日本代表対ブラジル代表戦、日本は大善戦。ブラジルがネイマールのPKで辛勝

2022年 06月 8日

6月6日、国立競技場。キリンチャレンジカップ2022 日本代表対ブラジル代表戦(写真/Lucas Figueiredo/CBF)

後半開始から、日本は原口から鎌田に交代した。

ブラジルの選手交代はなかった。

後半は、入りはブラジルが優勢だった。

ハフィーニャが倒されFKを得たが、単純にクロスを上げるのではなく、デザインされた横パスからチャンスをうかがったが、シュートまではつながらなかった。

ネイマールもボールは持つが、抜けない。倒れるのが精一杯。

ブラジルは細かくつなぐが、最後の最後でシュートまでつながらない。

古橋がダニエウ・アウヴェス(バルセロナ)のクリアボールを拾いシュートまで持っていく。その直後に伊東のCK。日本、パスつながる。

ブラジルも、いい形でつなげ、ネイマールがシュートまで持ち込むが、日本DF陣がクリア。

ネイマールは、普段なら絶対決めるシーンも、シュートは枠から大きく外れ決めきれない。

まさに一進一退の戦いだ。

そして、後半17分、ブラジルが初めての選手交代を行った。

ハフィーニャ、ヴィニシウス・ジュニオールに代わり、ガブリエウ・ジェズース(マンチェスターシティ)、ガブリエウ・マルチネッリ(アーセナル)が入った。

ハフィーニャは右サイドでチャンスメイクしておりシュートも打っていたが、左サイドの期待のヴィニシウス・ジュニオールはシュートゼロで、ほとんど見せ場を作れなかった。素晴らしいポテンシャルを持っている選手だけに残念だった。

選手交代は続く。

後半22分、日本は古橋に代わり前田大然が入る。

続いてその数分後に、ブラジルは、フレッジ(マンチェスターユナイテッド)とダニエウ・アウヴェスを下げ、リシャーリソンとチアゴ・シウヴァを投入した。

いつの間にか、後半も半分が過ぎていた。

試合が進むのは早い。まだまだこの試合を見ていたいと思う中、日本に大きな見せ場が訪れた。

パスがつながる、つながる。最後は伊東がシュートを打つも惜しくも枠外だった。

その直後、後半27分に、日本はその伊東、南野に代え、三苫と堂安を投入した。

さらに一進一退の攻防が続く。

ブラジルも怒涛の攻撃を見せる。

権田、またも神がかったセーブ。つづいての豪快なシュートはポスト直撃。

ブラジルは、またも決めきれなかった。と思ったら、PKスポットにネイマールがボールをセットしている。

何が起こったかよくわからなかったが、ブラジルにPKが与えられたのだ。PA内で、遠藤がリシャーリソンを倒してしまったようだ。

PKを蹴るネイマールの姿を見て、感慨深いものがこみ上げてきた。ブラジル在住時、サントスでネイマールが蹴るPKを何度も見てきたからだ。今ではほとんど外すことはないが、若い頃はけっこう外していたけれど。

しかしネイマールのPKは、いつものネイマールのPKだった。

この日大活躍の権田でも止めることはできなかった。後半32分、遂にブラジルに1点が入り、ついに均衡が破れた。

しかし絶対王者のブラジルにとって、日本相手にPKの1点だけでは満足はできないだろう。その後も攻め続けた。

後半36分、日本は、長友、田中碧に代え山根、柴崎を投入。

いつの間にか、試合時間もあと10分を切っていた。

まだまだ見ていたい。時間よ止まれ。この試合、そう感じていたのは筆者だけではあるまい。

三苫は左サイドで再三見せ場を作った。

三苫とミリタォンのマッチアップは見応えあった。この2人は何度マッチアップしただろうか。

三苫、あわやミリタォンを抜きそうになるシーンもあった。

三苫のクロスをミリタォンが弾きCKになり、ミリタォンはPA内で倒れてしばらく動けなかった。三苫はそんなミリタォンに心配そうに駆け寄った。三苫の人間性が垣間見られたいいシーンだった。

日本のCKは堂安。遠藤が頭で合わせたが惜しくも枠外へ外れた。

後半40分、ブラジルは最後の交代カードを切る。

カゼミーロ、ルーカス・パケタが下がり、ファビーニョ(リヴァプール)、ブルーノ・ギマラインス(ニューカッスル)が入った。

残り5分で、期待のブルーノ・ギマラインスのプレーをやっと見ることができた。筆者が今もっとも注目する選手なので、注視してプレーを見たが、いかんせん時間がない。

日本、最後の力を振り絞る。

三苫がPA内に進入し倒されたが、PKはもらえず。

いい位置でのFKは、鎌田が蹴ったがファーに大きく外してしまう。

三苫にボールが入る。PA内に進入するも、またもミリタォンが決死のディフェンスを見せる。

またも三苫にボールが入る。GKアリソンは必死にボールをサイドに蹴り出す。

アディショナルタイムは3分。

あと3分で試合は終わってしまう。この素晴らしい試合を一瞬でも見逃さないように、一秒でも無駄にしないように、全神経を集中し目を凝らして見ていた。

試合終了の笛が鳴った。ついに、夢のようなときは終わってしまった。

結局、PKの1点によりブラジルが1-0で勝った。

この結果をどう見るかだ。

親善試合ではあるがキリンチャレンジカップというカップ戦でもあったので、勝ったブラジルに優勝カップが授与された。

試合終了後は、和やかな雰囲気だった。ピッチでは両チームの選手が交じり合ってしゃべっている。

吉田はジャージ姿のブラジル人選手と親しげに話していたが、よく見ると、この日ベンチメンバーに入っていなかったアレックス・サンドロ(ユヴェントス)のようだった。同じチームになったことはないが、お互いにイタリアのクラブに所属しているので、交流があるのかもしれない。

ブラジル選手たちが引き上げ、その後日本代表選手たちが場内を一周したのを見届けてから、記者会見室へ向かった。

記者会見は、ブラジル、日本の順で行われた。

なかなか、ブラジルの記者会見が始まらない。チチ監督は、この試合内容に相当立腹していて出てくることを拒んでいるのだろうか。そんなことを思いながら待っていた。

21:55、試合が終わってから約40分後に、ブラジルの記者会見が始まった。

チチ監督、サンパイオコーチ、そしてファビオフィジカルコーチの3人が壇上に座った。

まずはチチ監督が「非常にハイレベルな戦い。両チームともに高いW杯レベルの戦いだった」と試合の感想を述べ、「我々の方が、特にメンタル面で強い思いを持ちゴールを追いかけた。その結果、勝利を得られたのだと思う」とコメントした。

日本代表をどう見ているか? という質問に対しサンパイオコーチは、アジアでの2戦を振り返り、韓国と日本を比較した見解を語った。

「韓国のほうが動きが多く、フィジカルを重視している。日本はテクニック重視で、強固なDFライン(DF4人+1人,もしくは4人+2人)で守る。森保監督が作ったメカニズムはとても調整されている。ここ8試合負けていないことも理解できる。特に韓国とは、W杯のベスト16(決勝トーナメント)で当たる可能性があり、いいシミュレーションになりすごくよかった」(サンパイオコーチ)

ファビオフィジカルコーチは「日本を分析はしていたが、とても速くて驚いた。特に、長友、伊東がとても速い」とコメントした。

一方、ブラジル代表については「今のブラジル代表の特徴は多動性とスピードで、特に、中盤から攻撃にかけては素早く足の速い選手が揃っている。これから(多くの代表選手が所属する)ヨーロッパのクラブではオフシーズンに入るので、コンディションをいかに保つかが課題となる」とファビオフィジカルコーチが答えた。

「ブラジルの攻撃は、両サイドにスピードのある選手を置き、縦に突破させる。そして、センターにアタッカーを配置している。今日は、ヴィニシウス、ハフィーニャから始めて、ガブリエウ・マルチネッリ、ガブリエウ・ジェズース、そしてリシャーリソンを投入した」(チチ監督)

「基本は4-4-2だが、両サイドから攻撃できる選手を開いて配置する。そして中央に的となる選手1人とつなぎ役となる想像力を持った選手を2人置く。W杯は対戦相手によって、様々なフォーメーション(ブラジル代表ではそれをソリューションと呼んでいる)で戦う。どの選手も競い合っており、たくさんの選手を試している。今回はとてもよい機会だった」(サンパイオコーチ)

またチチ監督は、試合の2日前の練習で、リシャーリソンとヴィニシウス・ジュニオールの喧嘩の動画についての質問に、フェイクニュースだと語った。

「フェイクニュースだ。そんなことはまったくないと断言できる。ここにいるメディア関係者の皆さんは影響力を持っているので、不確かな情報を流すときは最大限の注意を払ってもらいたい」(チチ監督)

試合前日の会見でも同様だったが、チチ監督は質問者に対し、質問者の名前を呼んで敬意を払いながら答えていた。日本語で「ありがとう」「こんばんは」とあいさつをする姿勢も含め、非常に人間性の高さ、真摯な人柄を感じさせた。適宜サンパイオコーチとファビオフィジカルコーチに回答を振る質疑応答の対応からは、コーチたちチーム関係者を信頼して、チーム一体で戦っていることも感じられた。

続いて、日本代表の会見が行われた。

試合前日の会見と同様、森保監督一人が壇上に上がった。

「昨日の前日会見でも話したが、選手たちに話していたことを準備して試合に臨んだ。選手たちは我慢強く、攻撃の姿勢を失わず戦う姿勢を見せてくれたが、結果が伴わなくて残念だ。惜しいではダメなことはわかっている。試合全体を通して、選手たちが今できることを続けてくれたことは、未来につながると思う」とコメントした。

記者会見が終わったのが22:50頃。会場を出たのは23:00頃になっていた。この日の観衆は、63638人。チケットは完売。満員の観客が入っていた。

充実感のある試合観戦になったが、ここで私が感じたことを簡単に述べたいと思う。

ブラジルとしては、勝つには勝ったが、奪ったゴールはPKの1点のみ。世界1位の貫禄を見せつけることができなかった。かなり欲求不満のたまる試合だったのではないだろうか。

PA内まで入り込むことはできても、ことごとく日本のDFブロックは跳ね返していた。日本は集中力を切らさずよく守りよく戦った。

ブラジルは、一つ一つのプレーが少しずつずれていたのか、パスもつながらない場面が多かった。

皆が期待した世界的なスタープレーヤーであるネイマールも、さすがネイマールというシーンはあまり見受けられなかった。日本の選手たちに止められる場面もかなりあった。

コンディションが悪いという感じでもなかったが、ブラジルらしい華麗でスペクタクル溢れるサッカーは見られなかった。

ゴールを奪えない焦り、いらだち、負けるわけにはいかないというプレッシャーから、必死さ、本気さを出させられたことは間違えないと思う。

誰がよくて誰が悪かったというわけではないが、チームとして機能できなかったと言わざるを得ないだろう。

世界ランキング1位という看板を引っ提げて、念願のW杯優勝という絶対的な目標を考えると、この内容・結果をどう捉えればよいのだろうか。韓国戦での快勝、お祭りムードから一転して、危機感を持たざるを得なくなったと言わなければならないだろう。

一方の日本は、本当によく戦った、いや闘ったと思う。

DFラインは、絶対守り抜くという気概のようなもの、何か魂の叫びのようなものを感じさせられた。

要所要所で、球際で激しく当たっていることが印象的で、全員が全員、ハードワークに徹していた。

森保監督の前日会見で述べたことを選手たちは試合で体現しており、ある種の感動のようなものが感じられた。

しかし、だからといって、日本が安泰か、といったらそうではないと思う。

頑張った、心が揺さぶられるほどにハードに闘った。これは確かなことだと思う。

しかし、勝負には負けたのだ。勝ちでも引き分けでもなく、負けたのだ。

2018年のW杯のベルギー戦と同じことと言えるかもしれない。奪われたのはPKの1点だけだったが、負けたのである。

また、試合の流れとして、集中力を切らさず、最後まで闘えたが、ブラジルの開始2分のポストに当たったシュートがゴールに入っていたら流れはどうなっていただろうか。

希望を持てる内容だったが、まったく安泰ではないと思う。

今回、久しぶりに日本でサッカーが盛り上がった。中継したテレビの視聴率もよかったようだ。サッカーファンの一人として嬉しい限りだ。

ブラジルサッカー好きの日本人として、永遠に語り継げるほど貴重な試合だったと思う。

素晴らしい試合だったかどうかはわからないが、とてもおもしろい試合だったことは確かだ。

そんな試合を目の当たりに出来たことに感謝したいと思う。

(文/コウトク)

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著者紹介

コウトク

2005年6月~2012年6月まで仕事の関係で、ブラジルに在住。ブラジル在住当時は、サッカー観戦に興じる。サントス戦については、生観戦、TV観戦問わずほぼ全試合を見ていた。
2007年5月のサンパウロ選手権と2010年8月のブラジル杯のサントス優勝の瞬間をスタジアムで体感。また、2011年6月のリベルタドーレス杯制覇時は、スタジアム近くのBarで、大勢のサンチスタと共にTV観戦し、優勝の喜びを味わった。

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