謝らないブラジル人、謝り過ぎる日本人

2016年 01月 17日

ブラジル タクシー 領収書

ブラジルに来て間もないころ、ポルトガル語で書いたメールの文章は、日本語のできる日系ブラジル人の方に添削してもらっていました。例えば、こんな文章。

「いつもお世話になっております。
ご連絡が遅くなってしまい申し訳ございません。
○○の件ですが、資料の□□をお送り頂けませんでしょうか。
ご多用中のところ、大変お手数をお掛けし恐縮ですが、よろしくお願い致します」

これをポルトガル語に直訳して添削してもらったところ、次のような文章になりました。

「Bom dia,
Favor mandar □□ para verificar sobre ○○.
Atenciosamente,」
(おはようございます。○○の件の確認のため、□□を送ってください)

添削後の文章は要件のみで、謝ったり、恐縮したりする文章は削除されました。

ブラジルにきて最初の頃よく言われたのは次のようなことです。

「唐木さん、ブラジル人は滅多に謝らないんですよ。Desculpe(すみません)は要らないと思いますよ」

そしてしばらくブラジルで仕事をしてみて、「ブラジル人は滅多に謝らない」というのは本当だと思うようになりました。

例1、タクシー運転手のケース。

タクシーに乗って、乗車賃(30レアル)を支払うときに、ぼくが50レアル札を出したとします。このとき、運転手は「おつりを持っていない」と自信満々で言い放つことがあります。

こちらは、20レアル札くらい用意しておけよ、と思うのですが、運転手は悪びれる様子もありません。なんだったら、30レアルちょっきり持っていないお前が悪いとでも言いかねない態度です。

もっと酷いヤツもいます。ブラジルのタクシーの領収書は、未だに伝票に手書きスタイルが多いのですが、その伝票を持っていないというツワモノ運転手に遭遇したことがあります。仕方がないので、かばんに入っていたメモ用紙をちぎって、そこに金額とサインをしてもらいましたが…。

例2:スポーツ用品店店員のケース

筋力トレーニングのために、ダンベルを買おうと思い、スポーツ用品店に行った時のことです。ダンベルコーナーはあるのですが、肝心のダンベルの在庫が切れていました。店員に確認すると、「在庫は切れている」との素っ気ない返事でした。

「じゃあ、いつ入るんだ?」と聞くと、「わからない。ホームページで通販をやっているから、そこで注文てみたら?」と言われました。仕方がないので、ウェブページを確認したのですが、送料がダンベルの価格を同じくらいかかるようなので馬鹿らしくなってやめました。

このような例は枚挙にいとまがありません。ブラジル人は自分が責任を負う範囲というのを非常に小さくとらえる傾向があります。大体の問題は、環境や組織など外部の責任にします。

でもまあ、慣れてくると責任を負わないのが当たり前に思えてくるので、いちいち腹を立てたりしなくなります。ブラジルでは理不尽なことが多々起こるので、いちいち自分で責任を引き受けていたら身体がいくつあっても持たないのかもしれません。

日本人は反対に、自分の責任ではないことまで自分の責任として引き受けて謝る傾向が強いですね。そうあるべきだ、その方が美しいという社会の要求があるからだと思います。

しかし、理不尽な責任を個人で背負い込んでしまうと、心が折れてしまうこともあります。ブラジル人のようになろうとは思わないですが、問題の責任を背負い込み過ぎない、人に責任を求め過ぎないというブラジル人の鷹揚さは参考にしたいと思いました。

(文/唐木真吾、写真/Maurilio Cheli/SMCS)
パラナ州クリチーバ市では、GPS機能を使って目的地へのルートを明確にできて、さらに料金メーターと連動して印刷された領収書が出るタクシーが2014年に導入された

著者紹介

唐木真吾 Shingo Karaki

唐木真吾 Shingo Karaki
1982年長野県生まれ。東京在住。2005年に早稲田大学商学部を卒業後、監査法人に就職。2012年に食品会社に転職し、ブラジルに5年8カ月間駐在。2018年2月に日本へ帰国。ブログ「ブラジル余話(http://tabatashingo.com/top/)」では、日本人の少ないブラジル北東部のさらに内陸部(ペルナンブーコ州ペトロリーナ)から見たブラジルを紹介している。
コラムの記事一覧へ