女子サッカー パリオリンピック アジア最終予選:なでしこジャパン、北朝鮮を破りオリンピック出場を決める

2024年 03月 4日

女子サッカーのパリオリンピック(以下パリ五輪)アジア最終予選の最終戦が2024年2月28日(水)に東京の国立競技場で行われた。

女子サッカーのパリ五輪のアジア枠は2つ。アジア最終予選では、その2つのチケットを獲得するために4チームが2つに分かれ、ホームアンドアウェイで戦った。

最終予選に進んだのは、オーストラリア、北朝鮮、日本、ウズベキスタンの4チーム。日本女子代表(以下なでしこジャパン)は北朝鮮と対戦することになり、2月24日(土)にアウェイで第1戦を、そして2月28日(水)にホームで第2戦を行うことになった。

当初、第1戦の会場は北朝鮮の平壌で決まっていたが、運営面での不安定さからアジアサッカー連盟(AFC)が第三国での開催を強く求め、直前まで開催が決まらないという事態に陥っていた。

その結果、第1戦の会場が第三国のサウジアラビアに決まったのは試合前1週間を切ってからという異例の事態となった。そんな第1戦は0-0で引き分け、勝負はシンプルにこの第2戦の結果で決まることになったのだ。

地下鉄銀座線の外苑前駅から会場へ続く道は驚くほど閑散としていた。国立競技場で開催されたいろいろな試合を見てきたが、これだけ閑散としている試合はほとんど記憶にない。試合開始時間が18:30ということも影響していたのかもしれない。通常の日本代表戦では平日の試合なら、キックオフ(以下KO)の時間は19:20頃だ。集客、そしてテレビ観戦するにしても18:30キックオフは早すぎるように感じた。後に発表されたこの日の観衆は20,777人とのこと。

スタンド最上層の記者席に着いたのはKO15分前の18:15頃。代表戦では、記者席の回りにも一般のお客さんでほぼ満席になるが、この日の最上層は、記者席に座るメディア関係者の姿しか見当たらなかった。

対して、会場の演出は五輪出場決定戦らしく、凝った演出がほどこされ、スタジアム上空の空を背景にプロジェクションマッピングのようなパリ五輪にまつわる画像が映し出されていた。

そして、試合開始。なでしこジャパンの試合の入りはよかった。

開始早々からポニーテール姿の長谷川唯の動きがよく目立っていた。ピッチ上を縦横無尽に走り回り、あらゆる攻撃の起点になっていた。今のなでしこジャパンは長谷川唯のチームだということを強烈に印象づけられた。

そんな目立つ動きの長谷川唯が動とすれば、中盤でコンビを組む長野風花は静といったところか。派手さはないがバランスを取りながら気の利いたプレーで存在感をみせていた。

この日の布陣は、4日前に行われた第1戦とは異なり3バックで、両WBがより高い位置でプレーすることができていた。右の清水梨紗、左の北川ひかるのオーバーラップは冴え、中盤の2人(長谷川、長野)、前線の3人(藤野あおば、田中美南、上野真実)とも連携し、よい攻撃を繰り返していた。

しかし、完全に日本ペースでよい攻撃はできていながらも、シュートまではなかなか持ち込めなかった。

そんな中、前半26分に日本にFKのチャンスが訪れる。川村ひかるが素晴らしいボールを相手ゴール前に放ち、最後はDF高橋はながゴールを決めた。

なでしこジャパンは、欲しかった時間帯に待望の先制点を得ることができた。

その後も日本が主導権を握るが、北朝鮮は時折鋭いカウンターを見せチャンスをつくり出していた。

前半終了間際に、北朝鮮にあわやゴールというシーンがあった。一瞬ゴールに入ったかと思われたボールをGK山下杏也加が右手一本でかき出した。この試合はVARを採用しておらず、ノーゴールの判定に北朝鮮サイドの抗議はあったものの判定は覆らず、日本にとっては肝を冷やしたシーンだった。

そのまま1-0で前半は終了した。

後半の入りは北朝鮮がよかった。何度かシュートまで持ち込まれたが、GK山下杏也加がキャッチするなどで事なきを得た。

そして徐々に日本も試合を落ち着かせることができるようになった。

63分にはこの日3トップの左に入った上野真実に代わり清家貴子が入った。

そのまま大きな動きはなく試合は進んでいったが、77分に待望の追加点が日本に入った。

右サイドの清水梨紗からのやさしいクロスを藤野あおばが頭で決め、待望の追加点が入ったのだ。このゴールは大きかった。

右サイドでこの試合再三チャンスをつくり出していた清水梨紗だったが、ついにゴールに絡む素晴らしいプレーをみせてくれた。

しかしながら、その直後の81分に、北朝鮮に一瞬の隙をつかれゴールを決められ1点差になってしまった。

終了間際の89分に、左WBの北川ひかる、FW中央の田中美南に代え、古賀塔子、植木理子を投入した。

ATにも危ないシーンはあったが最後まで耐え、そのまま2-1で勝利し、パリ五輪の出場権を得ることができたのだった。

選手たちはピッチ上で倒れ込み、皆で喜びを分かち合っていた。喜びはもちろんだが、ホッとしたということのほうが大きいだろう。

本当によかったと思いながら、そんな光景を見届けてから、監督の会見場に向かった。

試合後の監督会見は、北朝鮮、日本の順で行われた。

北朝鮮のリ・ユイル監督は、

・フェアプレーを心掛けるように戦い、両チームともに大変すばらしいフェアプレーで戦うことができた。

・(スタジアムに足を運んだ3000人のサポーター、日本各地で応援しているサポーターに対して)よい結果を見せられず申し訳ない。もっとよい姿を見せたかった。

といったコメントを残した。

最後のコメントを発するに際しては、涙ぐんでしばらく言葉が出なかった。いろいろと思うところはあったと思うが、正々堂々とした言葉を発し、またクリーンで潔い姿勢を感じた。

その後、なでしこジャパンの池田監督の会見となった。

「しっかりと勝利し、パリ五輪の出場を決めることができ嬉しく思う。タフな試合を戦い抜いた選手たちを誇りに思う。パリ五輪でも応援いただき、女子サッカーを盛り上げていただきたい」と話した後、記者からの質疑応答では以下のように答えた。

・1試合目と2試合目でフォーメーションを変えるプランは前から持っていた。

・清家選手以外の途中交代を終盤まで行わなかったのは、リズムやバランスを崩したくなかったから。

・ホームでの声援を受けて戦いたかったので、第2戦がホームになるように考えており、ホームで勝利して皆で喜びを味わいたかったのでその通りになってよかった。

・北朝鮮のチームについて、一人ひとりの技術力、チームの組織力は素晴らしく、サポーターの声援も多く、試合後の挨拶でもパリ五輪でも頑張れとの声を受け、同じサッカーを愛する仲間としてとても嬉しく思う。

その後、ミックスゾーンに移動し、清水梨紗選手と熊谷紗希選手から直接コメントを聴くことができた。

清水選手からは、

・この大会(最終予選の2試合)自体、ハプニングがあり難しい状況だった、今日の試合、90分間で勝ち切ることができてよかった。

・77分の勝ち越しゴールのアシストのシーンでは、ゴール前に(長谷川)唯、(清家)貴子、(藤野)あおばの3人とも入ってくれていたので誰かが触ってくれると思い、ゴールに繋がってよかった。相手DFをうまく交わすことができ割と時間があったので中(ゴール前)の状況も見ることができた。

・第1戦は守備でも攻撃でも噛み合わないところがあった。今回は試合前から3バックということは決まっており、うまく嚙み合ったと思う。

・相手の15番の選手がマンツーマン気味だった。下がっても相手を引き付けるだけなので、思いっきり仕掛けようと思った。

・3バックか4バックか、相手によって変わってくるところもあると思うが、今回の北朝鮮相手には3バックのほうが適していたと思う。

といったコメントを聴くことができた。

熊谷選手は、以下のようなコメントをキャプテンらしく力強く語ってくれた。

・第1戦では相手のロングボールに対してDFラインが落ちてしまいボールにプレッシャーをかけられなかった。今回は3バックにして前に出られるようになった。

・前半から守備でも攻撃でも主導権を握ることができた。短い期間でも準備したことを実行することができた。チャンスをつくってゴールを決めることができ、押し込まれるところもあったが、勝つことがすべてだったのでよかったと思う。

・1点返された後皆で集まり、自分たちはまだ勝っており落ち着いていこう、小さいことをやらないで大きいことをやっていこう、と話し合った。

・2次予選から4-1-4-1でやってきたが、相手によってフォーメーションを使い分けられればよいと思う。今日に関しては、3バックでやれてよかったと思う。監督もその準備をしており、急に(昨年のW杯でやっていた)3バックに戻してもできたということはW杯の経験が活きたと思う。

・リオ五輪の予選で敗退した後、どんなによいチームでも一瞬で解散するということを知っている身として、もう一度同じことを繰り返してはいけないと思っていた。女子サッカーの今後のためにも、本当に勝ててよかった。

・もっともっと自分たちの形、プレースタイルをつくっていきたい。フォーメーションについても、相手によって、自分たちがピッチの中で変えることができればよりよいと思う。

・昨年のW杯でも優勝を目指して戦ってきたが、何かが足りなかった。五輪は12チームと出場国も少なく、W杯とはレギュレーションも違うので、そういったこともアドバンテージにしていきたい。(パリ五輪では)ポテンシャルはあると思っているので、金メダルを目指して頑張っていきたい。

・今回の最終予選は、第1戦を引き分けたことは大きかった。今日の試合の結果だけで決まるということでシンプルに入ることができた。移動もあり中2日しかなかったが、3バックに変え、修正できたことは自分たちの強味でもあると思う。

・パリ五輪まであと約半年あるので、もっとレベルアップすることが必要だと思っている。

パリ五輪のサッカー競技の組み合わせ抽選会は3月20日(日本時間21日)に行われ、競技は7月24日~8月10日(日本時間7月25日~8月11日)に行われる。

W杯で優勝してから13年。再び、世界の舞台で躍動するなでしこジャパンの活躍を期待したい。

(コウトク)

著者紹介

コウトク

2005年6月~2012年6月まで仕事の関係で、ブラジルに在住。ブラジル在住当時は、サッカー観戦に興じる。サントス戦については、生観戦、TV観戦問わずほぼ全試合を見ていた。
2007年5月のサンパウロ選手権と2010年8月のブラジル杯のサントス優勝の瞬間をスタジアムで体感。また、2011年6月のリベルタドーレス杯制覇時は、スタジアム近くのBarで、大勢のサンチスタと共にTV観戦し、優勝の喜びを味わった。

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