス(パリSG)の3人がボールを囲んでいたが、ダ二エウ・アウヴェスが蹴り、惜しくも枠を外した。

ブラジルの途中出場は、後半開始から、左SBのフィリペ・ルイス(アトレチコマドリッド)に代わりアレックス・サンドロ(ユベントス)、後半26分にアランからウィリアン(チェルシー)、そして後半38分、ダ二エウ・アウヴェスから注目の若手ルーカス・パケター(ミラン)の3選手だった。

前半のフィリペ・ルイスもよかったが、アレックス・サンドロはその持ち味を十分に発揮し、相当に攻撃にも絡み、いい動きをみせてくれた。

ウィリアンもポストに当てる決定的なシュートなども放ち、十分に存在感をみせつけてくれた。

注目のルーカス・パケターはさすがにプレー時間が短かった。

何度かボールタッチはあったが、決定的な仕事の機会はなかった。次戦以降に期待したい。

波状攻撃を続けたブラジルだったが、最後までパラグアイのゴールを割ることはできず、7分間あったアディショナルタイムもあっという間に過ぎ去り、0-0で試合終了のホイッスルが鳴った。

レギュレーションにのっとり、延長なし、PK戦で勝負を決めることになった。

因縁の対決は、またも、PK戦までもつれてしまったのだ。

この時の、ブラジル監督 チチの心境はどのようなものだっただろうか。

ブラジル代表やレアルマドリッドでも指揮を取り、サントスで長年監督を務めたルシェンブルゴなどは、PK戦は見ていなかった。とても見ていられる心境ではないのだろう。

こうなると、メンタルの戦いだ。

PKのメンバーを決めるのも大変な作業だと思う。特にブラジル人のメンタルの弱さは半端ないので、監督も頭を悩ますことだろう。

しかしこの際、“メンタルに弱い”などとは言っていられない。

PK戦は、コイントスに勝ったパラグアイが先攻を選んだ。

パラグアイの1番手はブラジルの名門 パウメイラスでプレーするグスタボ・ゴメスだったが、GKアリソン(リバプール)が止めてくれた。

これは、ブラジルにとって大きい。ブラジルは幸先がよくなった。

そして、ブラジルの1番手は、途中出場のウィリアン。

パラジーニャ(蹴る前にフェイントで時間をかけること。長すぎるとやり直しになる。)気味だったが、決めてくれた。

パラグアイの2番手はアルミロン(ニューカッスル(イングランド))。ブーイングの中、難なく決めた。

ブラジルの2番手はDFのマルキーニョス(パリSG)。GKが反応し触られたが、球威で勝り、ゴールの中に入っていった。

パラグアイの3番手はブルーノ・バルデス(クラブアメリカ(メキシコ))。パラグアイの蹴る番になるとブーイングが起こる。しかし、そんなブーイングなどものともせず、スピードあるボールで決めた。PKにはこれが一番効く。筆者は、スピードある球を蹴るPKキッカーが好きだ。

ブラジルの3番手は、ブラジルのPKキッカー コウチーニョだ。今大会での初ゴールも、PKで決めている。最後までGKの動きを見て蹴り、きちんと決めてくれた。

3人ずつ終えて、ブラジルが3-2とリードしている。

パラグアイの4番手はロハス(デフェンサ(アルゼンチン))。高く強い球で決めた。

ブラジルの4番手は、フィルミーノ。

しかしフィルミーノコールの中蹴った球は、ゴール左脇を外れてしまった。

ブラジルのリードはなくなったが、まだタイだ。

5番手は、それで試合が決まるので、通常、絶対的エースが蹴る。

パラグアイの5番手は、筆者が贔屓しているブラジルのチーム、サントスでプレーする10番を付けたデルリス・ゴンサレスだ。コースを狙いすぎたのだろうか。ゴールを外した。

これでまた、ブラジルが優位になった。

ここで、ブラジルが決めたら、勝利が決まる。

ブラジルのキッカーは、ガブリエウ・ジェズース(マンチェスターシティ)だ。

これには少し驚いた。

というのも、前試合、大勝したペルー戦で、試合終了間際に得たPKを失敗していたからだ。

2016年のリオ五輪で、ブラジルはPK戦の末、金メダルを獲得している。その時、5番手で優勝を決めたキッカーは絶対的エースのネイマールだった。

ネイマールがいない今大会、この緊張した場面で、5番手のキッカーを務めるということは、エースストライカーの証なのだろう。

この最高潮に緊張する場面で、ガブリエウ・ジェズースは、あっけなく蹴り、決めてくれた。

いまだ、今大会でゴールのないガブリエウ・ジェズースだが、大仕事をやってのけてくれたのだ。

6月27日、アレーナ・ド・グレミオでパラグアイに勝利したブラジル代表( Wander Roberto/CA2019 )

監督のチチもホッとしたことだろう。名監督と称され、昨年のW杯では8強で敗退したが、異例ともいえる人事で継続が決まった。いまだ国際大会では無冠だ。地元開催の今大会に賭ける思いは人一倍強いだろう。

ブラジルの勝利が決まったスタジアムでは、国民的歌手イヴェッチ・サンガーロの人気曲「フェスタ」が大音量で流れていたことがとても印象的だった。ブラジル人サポーターにとっては、まさに“フェスタ”な気分だろう。

さて、これで、ブラジルは辛くも4強に進むことができた。

準々決勝4試合はすべて終了しているが、4試合中3試合がPK戦まで持ち込まれた。それだけ、力が拮抗しているということだろう。

準決勝の2試合は、ブラジルとアルゼンチン、チリとペルーという対戦カードで行われることが決まった。

ブラジルとアルゼンチンの準決勝の舞台は、何とあの惨劇の舞台となったミネイラォンだ。2014年のブラジルW杯で、ドイツ相手に1-7と惨敗し、ミネイラォンの惨劇として記憶されている場所だ。それも、同じ準決勝という舞台だ。

今大会は、ブラジルにいくつもの試練を与えている。しかしブラジルは、与えられた試練をすべてクリアしてきている。

ブラジル対アルゼンチンの準決勝は、7月2日(火)21:30(日本時間3日(水)9:30)に行われる。最大のライバル同士の戦い。どのような試合になるか、楽しみである。

(文/コウトク)

著者紹介

コウトク

2005年6月~2012年6月まで仕事の関係で、ブラジルに在住。ブラジル在住当時は、サッカー観戦に興じる。サントス戦については、生観戦、TV観戦問わずほぼ全試合を見ていた。
2007年5月のサンパウロ選手権と2010年8月のブラジル杯のサントス優勝の瞬間をスタジアムで体感。また、2011年6月のリベルタドーレス杯制覇時は、スタジアム近くのBarで、大勢のサンチスタと共にTV観戦し、優勝の喜びを味わった。

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