ブラジルのカルロス・ファヴァロ農牧大臣が記者会見

2023年 08月 1日

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左からホベルト・ペローザ貿易兼国際関係局長、カルロス・ファヴァロ農牧大臣、カルロス・グラール動植物防疫局長(撮影/麻生雅人)

7月28日(金)、駐日ブラジル大使館(東京・港区)にて、カルロス・ファヴァロ農牧大臣をはじめとするブラジル農牧供給省による記者会見が行われ、日伯両国のメディアが参加した。

会見には、ブラジル農牧供給省から、カルロス・ファヴァロ農牧大臣、カルロス・グラール動植物防疫局長、ホベルト・ペローザ貿易兼国際関係局長が参加した。

会見に先立ちカルロス・ファヴァロ農牧大臣は、訪日ミッションの背景や目的について語った。

「今回の訪日ミッションは、第三次ルーラ政権がスタートしてからはじまっている、ひとつの大きな流れの一環として実現したものです。と言いますのは、ブラジルが、これまで長きに渡って外交関係、友好関係が構築されている友好国に対して、その関係性をより深めていくために行っているミッションです。日本とブラジルは、120年を超える友好関係があります」(カルロス・ファヴァロ農牧大臣)

「日本とブラジルの輸出入は双方で均衡がとれている関係にあります。しかし規模で言いますと、10年~15年前に比べ規模がかなり縮小しています。かつては年間で双方の貿易の収支が200億ドルほどの規模でしたが、現在は100~120億ドルくらいに縮小しています。今回の訪日は、両国の貿易関係を復活させる、双方への好機のご紹介、リサーチも目的の一つとなっています」(同)

質疑応答では、ウクライナ危機に関する質問もいくつか出された。

「ロシアが穀物輸出合意から離脱したことにより世界で穀物危機が起こり得る状況となっている中で、穀物の輸出大国としてブラジルはこの状況をどう考えているか、またどのような責任が果たせるか?」という記者の質問に対し、カルロス・ファヴァロ農牧大臣は、ブラジルは、飢餓などの問題が起こらないように早期の世界平和の達成を強く訴えていると強調した。

「まず、穀物の不足がブラジルにとってビジネスのチャンスになるのではないか、というような考えはブラジルには一切ありません。それはあまりに薄情な姿勢です。ルーラ大統領は、そのような考えを持つ人ではありません」(カルロス・ファヴァロ農牧大臣)

「ルーラ大統領は非常に明確に、世界の平和に関して積極的に働きかけています。飢餓についても積極的に働きかけている大統領です」(同)

「ウクライナからの穀物の輸出の縮小で東ヨーロッパやアフリカに多大な影響があると思われます。さらにそれが脆弱な立場の国民の飢餓につながって行く可能性があります。それが回避されること、早期に世界平和が達成されることを、ブラジルの大統領は強く訴えています」(同)

ロシア産肥料の輸入国であるブラジルの立場を問う質問に対しても、大臣はブラジルが講じた対策について述べ、再度、世界の平和と、世界が正常な状態に戻ることを願っていると述べた。

「ブラジルはこの戦争の間にさまざまな地政学的な対策を講じ、ロシアからの肥料に依存せずに肥料の供給を確保することが可能になりました。世界平和という観点からは、ウクライナからの穀物が正常に輸出される環境になることを願っていますし、同じように、ロシアからの肥料が正常に輸出される環境になることを願っています」(カルロス・ファヴァロ農牧大臣)

現在、日本への主な鶏肉の輸出先であるサンタカタリーナ州の“自家消費用の養鶏場”で高原性鳥インフルエンザ(H5N1亜型)が発生したことが確認されて以降、日本が現在、同州からの生きた家きん、家きん肉等の一時輸入停止措置を取っていることに関する質問も集中した。

これに対してカルロス・ファヴァロ農牧大臣は、ブラジルにおける鳥インフルエンザの発生が、“商業用の養鶏施設(家きん飼養施設)”で起きたものではないことを強調した。

「まず最初にお伝えしたいのが、“商業用の養鶏施設”で鳥インフルエンザが発生していないのは世界で4か国のみで、ブラジルはそのうちの一つです。鶏肉や卵の生産に関係する“、“商業用の養鶏施設”においては、ブラジルでは鳥インフルエンザは一切、検出されていないということです」(カルロス・ファヴァロ農牧大臣)

「鳥インフルエンザが世界に出回ってから18年が経っていますが、それ以来、ブラジルの“商業用の養鶏施設”で鳥インフルエンザが発生していないのは、決して偶然の結果ではありません。ブラジルが持っている監視システム、防疫システムが優秀であり、官民の連携が適切にとられ、透明性が高い環境で生産が行われているからです。その結果、実際に条件の厳しい市場への輸出を可能にしています」(同)

続いて大臣は、日本のプロトコルの独特の厳格さについて語った。

「しかしながら、世界基準と比べますと、鳥インフルエンザの発生に対する制限のプロトコルが日本は独特で、日本特有のものです」(同)

「日本の場合は、“商業用”ではない、“裏庭養鶏”とも呼ばれる“自家消費用の養鶏場”で発生した場合でも、発生した州からの輸入に規制がかかります。今回の例では、ブラジルのエスピリットサント州とサンタカタリーナ州、2州の“自家消費用の養鶏場”の中で発生したものですが、日本では、これらの州からの輸入を一時停止している状況です。今回の訪日ミッションでは、日本の鳥インフルエンザの発生地に関する規制に対して、いくつかの要請を行っています」(同)

「国際獣疫事務局(WOAH、旧OIE)は、“自家消費用の養鶏場”で発生した鳥インフルエンザは輸出の規制の対象にならないという立場を世界に対して提示しているが、これに対し日本は現在、“裏庭養鶏”であっても規制の対象としているという点について、日本政府から、今後WOAHの基準に合わせていくという何らかのサインがあったか?」という記者陣から質問に対し、大臣は再度、ブラジルの防疫状況について述べた。

「再度述べますが、“商業用の養鶏施設”で鳥インフルエンザが発生していないのは世界で4か国のみで、その中の一つであるブラジルは、国際獣疫事務局(WOAH)によって(貿易の規制の対象となる)鳥インフルエンザはないというステータスを与えられています」(カルロス・ファヴァロ農牧大臣)

「それゆえ現在もブラジル産の鶏肉、卵に関して、日本以外の国ではまったく輸入の規制を行っていません。日本だけが独自に、“裏庭養鶏”の中の、ひとつの鶏舎で発生した場合でも、発生した鶏舎がある州全体からの輸入を規制するという立場をとっています。ブラジル側としては、日本に対して、国際獣疫事務局(WOAH)が推奨している基準に合わせてほしいとお願いはしましたが、日本側からは、今後も改正はないという回答でした」(同)

今回の訪日ミッションの中でブラジルは日本に対して、規制のゾーニングに関する提案も行ったという。

「現時点での規制は“州”単位となっていますが、これを発生した鶏舎がある“市町村”単位にゾーニングを限定することを働きかけており、現在、その方向で双方で動いております」(同)

大臣は、ゾーニングによる規制を提案する背景には、ブラジルの国土の広さがあることを説明した。日本の約23倍の面積を持つブラジルは、各州の面積も広大だ。

「補則をしますと、ブラジルは大陸レベルの国で、州ひとつだけの中でも、日本全土が2から3、場合によっては5つも入ってしまうほどの広い州が集まった国です。ですから、ひとつの鶏舎から病気が発生したことで、州全体からの輸入が規制されるのは現実的ではないのではないかと考えます」(同)

「サンタカタリーナ州における鳥インフルエンザの発生地は、マラカジャー市にある“自家消費用の養鶏場”です。同市は海岸沿いにある自治体で、発生後はプロトコルに基いた処理がすでに行われています」(カルロス・グラール動植物防疫局長)

サンタカタリーナ州は国内第2位の鶏肉輸出州であり、病気が検出されたマラカジャ市の“自家消費用の養鶏場”は公立獣医学局(SVO)によりすでに閉鎖され、鳥は処分され、遺骨も粉砕されて埋められたと、現地メディア「ブラジル通信」(7月28日付)が伝えている。

「現在、日本はサンタカタリーナ州全土からの28日間の輸入停止措置を取っています。ゾーニングの規制を州全体ではなく市町村レベルにすることができましたら、28日を待たずに、同州のマラカジャ市以外の都市から輸出することができるようになります。ブラジル側は、すでに技術的なデータも提出しています」(カルロス・グラール動植物防疫局長)

豚肉及び牛肉の日本への輸出の展望については、口蹄疫ワクチン非接種清浄地域の州についてなど、ブラジルの状況が伝えられた。

「ブラジルは世界的に最も衛生プロトコルが厳しい市場に対しても輸出ができる形で基準を満たしています。サンタカタリーナ州に加え、パラナ州、リオグランジドスウ州、ホンドニア州、アクリ州が、すでに口蹄疫ワクチン非接種清浄地域として国際的に認められています」(カルロス・ファヴァロ農牧大臣)

「つまりは豚肉のみならず牛肉に関しても、これらの州から日本へ対しても輸出することができる条件が整っているといえます。品質の高い製品、衛生管理が行き届いた環境、効率的で透明性がある生産体制、競争力のある価格で、供給が可能です」(同)

「実際にブラジルは牛肉の輸出大国として、世界の様々な国に対してその品質が保証され、競争力のある価格で輸出を実現しています」(同)

「ブラジルは日本と同様に食品に関して厳しい基準を設けている国です。鶏肉に関してもブラジルが世界に対し供給大国として確立されているのは、防疫当局による衛生管理が充分に機能しており有効であるといえます」(同)

「牛肉に関しては20年前から交渉が続けられています。長い時間をかけて様々取り組みがおこなわれ、日本側がさまざまな検査を行っていますが、それにしても、すでに20年もの時が経っています。ブラジル側では、日本産の牛肉の輸入は解禁されています」(同)

「ブラジルの牛肉の生産量のうち、輸出に向けられているのは約30%です。まだまだ輸出の拡大に対しブラジルは大きな可能性を持っています」(同)

(文/麻生雅人)