アマゾンカカオ、クプアス…。サロン・デュ・ショコラ2024で注目度高まるアマゾンの食と文化
2024年 02月 8日
カカオはテオプロマ属の樹木(学名:Theobroma cacao テオプロマ・カカオ)の果実だが、クプアスも同じテオプロマ属のクプアスゼイロ(学名:Theobroma grandiflorum テオプロマ・グランディフロールン)という樹木の果実。
ブラジル環境省(「Espécies nativas da flora brasileira de valor econômico atual ou potencial: plantas para o futuro: região norte 」)によると、クプアスゼイロは、ブラジルのパラー州南部と南東部、マラニョン州のプレ・アマゾン地域を含むアマゾン川の南とタパジョス川の南東に自生していたと考えられており、クプアス(cupuaçu)の語源は先住民トゥピ属の言葉で、“クプ”は「カカオに似ている」、“アス”は「大きい」を意味するという。
クプアスゼイロは先住民の移動に伴い分布が広がったと考えられており、現在ではブラジルの北部全域に加えいくつかの州(バイーア州、サンパウロ州、パラナ州)や、ガイアナ、マルティニーク、エクアドル、サントメ、トリニダード、コスタリアをはじめとする中南米の近隣国でも栽培されているという。
昨年、サロン・デュ・ショコラ2023でブラジルから初出店した「ミッション・チョコレート」も、クプアスのドライフルーツを使った「クプアス タブレット」を出展していたが、サロン・デュ・ショコラ2024のパート1では、ボリビア・アマゾン地域でアグロフォレストリー農法に取り組むブランド「エル セイボ ボリビア」が「アマゾン クプアス PREMIUM」を出展していた。
太田哲雄氏の「アマゾンカカオ」が出展した新作クッキー缶「アマゾンカンカンデラックス」の中にも、クプアスニブを使った「クプアスとコーヒー豆のショコラビスコッティ」が入っていた。
開催中のパート3では、クラフトビール醸造所の「フジヤマ ハンターズ ビール」(ブリュワー:深澤道夫氏)が、クプアスを使ったビール「クプアスビール」を出展している。
そしてサロン・デュ・ショコラには2008年から17年間連続出場している「ヨシノリ・アサミ」(パティシエ:浅見欣則氏)では、クプアスのアイスを浮かべた「プレミアム・クリームソーダ」を提供している。
実はクプアスのアイスを使ったメニューを浅見さんは2016年から出展しており、すっかり「サロン・デュ・ショコラ」の人気メニューとなっているという。
そんな浅見さんがクプアスと最初に出会ったのは、実は伊勢丹新宿店。2014年~2016年の3年連続で開催されたブラジルフェアの第二回目、2015年に開催された「BRASIL FANTÁSTICO! 祝彩楽園 ブラジル」でのことだった。
「全館でブラジルフェアがあったとき、依頼があってクプアスを使ったアイスを作ったのがはじまりなんです。そのとき、初めて、いろいろなブラジルのフルーツに出会いました」(浅見欣則さん)
ブラジルフェアで浅見さんが「スーパーフルーツアイス・クプアス&マンゴー ソルベ」を出品したところ、サロン・デュ・ショコラの常連客に、これをサロン・デュ・ショコラでも出してほしいといわれたことがきっかけで、翌2016年からクプアスのアイスを出し始めた。
「それから徐々に人気になって、今やこのアイスを食べるためだけにわざわざ新幹線に乗って来るかたが何人かいるほどです(笑)」(浅見欣則さん)
もちろん浅見さんのレシピが人気の元であることは言うまでもないが、クプアスという素材自体に、とてつもない魅力があると浅見さんは言う。
「それほど、いい意味で中毒性があるんです。独特の強い味と香りは、初めて食べた方でも虜にしてしまうのでしょう」(浅見欣則さん)
パティシエとしても、他に類を見ない面白さを持つ素材だという。
「ミルクや生クリームを合わせて加熱して冷却すると、この果物は、全く違った表情を、見せてくれる。そういう意味での、変化の振れ幅が、他のフルーツよりはるかにあるんです。お菓子作りでは、砂糖、油、固形分の計算の中でチョコやアイスが出来上がる絶対的な数値の方程式があるんですが、その中にクプアスを落とし込んだとき、ほかの材料以上に変化があって、美味しくしてくれる。無限の可能性がある素材です」(浅見欣則さん)
今回のクリームソーダでは、エクアドル産のカカオ果汁と桃を使ったソーダに、クプアスのアイスを浮かべている。
「クプアスと桃の相性がいいんです。素材によっては、何かに合わせて使うと薄まってしまって味が出ないものもありますが、クプアスはベースの味が個性的で、香りも味も濃いので、自分の存在感もしっかり残しながら、なおかつ他の素材も巻き込んで、プラスアルファで広がりを作ってくれるんです。それができる素材はなかなかないですよ」(浅見欣則さん)
カカオと同属の果実であるクプアスは、カカオと同じように種子からチョコレート菓子を作ることもでき、ブラジルではクプラッチと呼ばれている(ブラジルのポルトガル語ではチョコレートはシュコラッチ)。
浅見さんが使うクプアスは、果肉の冷凍パルプだ。そして、カカオの“ネクスト”を感じさせるパート3メニューでは、カカオのパルプを使ったメニューも目についた。
よく知られているように、チョコレートの原料となるのはカカオ豆(種子)だが、この種子は、カカオの果実の殻の中で、果肉に包まれている。この果肉部分がカカオパルプだ。
カカオパルプはチョコレートの味とはまた違って、甘酸っぱくて香り高くおいしい果肉。カカオ農場ではカカオ豆の発酵に使われ、残りを農場で食べることはできるが、産地以外では生ではほとんど流通していない。
しかしこのカカオの果肉は、冷凍パルプの形で産地から日本に届けられ、さまざまなシェフやパティシエの注目を集めている。
ワールドチョコレートマスターズ世界大会で総合優勝を果たしている水野直己シェフの「Naomi Mizuno/ナオミ ミズノ」では、「カカオパルプのソフトクリーム」を紹介。カカオパルプの魅力がストレートに堪能できるメニューだ。
アロマチョコ専門店「メゾンカカオ」ではカカオパルプからつくるカカオビネガーを使った「カカオビネガー ハイボール」を提供している。
いくつかの生産地からカカオパルプは日本に届けられているが、アグロフォレストリーで生産されているブラジルのアマゾン産のパルプも、そのひとつだ。
そして、クプアスもまたアマゾンのアグロフォレストリーでカカオや他の果実とともに混載されている果実のひとつ。冷凍パルプが日本に届けられている。
クプアスやアマゾンカカオの冷凍パルプは現在市販もされているので、AMAZONや楽天などの通販サイトでも購入することができる。
料理やお菓子作りで新しい味を探索されている方は、ぜひお試しあれ。お菓子をつくることで、アマゾンの森を守る活動にあなたは加担することにもなる。アマゾンフルーツの冷凍パルプを消費することでも、アグロフォレストリーのサイクルに参加することができるからだ。
サロン・デュ・ショコラ2024は伊勢丹新宿店 本館6階催事場にて2月14日(水)まで開催中。詳細は伊勢丹新宿店「サロン・デュ・ショコラ2024」公式HPを参照。
(文/麻生雅人)