ヴィック・ムニーズが美術館を初めて知ったのはディズニー漫画!? 新作個展「Gibi(コミック)」開催中

2023年 04月 30日

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新作個展「Gibi/コミック」を紹介するトークショーで宮津大輔・横浜美術大学教授(左)と対談するヴィック・ムニーズ(右)(撮影/麻生雅人)

ブラジルを代表する現代美術作家のひとりヴィック・ムニーズ (Vik Muniz)が新作の個展「Gibi」を、nca | nichido contemporary art(東京・六本木)で開催している。

Gibi(ジビ)とは、主にバンカ(ブラジルの路上にあるマガジンスタンド)で売られているコミックブック。

日本ではアメコミとして知られている、アメリカ合衆国におけるコミックブックに近い形状の冊子だ。

「ジビ」はもともとは1939年にグローボ・グループが発行したコミック雑誌名で、語源は、少年やガキンチョなどを表わす当時の俗語だったという。このコミック雑誌が国内で広く流通したことから、ブラジルではコミック雑誌や冊子自体が“ジビ”と呼ばれるようになったという。

1939年4月12日に発売されたグローボ社の「ジビ」創刊号の表紙を飾ったのは、アメリカ合衆国の推理小説の主人公チャーリー・チャン。チャーリー・チャンは原作を基に映画やテレビドラマ、コミックスでも人気を博したキャラクター。

この創刊号にはチャーリー・チャンに加え、人気漫画家アル・キャップが生んだフェルジナンド(アメリカ合衆国では「Li’l Abner」)、フレッド・ハーマンが生んだ西部劇ブロンコ・ピレール(アメリカ合衆国では「Bronc Peeler」)などが登場。その後のイシューでも、ターザン、ディック・トレイシー、フラッシュ・ゴードンなどのヒーローたちが活躍した。

やがて、さまざまなコミックが掲載される雑誌スタイルから、イシューごとに異なる作品が掲載された小冊子がコミックスの主流となっていき、コミックの小冊子自体が“ジビ”と呼ばれるようになっていった。

さまざまな作品が1冊に集まった雑誌のスタイルとは異なり、作品ごとに一つの冊子で編集されたジビは、「モニカの仲間たち」(Turma da Monica)、「マルキーニョ」(Maluquinho)など国産のコンテンツでもおなじみだが、海外のコミック(ウォルト・ディズニー、マーベル、DCコミックスなどアメリカ合衆国のものから、ボネッリなどイタリアのものまで)のポルトガル語版も人気だ。

そんな“ジビ”を、自身の新作のシリーズの題材として選んだヴィック・ムニーズ。駐日ブラジル大使館で4月26日に行われたトークイベントの中で、ヴィックが美術館の存在を初めて知ったのはジビを通してのことだったと語った。

「サンパウロで過ごした少年時代、私が育った貧しい地域には図書館もなく、外の世界とのつながりはバンカにあるジビでした。ジビを通して世界のいろいろなことを知りました。実は、私がはじめて美術館の存在を知ったのも、ウォルト・ディズニーのジビの中でした。後に自分が美術館で作品を発表する人間になるとは、その頃は思ってもみませんでした」(ヴィック・ムニーズ)

新作のジビ・シリーズは、ポルトガル語版や英語版をはじめ日本語版や韓国版など、世界各国で発売されている現地語版のディズニーのコミックブックを細かく切り刻んで素材にした、7つのコラージュ作品。ウォルト・ディズニー・カンパニーの100周年を記念して制作されたという。

ヴィックがはじめて美術館という存在と出会ったディズニーのコミック「美術品の盗難」を題材にした作品もある。

新作シリーズ「ジビ」展は6月3日(土)まで。

ヴィック・ムニーズ 個展 「Gibi / コミック」
会期:4月14日(金) ~ 6月3 日(土)
会場:nca | nichido contemporary art
東京都港区六本木7-21-24 102
Tel: +81 (0) 3-6384-5310
開廊時間:11:00-19:00 (休廊日:日・月・祝日)

(文/麻生雅人)